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女という性、紅の血②

「堀江(ほりえ)、倉持(くらもち)知らないか?」

部長に声をかけられ、私は倉持正吾(しょうご)の居場所を告げた。

「さっき水飲み場で見かけましたけど」
「随分長いな。まさかさぼってんじゃないよな?」
「はは、ちょっと怪しいですね。彼女の姿も見ましたから」
「まったく……悪いが呼んできてくれないか? タイム計るから、その準備もよろしく」
「わかりました」

マネージャーという立場上、部長の指示に従い準備と呼びかけに向かう。

私と正吾は小・中・高校が同じという、幼馴染みと言うよりかは腐れ縁と言った方がふさわしい関係にいた。
正吾は陸上部のエースで、見ようによっては練習姿が格好よく見えるかもしれないが、私は彼との間柄を抜きにしてもミジンコ程にしか好意はない。
気の置けない相手であったとしても、お互いに恋愛感情などないのだ。いや、むしろお互いのことをよく知っているからこそ、好みの関係で合わないのだろう。

正吾の性格は私とは違ってバカに明るい。それが功を奏しているのか、彼に敵意を向ける人など殆どいなかった。
敵意を向けられるどころか好意を向けられることの方が圧倒的に多い。
──そう、野中さんのように。

「調子いいな、倉持」
「へへー、部長も彼女できたら記録更新できるんじゃないスか?」
「お前はどうしてそう一言多いんだ」

本当、バカな奴である。正吾の彼女も野中さんも、奴のどこがいいのかさっぱりわからない。

「どうだ?聡子」

私の考えなど想像もしていないであろう正吾は、うきうきとした様子で話しかけてくる。私は記録をつける手を止めることはせずに口を開いた。

「いいんじゃない?」
「相変わらず無愛想な奴。あ! そういえばお前さっき部長に余計なこと言っただろ?」
「余計なことって?」
「彼女とさぼってるって部長に言ったんだろ? すんげー怒られたんだぜ」
「自業自得でしょ、バカ」
「あん時休憩中だったんだよ。さぼってたわけじゃねーって」
「どうだか」

あまりにもむげにしたせいか、正吾は黙り込んでしまう。
が、何を考えたのか、次の言葉で私は呆れ返る結果となった。

「わかったぞ。俺達が羨ましいんだな?」
「一生言ってなさい」

本当にどこがいいんだろう?
タイミングよく一区切りついた仕事の片付けをしようと、私は正吾に背中を向ける。と、その時に視界に入った人物で足を止めた。

──野中さんが見てる。

「お、野中だ。あいつ美人だよなー。付き合ってる奴とかいるんかな?」
「は? あんた、そんなこと言っていいの?」
「何かまずいか? ただ彼氏でもいるのかなーと思っただけだぜ? だからどうするってわけでもないし」
「……そっか」
「そうそう、ノープロブレン」

カラカラとまるで青空のような笑顔を浮かべる正吾を見て、ふと思った。
野中さんは、一体どうしたいのだろう?


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