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オトナゲーマーの生存戦略

オトナゲーマーは若者に勝てないのか?
自分ではどうしようもない「年齢」という要素は、どれほど上達を阻むのか。分かっているデータを使ってなるべく客観的に検討してみる。

年齢にまつわるデータ

スプラトゥーン2のデータ

2020年8月にYouTubeとTwitterで募集された5716名のデータが出てきた。ゲーム関連では珍しい規模のデータだ。

こちらのデータを検討してみる。結果は以下の通りだった。

  • 年齢とプレイ時間はあまり相関しない

  • プレイ時間とXパワーは相関する

  • 若いほど短いプレイ時間でウデマエXになる傾向がある

  • 10代後半が最もXパワーが高い (平均値)

    • 以降は年齢が上がるにつれてXパワーの平均が低くなる

    • 10代後半と40・50代の平均Xパワーの差は200前後

このデータは、次のように解釈できる。

  • 若いほうが上達が早い

    • 年齢によるXパワーの差は、成長速度の差に由来するかもしれない

    • 年齢によるXパワーの差は、プレイ時間の差では説明できない

  • (プレイ時間に比例してXパワーが高くなる = 一般的な成長曲線がありそう)

ただし、データは絶対ではない。いくつか注意すべきポイントがあるため、そこから考えた上記の解釈は参考程度の意味合いになる。

  • ゲーマー全体を代表する一般集団とは言えないかもしれない

    • YouTubeやTwitterで情報収集するほど熱心なゲーマーである

    • YouTubeやTwitterを利用している年齢層である (一定以上/一定未満の年齢が少ない)

    • Xパワーを自慢したい・Xパワーに不安を持っているなど、特定の動機を持つ人が参加しやすいかもしれない

  • ある時点のデータに過ぎない

    • 年齢を重ねるとともに生じる変化は分からない
      (だんだん下手になっていく、とは言っていない)

他のゲームのデータ (日本語検索)

これはスプラトゥーンに限った傾向なのか。他のゲームでのデータを見つけるべく、まずは日本語で検索した。ゲームのスコア/ランクを分析している研究はほとんどなかった。唯一見つけることができた研究を示す。

  • Gigazineの記事 [3] https://gigazine.net/amp/20140416-brain-decline-start-24

  • 元論文 (2013年) [4] https://doi.org/10.1371/journal.pone.0094215

    • 対象ゲーム : StarCraft II (リアルタイムストラテジー RTS)

    • 対象者 : 3305名 (16-44歳), 7ランク

    • 結果1 : ランクに最も相関するのは反応速度

    • 結果2 : いずれのランクでも24歳をピークに反応が遅くなっていく

    • 考察1 : "クリティカルエイジ" で説明できるかもしれない

    • 考察2 : 年齢が上の高ランカーもいる

      • 推測 : "思考・反応のショートカット" を持っている

"クリティカルエイジ", "思考・反応のショートカット" という興味深い考え方が出てきた。これについては、後に解説する。

他のゲームのデータ (英語検索)

さらなるデータを求めて英語でも検索したが、求めているデータは得られにくかった。そこでGoogle Scholarで[4]の関連記事を検索したところ、1つだけ見つけることができた。

  • 2015年の論文 [5] https://doi.org/10.1109/TCIAIG.2015.2393433
    (本文を入手できなかったためAbstractのみの情報)

  • 対象ゲーム : Battlefield 3 (FPS)

  • 対象者 : 10416名 (年齢分布不明)

  • 結果1 : 初心者の頃の上手さは20歳前後がピーク

  • 結果2 : 年齢が上になるほどパフォーマンス/ゲームスピードが低い

    • 推測される原因 : 能力低下, 良心的な性格変化, ゲームへの達成感の希薄化など

やはり、パフォーマンスは20歳前後をピークとする分布になるようだ。この研究の考察では、能力差以外にもゲームへのモチベーション低下が原因になりうるを指摘している。

限界 : データ検索の問題点

目的の研究結果が検索できていない可能性がある。(別の話題が検索に引っかかりやすい)

  • 論文検索サービスにおける "ゲーム" : 認知機能改善, 中毒性などの疾患と関連づける研究が大半 (ゲームスコアを研究対象にしていない)

  • "ゲーム" + ("レート" or/and "年齢") : ゲームの年齢制限がヒットする

クリティカルエイジ

スプラトゥーンに限らず、ゲームのパフォーマンス (ランク・スコア) は10代後半~20歳前後のプレイヤーが最も高い傾向がありそうだ。その原因は成長速度の差にあるかもしれない。

ゲームに限らず、特定の年齢での経験が成長を決定づけるという仮説があり、その年齢をクリティカルエイジと呼ぶことがある。(Wikipediaでは 臨界期仮説 と日本語訳されている)
つまり、年齢によるパフォーマンスの差は、クリティカルエイジがその年齢の前後にあることを示唆している、と言えるかもしれない。(前の段落で述べた「成長速度が年齢ごとに違う」ということを言い換えているに過ぎないが)

