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7:約束

もしかしてと思い出したことだが、あのナンパの日の帰りも、真己は私を送るために誘いにのったのではないだろうか?買出しの品を手にして、店が忙しいことを忘れるとは思えない。

「真己くんの優しさは誰にでも向けられるけれど、菜々子だけに向けられた優しさがきっとあるはずだ」

ふと、父の言葉が頭に浮かぶ。私が気づいていないだけで、父さんにはわかるものがあるのだと。だから父さんは「真己だったら安心だ」と言ったのだ。

私だけに向けられた優しさがあるとしたら、それは一体何なのだろう?
毎回部屋まで送ってくれたのも、ナンパ事件の時に見せたようなさりげない気遣いや、好きな飲み物を覚えていてくれたのも、全部私だけに向けられた優しさだとしたら、一体何だというのだろう。
そんな風に考えていくと、全てがそう思えてくるし、単なる自惚れにも見えてくる。
そう、例えばこんなことがあった。

真己が店を継ごうと決心した理由は、「好きだから」らしい。酔っ払ったオヤジが多くても、仕込み作業がきつくても好きなのだと。

「疲れた顔して入ってきたオヤジさんたちが、料理食べて酒飲んで、たまに愚痴言ったりしてさ、それでも最後は元気になって帰る姿見たら、俺も頑張ろうって気になるんだ。自分の作ったもので喜んでもらえるのは、やっぱ嬉しいもんな」

本当に嬉しそうに語る真己の顔を見て、共感した私は大きく頷く。

「わかるなぁ、それ。何かさ、お互いに分け与えてる部分があると思うんだよね。私たちはおいしい食事で、お客さんは感謝の気持ちっていうのかな。暖かい気持ちを伝え合ってるって気がする」
「お、話がわかるね、菜々子さん。どう?俺とずっと一緒にこの店を切り盛りしていかないか?」
「クビにされない限り、喜んで」

冗談ぽく言っていたし、この後は談笑して終わってしまった会話だ。
最後の言葉は、受け取りようによっては告白にも聞こえる。でも私は、ただ意気投合した二人の会話にしか聞こえなかった。

ここではたと気付いたことが一つ。私は、真己のことをどう思っていたのだろう?一緒にいるのは楽しいし、ただの幼馴染みよりかはうんと大切な存在だ。でも……

「ねえ、お父さん。一緒にいるのが当たり前だと思うからって、恋愛の好きとは言えないよね?」

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「側にいてよ。幸せにしてよ。また菜々子って呼んでよ」──失って初めて気付く、その存在の大切さと秘めた想い。人を愛するというのは、どういうこ…

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