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6:バナナミルクと私の居場所

小料理屋「凛」は本当に近所にあった。込み合った商店街の中のお店くらいの広さだが、狭くは感じない。きっとおばさんのセンスがいいのだろう。

予め真己から話が通っていたようで、おばさんは驚くことなく快く迎え入れてくれた。まだ夕方ということもあるのか、お客さんの姿はない。私は軽く挨拶をして、昨日両親から聞き出した手土産を渡した。ちなみに真己のシャツは会ったときに返している。

「菜々子ちゃん、今日はゆっくりしていってね」
「はい。ありがとうございます」

おばさんは真己に今日は店を休むように言っていたので、私は普段の真己の様子が見たいとお願いしてみた。気を使ったわけでも何でもなく、本心だった。

実際そう言って、おばさんは助かったようだ。失礼なことかもしれないが、私が思っていた以上に繁盛していたからだ。真己とおばさんの他に、もう一人バイトの男の子がいるのだが、それでも目の回るような忙しさである。

カウンターの端で今まで黙って見ていたけど、食事も終わったし、どうもじっとしていられない。これでも食事を頂いたらお礼をするという義理堅い面があるのだ。

私はそっとカウンター内(いわゆる厨房)にいる真己に声をかけた。

「ねえ、何か手伝うことない?」
「え?いいよ。菜々子はお客さんなんだから」
「そんなこと言わずに。手伝いたいのよ。真己だって家でご飯食べたらお手伝いしたじゃない」
「子供が出来る範囲だったよ」
「もー、変に謙遜しないでよ。私、高校の時に飲食店でバイトしたことあるから、ちょっとは役に立てると思うよ?」

なかなかいい返事をくれない真己に、おばさんの一押し。

「菜々子ちゃんが手伝ってくれるなら助かるわー。今日は特に混んでるから」

真己はしぶしぶ承諾した。

おばさんからエプロンを借りて、料理を運んだりテーブルの片付けなど、レジ以外のことを担当した。食器洗いでもよかったのだが、あまりさせてはもらえなかった。華は見える所(カウンターの外)へということらしい。それは冗談で、手を荒らしてはいけないと気を使ってくれたんだろう。

手伝い開始から二時間くらいでお客さんの足は減った。お店兼住家なので、きっちり午後11時半には閉店することを常連さんも把握しているそうだ。

それでも半分以上は席が埋まっていたが、三人いれば余裕だというので私のお手伝いはここで終了。

「お疲れ。送っていくから、ちょっと待っててな。飲み物、来た時に座ってたところに用意してあるから」
「ありがとう」

エプロンをたたみ、手荷物を持ってカウンター席に腰を落とした。真己の言っていた通り何やら飲み物が用意されている。クリーム色の無炭酸のようだ。炭酸が飲めないことを覚えていてくれたんだと、くすぐったい笑いがこみ上がる。

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「側にいてよ。幸せにしてよ。また菜々子って呼んでよ」──失って初めて気付く、その存在の大切さと秘めた想い。人を愛するというのは、どういうこ…

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