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【SaaS新成長戦略】ZoomのPLG戦略とは

近年で最も大きな飛躍を果たしたスタートアップ企業の一つに、Zoomが上がります。Zoomは、コロナ禍の需要を追い風に、フリーミアムモデルで、利用者の急拡大に成功しました。この成長の背景には、PLG戦略が存在します。今回は、PLGを選択したことで圧倒的な成長を遂げたZoomを基に、PLGのケーススタディをお届けします。

▼前回、PLGの概要説明の記事はこちら

ZoomのPLG戦略

まずは、Zoom CEO Eric Yuanの2018年Saastrインタビューから、「PLGらしさ」を表すエピソードをいくつか紹介したいと思います。

・プロダクト開発を最優先事項とし、創業最初の採用はエンジニア30名。ビジネスサイドの採用はしなかった。
・プライシングはシンプルにすべき。プロダクトが優れていれば、ユーザーは値上げに応じる(Zoomは、ユーザーから安すぎるというフィードバックがあり、月額$9.99から月額$14.99へと変更)。
・ログインの煩雑さを回避し、コールまでの手間をひたすら減らすことを開発当初はこだわった。
・無料版の設計が重要。最も効率の良い会議時間が45分であるとのデータから無料版を40分に設定。
・ボトムアップでSMBに広がれば、オーガニックにエンタープライズへとグロースする。

「プロダクトファースト」、「ネットワーク効果」、「無料版の設計」、「ボトムアップ」といった、PLGのキーワードと言える重要な要素が語られていることがお分かりになると思います。

こうした「プロダクトドリブン」を掲げるZoom創業当初のマーケティングは、シリコンバレー中心地を横断するRoute101の1枚の大型看板広告(約$50,000/枚)でした。(Zoomマーケティング部門統括Nick Chong ブログより)

当時のマーケティング責任者であったNick Chongは、HDクオリティで15人までが同時に接続できるビデオ会議ツールはZoomのみであったため、一度ユーザーに使ってもらえさえすれば、あとは”word-of-experience”で(ユーザーのバイラル)拡大していくという自信があったと語ります。

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出所:The 3 Secrets Behind Zoom’s Triple-Digit Growth

その後は、皆さんもご存知の通り以下の流れで利用者は指数関数的に増加していきます。

1.Route101周辺の感度の高いアリーアダプターがZoomをトライアル
2.彼らが、ミーティングのために相手方にZoomリンク送ることでバイラルを生み、登録者数が増加
3.多くのユーザーが、初回の利用で「通話品質の高さ」、「通話までの簡単さ」を実感し、継続利用
4.その後、無料版の40分では時間が足りないとプレミアムプランへとアップグレード (最も効率の良い会議時間が45分であるとのデータから無料版を40分に設定)
5.プロダクトが、エンドユーザーへリファラルで広まった後、エンタープライズ版をローンチ (創業から4年後の2015年にエンタープライズ版をローンチ)

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出所:Blog.zoom.us, It Hasn’t Slowed Down’:
Zoom the Top Video Conferencing App in Okta’s Businesses

このように、Zoomは創業期、ひたすらプロダクトの磨き込みに集中し、ボトムアップでのユーザー獲得を行いました。
事実、ミーティング最大参加人数200人、Webinar最大参加者数3,000名のエンタープライズ版(Large Meeting Plan)がローンチされ、本格的なセールスチームが立ち上がったのは、2015年2月シリーズC調達*以降になります。

*シリーズC時点では、ユニークユーザー数(無料ユーザー含む)が4,000万人に到達しており、いかにボトムアップでプロダクトが人口に膾炙した時点でエンタープライズ版をローンチしたのかが分かります。

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その後は、エンタープライズからの売上が加速していきます。

FY2019 Zoom売上の約33%が年間契約単価$100Kを超すエンタープライズからであり(FY2019 Zoom10-Kより)、OpenView Venture Partners調べでは、セールス人員も対昨年比で44%増加していることがわかっています。

創業初期はひたすらプロダクトを磨き込み、エンドユーザーによるボトムアップでの広がりを加速させる。そうして、プロダクト認知を獲得した上で、トップダウンセールスと組み合わせエンタープライズ顧客を獲得していく。

こうしたZoomのアプローチは、今後のSaaS成長戦略の定石となるかもしれません。

圧倒的な飛躍を遂げたZoomがPLG戦略を巧みに用いて、大規模なユーザーの獲得を実現しました。PLGの高い効果について、ご理解いただけたのではないでしょうか。
しかし、すべてのプロダクトにおいてこの戦略が適するわけではありません。PLGを取り入れるべきか、プロダクトの性質によって、判断をすべきです。
次回は、PLGを選択すべきか、判断するためのフレームワークをお伝えします。どのようなプロダクトがPLGと相性が良いのか、複数の考え方から解説いたします。
是非そちらも併せてご覧ください。

UB Venturesとは?

私たちUB Venturesは、サブスクリプションビジネスへの投資に特化をしたベンチャーキャピタルです。

2018年のファンド立ち上げ以降、複数のB2B SaaS企業への投資を行っており、起業家への支援を日々行っています。スタートアップへの投資を行う中で、単に資金を提供するだけでなく、ユーザベースグループの持つ、「SaaS起業のナレッジを提供する」ことが、私たちの強みであると考えています。

「 解約率のボラティリティが高い段階で、MRRを追いかけすぎていますね。まずはPMFにフォーカスしていきましょう。」

「成長ペースは速いですが、プロダクトの特性を考慮した売り方を前提にするとARPAが小さすぎます。過去私たちがサービス単価を上げた方法ですが…」

このような自分たちのリアルな事業経験に基づいたアドバイスやサポートを提供しています。

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■執筆者のプロフィール

高野 泰樹(たかの たいじゅ)

UB Ventures ベンチャーパートナー
2018年UB Venturesに参画。国内外SaaSスタートアップへの投資業務に従事後、2021年4月より熊川哲也主宰の株式会社K-BALLETに参画、バレエプロデューサーとして作品企画・製作業務を掌管。現在UB Venturesでは、PLG企業への投資・成長支援を担当するベンチャーパートナーとして在籍。国際基督教大学教養学部卒業。

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執筆:高野 泰樹 | UB Ventures ベンチャーパートナー
2021.10.8