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人類はまだエンタメ性をアンドロイドにちゃんと説明できない。


遊行剣禅先生の『パルプスリンガーズ』本編シリーズが異色の展開になっている。

ひとつ目マスクの屈強な男がアンドロイドを相手に「いかに観客を楽しませてプロレスの試合を盛り上げるか」を説明して学習させようとしているというのが現時点でのあらすじであり、このままでは銃撃戦の一つも起こらずに物語が終幕を迎える勢いだ。

物語は勝敗に関する二つの行き違いを右往左往している。

アンドロイドの機械的思考
・可能な限り高パフォーマンスを発揮して
・相手に何もさせず
・最短で勝利を収める

ヒューマンのエンターテインメント思考
・可能な限り互いの全力を発揮させて
・試合展開にうねりを呼び
・観客を盛り上げたうえで
・最終的に勝利を収める

つまりパルプスリンガーらしいエンタメ創作論の思考実験の場となっているのだ。

格闘エンターテイメントにおいて、
アンドロイド側の思考に関しては所謂「総合格闘技」思考とされている。
最短、最速、最強。強いものが勝つべく勝つ。人間的ドラマや心情的手加減の余地のないハイレベルな応酬を観客は期待している。彼の時空でも(特に言及されていないが)一定の支持を得ていると思う。

ヒューマン側の施行に関しては、所謂「プロレス的」なドラマ性が期待されている。苦境を耐えて逆転する。お互いに大技を放ち、それをあえて受けて強靭さを見せつける。大変にわかりやすく手に汗を握る展開だ。しかしながら、冗長、定型的、どうせ社長が勝つ、という批判されやすい構造にも陥っている。

エンタメ人類史の発展をなぞるように登場人物が論を交わし、イズムがぶつかるエンタメ性をめぐる論理プロレスはどこへ向かうのだろうか。

極まったプロレスは総合格闘技と区別がつかないという。互いの良いところを否定せず伸ばしながら落着してくれることを祈っています。

#パルプスリンガー #NOTE感想文 #人が死なない #人工知能 #AI #学習


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