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SCENE14:出迎えた者は?【智孝】

 連絡が入ったのは、到着時間10分前のことだった。
 研究施設は山間地帯に位置し、車で付近まで向かった後は徒歩での移動となっていた。その車内でよからぬ連絡がMARSから届いたのだ。

「工場内より、生物兵器と思われる物体が脱走。我々は捕獲に向かう。合流地点でその詳細を確認後、資料収集の任務を続行せよ」

 それを聞いて車内がざわつく。
 これに智孝はいささか疑問がわいた。今回のテストは実戦的過ぎる(・・・・・・)のだ。MARSの関与はこれまでも度々あったが、それにしては情報が少なく、どことなく濁っている。

「なんというか、ちょっと出来過ぎてるね。演出なのかな?」

 遼太朗が代弁する。そうなのだ。テストを審査する字守達も、何が起きてもいいようなメンバーで構成されていることにも引っかかった。このトリガーは何を意味しているのか? その注意を字守たちの間で交わされた後、合流地点へと到着した。
 それからは生物兵器の目撃情報と、施設内の管理室へ向かったMARSのメンバーによる施錠状態の報告を聞き、いよいよ戦地へ赴くことになった。
 敷地内は驚くほど静かだった。闇に包まれた木々が風によって葉を揺らす音だけが取り残され、他には何も感じられない。人の気配も、何もだ。
 それもそのはずで、研究施設に辿りつくまでの間に、いくつもの死体が智孝達を迎え入れていたのだ。
 生物兵器にやられたのか、体には何かに引き裂かれたような傷痕や、獣に喰いちぎられたような痕もあった。
 諫美や有羽は初めて見る景色に恐怖を募らせる。胸やけや悪寒が起こり、その感覚にも顔を歪ませた。零れそうになるショックの声を必死に呑み込んでいる。
 その人の道を素通りすると、研究所の入口はあった。報告通り、出入りが容易で電気も通っているようだ。

「しかし……静かだな」
 自分の声が妙に響いた。

 既にMARSは生物兵器を捕獲したのだろうか?建物の内部の構造も目標物もわからず、こんな闇夜の中、自分達が到着する3~40分程度で?
 全滅してしまったのかと思うほどの静寂に、智孝を始め、字守達は生物兵器ではない敵の存在を危惧する。
 悲鳴も銃声も何一つ耳に届かず、もう起き上がることのない人達が、無言のまま自分たちを出迎えた──

「それにしても酷いですね。本当に俺達が来る少し前に襲われたんでしょうか?」

 実春が傍らに寝転がっている人を見つめながら、誰ともなく質問を投げた。それに遼太朗が答える。

「傷口の状態から見ても、ちょっと怪しいけどな。まあ、それよりも問題は、ここでやられてるってことは、生物兵器が中にいる可能性が高いってことだね」

「また外に出ていればいいんだけど」と付け足したが、ここに来るまでの状況を考えればそれは明白なことだった。
 智孝は出入口付近にあった建物の簡略図を時計に内蔵されている端末に取り込み、字守たちに転送する。受け取った字守たちはテスト生へと送った。
 その間、生物兵器がいるかもしれないことを注意し、潜入を開始する。
 担当場所である3階に階段で向かう間にも沈黙の人間とすれ違うと思いきや、今度はぱたりと姿を現さなかった。今度こそ本当に人の気配も何もない。
 調べる部屋の一つ一つにも人がいた痕跡もなく、不気味なほどにひっそりとしていた。

「あの傷痕って、人がやったんじゃないよね?」

 不意に有羽が不安を口にした。鋭い4本爪で切り裂かれたような傷を見てだろう。しかし、獣独特の匂いがしない。人の可能性も低いが、動物にしてはという矛盾が多過ぎた。そんな会話の中で、諫美がぽつりと漏らす「何で生物兵器なんか作ったんだろう?」と。

「ま、どーでもいいけど、自分達が作ったものにやられるなんて皮肉なもんだね」
「──あれ?」

 自分達が上がってきた階段の方を見つめながら、有羽は歩みを止めた。
 その様子に皆の足も止まる。「どうした?」と声をかけると、有羽は視線をそちらに定めたまま返事をし、後に「今、人がいたように見えたの」と告げた。

「人? 研究員か?」
「ううん、女の子みたいだった。小さい……といっても小学生くらい。低学年の」
「女の子?」

 まさか。こんな時間に。一時は騒然としていたであろう外に出て、わざわざこの建物に入った?

「見間違えたかな? 私見てきていい?」
「ダメだ。こんな所に子供がいるわけないだろ」

 だがしかし、騒動で起きてしまい、逃げるにも親とはぐれてしまったのかもしれない。そんな気持ちを代弁するように有羽は反論する。「ここに逃げ込んできた研究員の子かもしれないよ?」と。

「……わかった。じゃあ、俺も一緒に見に行くから、遼太朗、先に調べていてくれ」
「了解」

 事前にコピーとして渡されていたカードキーを渡し、智孝は先を進んだ。有羽も小さく謝って後をついてくる。
 敵の可能性もあると警戒しながらも階下を覗くが、そこには何の姿も気配もなかった。

「誰もいないぞ?」
「ホントだ。おかしいなぁ」

 有羽は智孝の背中からつま先立ちになりながら辺りを見回すが、先程見えた女の子の姿は見えなかったようだ。腕を組み、唸るようにして考え込む有羽に戻ろうと声をかけようとしたところで、1班のリーダーである上原から連絡が入る。
 地下の存在とそこに潜んでいるだろう生物兵器についてだった。

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