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「最終戦争丼決勝大会in六角橋《オクタゴン》」

【前章】「第666回横浜堕天使協会定例会議」

(これまでのあらすじ)
堕店主マステマのインターネットネガティブキャンペーン《餐べログ》を難なく退けた少年は十二使徒を次々と撃破。聖地である六角橋商店街《オクタゴン》での決勝戦にコマを進めた。しかし、そこで待ち構えていたのは失踪した少年の父親であった。父親は少年に明かす「俺がお前の父親だ」と。

登場人物
棟梁:12枚羽の扇風機を背負う神に最も近いとされた元大天使
十二使徒:棟梁と共に堕天した大天使であり数々の奇跡を司る
"明星"の少年:"羽”をもたないラーメンを愛する少年。
父親:十二使徒の一人"セアブラヒム"として堕天使協会へ潜入し最終戦争丼を引き起こした。

堕店主用語
天空堕とし:フォールダウン、堕天とも。神の御業により麺を湯きりする。
白タオル:堕天使の失われた光輪<HALO>の代わりとして身に着ける
黒衣:堕天使はもはや純白ではないため黒いTシャツが正装とされる。
扇風機:堕天使の焼き焦がれた羽の代わりに厨房で背負う。一般的に天使族は羽の多さと大きさで互いの力量を計っている。
腕組み:互いに翼を持たぬことを見せるための堕天使の挨拶/敬礼。
イエ主:横浜市に降り立ち家系の教えをもたらした神の子とされる。
「ラーメン」:堕天しても神は絶対であると表明する祈り
最終戦争丼:天使と堕天使の最終戦争。世界は滅び真の信仰の持ち主だけが天の蓮華によってへ掬われるという。

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六角橋商店街《ザ・オクタゴン》は異様な熱気に包まれていた。ついに《尊大なる12枚羽の扇風機》が厨房に姿を現したのだ。

「少年よ、よく見ておけ!」

(デカいっ!! 厨房に立っただけで数倍に見える!!)

棟梁は揚げザルを高く掲げ光速でフォールダウンさせる。湯気の残像による光柱が立ち上り因果を超えた速度で湯きりを完了させる《ジェイコブス・ラダー》だ。

そこに透き通った端麗スープと琥珀色の家系タレ。セアブラヒムが人と交わり愛を知ることで見出した《生命のスープ》を注ぎ込み、それは完成した。

「悔しいが俺の二刀流スープの遙か先を行く……まだ敵わないか。クソッ!」

『巌流島』の武蔵が歯ぎしりをする。

「信ジラセマセーン!マサカ日本デサグラダファミリアガ完成シテイタンテ!」

『イタリアン中華"新世界"』の麺築家ガウディも失神寸前だ。

「「でも、あいつなら!!」」

彼らと好勝負を繰り広げ、スープよりも熱い友情を交わしてきた親友! この決勝の《オクタゴン》へ昇ってきたあの少年に期待が集まる。

「オヤジ、爺ちゃん」

「俺にはそんなスゲー技はできないけどさ」

「これを味わってくれ!!」

その丼からは後光が刺していた。
柔らかく、そして見るものの心を射抜くような優しい光。

((……おふくろ……))

観客席と審査席と厨房の全員が慈愛の体験を共有した。

かつてセアブラヒムが堕天使協会に反発して信仰を捨て去り全国行脚でラーメン道場破りを繰り返していた時に六角橋の老衛兵に敗れ絶命する寸前に衛兵の娘に助けられ体力の戻らぬ彼に後の妻が提供したあの安いインスタントラーメンの味、そして涙を流しながら麺をすすりスープを飲み干し勝負だけではなく人類と寄り添うことがラーメンの本質であることに気が付いた「おふくろ」との愛の記憶が解放された。

セアブラヒムが膝をつき、棟梁がそれを支えた。

「愛を覚えた俺は最強になったはずだった、しかし……」

「わしらの負けじゃ」

「勝ち負けじゃないさ!爺ちゃん達のラーメンすげー美味かったぜ!」

厨房には麺皇帝シーザーや蘇った十二使徒も集い笑いあう。
ここに神と人と天使が集う《三位一体》が為されたのだ。

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天界。
その姿を見守っていた大天使ミカエルがチャルメラを吹き鳴らす。
これまでの世界は滅び、新たな世界が始まったのだ。
最終戦争丼は終わり堕天使は許された。
神は緩やかに手を伸ばす。
空中掲挙。
天の蓮華が彼らを掬い上げようとする。

ゴツン。

天の蓮華は六角橋商店街のアーチ型アーケードに阻まれた。

しかし、堕天使たちはもう天界へ帰る必要ないだろう。欠けていた二柱が戻り元の形を取り戻した《オクタゴン》こそが彼らの新たな聖域なのだから。

「最終戦争丼決勝大会in六角橋《オクタゴン》」


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