見出し画像

「うえまち」大阪考 05「うえまちを代表する能と文楽」

2つの能楽堂

 「うえまち」の範囲、上町台地には2つの能楽堂、大槻能楽堂と山本能楽堂があります。大槻能楽堂には、人間国宝の大槻文藏先生がおられます。山本能楽堂には、ご当主の山本章弘先生、奥様で事務局長をされている山本佳誌枝(よしえ)さんがおられます。私は親しみを込めて、佳誌枝ママと呼ばせていただいていますが、佳誌枝さんが能楽を広く文化として発信したい、もっと敷居を下げたいということもあり、「うえまち」で何度か取材させていただく機会がありました。

実は50年前にさかのぼります

 私の個人的なことなのですが、50年ほど前に、能楽の謡(うたい)の稽古をしていたんです。高校から大学の7年間、稽古を重ねていたことを、なにかの機会に、妻が佳誌枝さんに話してしまい、それならもう一度始めましょうよ、ということで8年ほど前から山本章弘先生にご教授いただくことになりました。
 そして、ucoの山口さんはじめ、いろんな方をご紹介するようになった次第です。

見所(けんじょ)でマンツーマンのお稽古

 びっくりしたのは、山本能楽堂の能舞台の横、観客席(能舞台の観客席を見所といいます)で、山本先生とマンツーマンのお稽古という贅沢だったんです。厳しくも懐の深い先生で、この集中した真剣勝負という時間と空間が、仕事ばかりの私にとっては非常に代えがたいストレス発散の場となっています。
 山口さんは、まだ練習の緊張で、逆にストレスになっているかもしれませんが、この空気感は何事にも代えがたい体験だと思います。

芸能の口伝の力

 稽古した演目には、多くの気づきがあります。おこがましくて理解ができるとまでは言いませんが、奥行きを感じることができます。
 謡の稽古は、先生が謡われるのをそのまま真似るという、非常にシンプルな練習方法なのですが、日本の芸能の原点というか「口伝」の力を感じます。
 テキストとして謡本があり、謡う詞章の右側に「ゴマ」と称する、それこそゴマのような符号が記されています。ゴマは、明治時代に浄土真宗の経典を読む際に使われていた記号を、謡本に応用したものです。テキストと先生の謡は、微妙に異なり、ゴマだけでは表現できない部分があるわけです。先生の口伝を体得することが、お稽古の基本となります。

世界遺産「文楽」

 うえまちには、能楽とともに、世界遺産「文楽」があります。こういった世界遺産が歩いていける距離に存在する、ということが「うえまち」の素晴らしさでもあります。私は、文楽については鑑賞だけですが、足繁く通っていると見えてくるものがあります。
太夫(文楽での物語の語り手)さんの熱量の伝わり方とか体験するとわかりますが、本当にすごいです。この言葉にはそういう意味があったのか、とか、今日は調子悪そうだな、体調が良くないのかなとか。そんな空気感まで、わかるようになってきます。
そういう事も含めて、多くの方に「うえまち」の能楽や文楽を楽しんでいただきたいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?