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僕の初めては113秒。①

「またしようね」と、赤い唇が動いた。
 そして制限時間ギリギリとなった彼女は、そそくさと部屋を出る。その後姿を見て僕は思った。

 残念だけど、それはない。
 僕の初めては終わってしまったから。


僕の初めては113秒。


 ある日の夕方、家へ帰ろうとする僕に頭上から声がかかった。
 雑居ビルの路地裏を思わせる通り。空を見上げると、5階建ての建物の屋上に声の主はいた。逆光で顔が見えない。しかし、柵の外側に立ち、今にも落ちそうな状況は把握できた。周りに人影はなく、声がかけられたのが自分だと気づく。

「なあ、お前の初めてって今までで何秒?」

 不思議と男の声はよく通った。まるで50cm幅のテーブルを挟んで会話しているようだ。

「何でお前は生きてんの?死にたくないから?──いや、そんなこと普段考えねーか」

 つーか怖い。人を呼ぶか?それとも逃げる?そんなことを考えたが、視線は男に釘付けとなり、両足はピクリとも動かなかった。
「何で生きてる?」なんて、どうして見ず知らずの奴に言われなきゃならないんだ。

「そうやって楽しくもつまらなくもなく生きて、意味あんの?」

 だから、何でそんなこと言われなきゃならないんだ?触れられたくないところをえぐられた気がして、胸やけがした。

「子供ん時もそんなこと考えなかったけどさ、今よりももっとわくわくしてたよな。小さなことでも楽しめたっつーか……あ、そーか、初めてのことだらけだったからか」

 男は一人納得したように頷いている。やっぱり逃げよう。こいつ、ヤバい奴だ。

「今からでも、お前の初めてを計算してみ?なんか違うかもよ」

 そう言って男は宙を舞った。
 ──ウソだろ。マジかよ!?
 衝撃の光景だった。まさか本当に飛び降りるなんて。そんな前ぶりなかったじゃないか。
 一直線に自分に向かって落ちてくる男。無駄だとわかっていても、両腕で頭をかばった。瞼が自然と閉じられる。

 気付いた時、僕は自室のベッドの上にいた。

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「楽しくもなく、つまらなくもなく生きて意味あんの?」その一言が僕を変えた。──平凡な日常を淡々と過ごしていく中、男と出会った。 その日から…

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