『女王陛下のお気に入り』 ひたすら面白い映画に会いたくて 〜64本目〜
野心、愛、嫉妬。この辺りの感情が生々しく描かれているのが本作の特徴だ。本作では貴族たちが、現在の我々のような人間味溢れる存在として描かれている。まさに歴史作品という皮を被った現代喜劇である。本作は間違いなく稀代の作品だと言えるだろう。
64本目 : 『女王陛下のお気に入り』(2018)
『女王陛下のお気に入り』(2018)
脚本 : デボラ・デイビス、トニー・マクナマラ /
監督 : ヨルゴス・ランティモス
「Balance of Power」
物語の概要&本作の見所
舞台は、18世紀初頭のイングランド宮廷。おそらく「スペイン継承戦争」真っ只中なのだろう。イングランドは、ルイ14世が統治するフランスと交戦中であった。
この戦争は、イングランド・オーストリア・オランダ連合軍vsフランスという陣営に分かれて行われていた。
本作は、このような戦争下で繰り広げられる女同士の壮絶な宮廷バトルだ。なんと主役は戦争に行っている男たちではなく、3人の女たちなのである。
転んでも決してタダでは起き上がらない。こうした女たちの粘り強い戦いぶりには、恐怖すら覚える。自分が成り上がるためには、たとえ道徳的に反したことであっても躊躇うことなく行う。そのような強靭な精神力を彼女たちは持っているのである。
戦争を継続か終結か。本作はこの世界史的にも重要な決断に影響を与えた、3人の女性たちによるパワーゲームを見事に描き切った傑作であった。
魅力的すぎる3人の主役たち
ここで主役である3人の女性を紹介しておこう。
☆アン女王(オリヴィア・コールマン)
イギリスが、「グレートブリテン王国」になってから初めて君臨した女王。わがままで寂しがり屋で、少々子供っぽいところがある。幼い頃からサラを信頼している。サラとアビゲイルによる自分の取り合いを楽しんでいる。
☆レディ・サラ(レイチェル・ワイズ)
アン女王を意のままに操り、絶大なる権力を握る存在。アン女王の代わりに宮廷を取り仕切っている。この当時最も強力な政治権力者の一人であった。女王に向かっても遠慮なく物を言う。アン女王の幼馴染であり、彼女にとって特別な存在だ。
☆アビゲイル(エマ・ストーン)
上流階級だったが、父親が賭けに負けて没落。召使いから始まり、侍女、寝室付き女官へと成り上がっていく。人の懐に入り込むのが恐ろしいほど上手い。また、人を魅了する才能を持っており、冷静で賢い本作のダークホース的存在である。
この主役3人の演技力がとてつもなく素晴らしい。きっと観る者は彼女たちの演技に虜になってしまうはずだ。
本当に3人それぞれが個性的で良いキャラをしている。この3人のやり取りならば、ずっと観ていられるのではないかと思ってしまったほどである。
特にエマ・ストーンの表情で魅せる演技には、脱帽である。セリフがないシーンでも、彼女の表情を見るだけで余すことなく彼女の感情が伝わってくるのだ。これはものすごかった。
私の1番好きな場面
私の1番好きな場面は、アビゲイルとマシャムのやり取りである。ラブシーンがあるのかなと匂わせておいて次の瞬間、一気にフルスロットルで観客を笑いへと誘ってくれる。そんな素晴らしい場面の連続なのだ。これがたまらなく面白い。
アビゲイルに寄ってくるマシャムに対する接し方が最高にクールであった。彼女の唇を狙ってくる彼を見事にかわし続けるのだ。彼に「キスをさせる」と油断させてからの「芸術的な蹴りを急所に入れる」場面には、面食らうことだろう。めちゃくちゃ笑えるシーンであった。
こうしたアビゲイルによる男の扱いぶりは、本作の見所の一つだ。マシャムへのあしらい方なんてどれも素晴らしかった。特に結婚式初夜のアビゲイルのマシャムへの接し方は映画史上に残る名シーンではないか。
これらのシーンを見事に演じ切ったエマ・ストーンに賛辞を送りたい。
最後に
本作はこのように笑い所がたくさん用意されており、非常に観やすい作品となっている。
18世紀初頭におけるイングランドの歴史を、ここまでクオリティの高いコメディ作品へと仕立て上げるとは。本当に素晴らしい。
本作は私にとって、初めてのヨルゴス監督作品であった。かなり面白かったので、彼の他の作品もぜひ観ていきたいものだ。
予告編
↓映画『女王陛下のお気に入り』の予告編です↓
(出典 : 【YouTube】フォックス・サーチライト・ピクチャーズ「『女王陛下のお気に入り』日本版予告編」)
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