実は、スプラトゥーン2のデータとして紹介した結果について、同様の観点から批判している方が既に居た [2]。

データから得られた教訓 【まとめ】

  • ゲームのスコアを対象とした研究がほぼない
    (データによる結論は参考程度)

  • パフォーマンスは10代後半~20歳前後が最も高い傾向がある

    • その原因は成長速度の差にありそう

    • 反応速度は20歳半ばから遅くなっていく (これも原因かも)

    • ゲームに対するモチベーションの差かもしれない

  • 年齢が上の高ランカーもいる

    • 推測 : "思考・反応のショートカット" を持っている

つまり、年齢が上になってきたプレイヤーとしては次のように考える。

  • 時間はかかるが上位層に行ける!

    • (本当のトッププレイヤーには追いつけないかもしれないけれど…)

  • 反応速度以外で勝負するスキルを磨くべし!

    • = 即断するための工夫 : 戦略のパターン化, 操作の簡略化

若者対策 : 思考・反応のショートカット

若者よりも不利な条件なのは分かった。成長速度の他にも、反応速度が遅くなってくるという不利な条件もあるようだ。では、どのように対策するか。"思考・反応のショートカット" がヒントになるかもしれない。つまり、反応速度に頼らないテクニックだ。

  • 戦略のパターン化

    • 情報収集・考察をして自分なりにまとめる

  • 操作の簡略化

    • シンプルな武器を使う

    • エイム要求度が低い武器を使う

    • 既に慣れている武器があるなら、その慣れ (習熟度) を活用する

  • 反応速度の要素を少なくする

    • 画面情報の移り変わりが遅めの後衛ポジションになる?
      (敵が遠くなるためエイム要求度は高くなる)

おまけ : 若者と比較するとどうなってしまうか

彼らは成長速度が早いので…

  • スタート時期が同じなら常にランク差をつけられる

  • とくに成長中 (中位層) はランク差が大きくなる

  • 上位層で合流できる (お互いの成長が落ち着く時期)

  • お互いが同じプレイ時間の場合は、一度抜かされると追い越せない…

引用文献

  1. ななとGames. 2020 Aug 09.【世界初】実力×年齢×プレイ時間の関係をアンケート結果をもとに調査したら意外な結果に...【スプラトゥーン2】 . Retrieved from https://www.youtube.com/watch?v=5NEzEgyIytI.

  2. はぴもみ. スプラトゥーンのXPと年齢の相関の話についての補足的な考察|はぴもみ備忘録|note. [uploaded 2020 Aug 11]. Available from: https://note.com/happymomiii/n/n873a08808964. Accessed 2021 Jun 21.

  3. 脳の認識機能は24歳から低下することがゲームを使った調査で判明 - GIGAZINE. [updated 2014 Apr 16]. Available from: https://gigazine.net/amp/20140416-brain-decline-start-24. Accessed 2021 Jun 21.

  4. Thompson JJ, Blair MR, Henrey AJ. Over the Hill at 24: Persistent Age-Related Cognitive-Motor Decline in Reaction Times in an Ecologically Valid Video Game Task Begins in Early Adulthood. PLoS ONE. 2014;9(4): e94215. doi: 10.1371/journal.pone.0094215.

  5. S. Tekofsky, P. Spronck, M. Goudbeek, A. Plaat and J. van den Herik. Past Our Prime: A Study of Age and Play Style Development in Battlefield 3. IEEE Transactions on Computational Intelligence and AI in Games. 2015 Sep;7(3):292-303. doi: 10.1109/TCIAIG.2015.2393433.

ついでに分かったデータ

  • 3Dゲームに男女差はない (当初だけは男性が上手い傾向あり)

    • Harwell KW, Boot WR, Ericsson KA. Looking behind the score: Skill structure explains sex differences in skilled video game performance. PLoS ONE. 2018; 13(5): e0197311. doi: 10.1371/journal.pone.0197311.

  • チーム戦では対戦回数, チームメイト選び, 知力 (計算・暗記など), コミュ力 (他人を察する力) などが影響

    • Justin W. Bonny, Mike Scanlon, Lisa M. Castaneda. Variations in psychological factors and experience-dependent changes in team-based video game performance. Intelligence 2020;80: 101450. doi: 10.1016/j.intell.2020.101450.

  • 運動した日にゲームするとパフォーマンスが上がる

    • (15分のHIIT (高強度インターバルトレーニング) 後に対照群と条件を整えるために20分読書した後の比較)

    • DE Las Heras B, Li O, Rodrigues L, Nepveu JF, Roig M. Exercise Improves Video Game Performance: A Win-Win Situation. Med Sci Sports Exerc. 2020 Jul;52(7):1595-1602. doi: 10.1249/MSS.0000000000002277.

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