女という性、紅の血①
キーンコーンカーンコーン……
4時間目の授業が終わり、生徒達は各々行動を開始する。私は今の授業のノートをとるのに時間がかかり、未だ机に向かったままだが、後ろの席にいる野中泉(のなか いずみ)さんは例外ではなく、友達二人と話をしながら昼食を机の上に並べていた。
「えー! 泉ってばまたふっちゃったのー?新井(あらい)ってE組のマジメ君でしょ? いい奴じゃん」
友人の一人がそんなことを口走りながらパンの袋を開ける……音がした。
手は黒板に書かれている文字を写すために懸命に動いているが、耳は聞こえてくる会話に釘付けとなった。
野中さんは答える。
「いい人ね……私にとってはどうでもいい人だわ」
なかなかキツイ性格だ。
「でも泉ってさ、何で彼氏とか作らないの?新井もお試しに付き合ってみればいいのに」
先程の発言者は本当に不思議そうに尋ねた。新たな声がそれに対し呆れた口調で言葉を発する。
「あんたってお試しで人と付き合ってるの?」
「そうよ。初めからこの人が運命の人なんだわって思ったら、なんか重くない?」
「はーい! あたしは人それぞれだと思うな。泉はそういうタイプじゃないんでしょ」
「私は……運命にはあまり興味ないわ。ただ、告白は好きな人から言ってもらいたいだけよ」
「おおー! ということは好きな人がいるんですねー?」
「ふふ、内緒」
安っぽいレポーターがインタビューするように、友達は野中さんから好きな人の情報を得ようとしていた。野中さんはうまくはぐらかしてその質問に付き合う。
私は写さなければいけない量にも、後ろの会話にも、いささか嫌悪感を抱き頬杖をついて一つため息をもらした。
「でも告白されて嬉しいとは思うよね?」
「そうね……あんまり思わないかな」
「え!? 私なら嬉しいけどなー」
野中さんは一呼吸置いて口を開く。
「私はダメなの。どうでもいい人から告白されても意味ないし、ましてや付き合うなんて時間と労力の無駄だわ」
「意味ないだってー。新井もかわいそー」
友達は言葉とは裏腹に楽しそうに笑いながらそう言った。
名前と顔が一致しない新井君とやらもかわいそうな人だ。勇気を出したであろう告白も、昼時の談笑ネタにされてしまい、私にさえも同情されてしまうのだから。
授業終了から5分以上経過していたため、私は集中してノートを書くことにした。いくら聞こえてしまうこととはいえ、やはり盗み聞きはよくない。
でも……頭の片隅では今の会話のことを考えてしまっていた。野中さんのあの発言。きついけど、はっきりとした意見を持っているのは確かだ。
もし、彼女の言う『どうでもいい人からの告白』が『意味のないこと』だとしたら、『好きな人がいる人を好きになる』ことはどうだというのだろう? 好きになってもらうための努力は必要?
私は知っている。
野中さんの好きな人には彼女がいること──
綺麗な矛盾だと思った。
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