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満洲引揚三世の備忘録

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#読書感想文

[10] 『記憶を拓く 信州 半島 世界』(信濃毎日新聞社編集局編、同社刊、2021年)を読む

 象山に穿たれた地下壕は真夏でもひんやりしていた。掘りかけの壁は荒く、作業をしていた人たちの気配がまだ漂っているかのようだった。

 松代大本営地下壕で働いていた朝鮮人労働者は強制連行されてきたという案内板に対し、強制ではないという抗議があってその記述が修正されたという報道があったとき、どうにか事実を突きとめられないものかと思った。

 どんな人がどのように働いていたか、当時を知る人たちの間では共

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[7]集団自決で女性や子どもを介錯した人は犯罪者か?――『麻山事件』読後感想

 『麻山事件』(中村雪子著、草思社、2011年(1983年刊の文庫版))読了。

 1945年8月、北満の麻山で避難中の400名余りの女性や子どもたちが自決した。自らも引揚者でもある著者は、愛知県庁引揚援護課に一年間通い詰めて資料を書き写し、生存者たちに会って話を聞き手紙でやりとりしながら、13年かけて麻山事件の全容を明らかにしようとした。
 そのとてつもない執念のおかげで、麻山の集団自決事件の経

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