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潜伏の詩

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言葉ならぬ世界の記録
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そこにあるのに

目にうつるのもは知っているものだけ。知らないものは目にうつらない。

おぼえていることだけが過去になる。忘れてしまったものは消えていく。

そこにあるものにだけさわることができる。さわれるけれど、ふれられないものがある。

ゆえに

ゆえに、何をおこなうにせよ
私はその心のままに日々を過ごす

やみくもに未来を投げ売っても
今は今のままに過ぎ去ってゆく

秋の気配

風のなかに秋が吹く
雲とともに秋が流れる
堤防の上に座っていた
その目に宿る夏の名残り

ドアの効力

誰もこないと思っていたドアを
君が開く

風が吹き込んできて
あらゆるものが部屋を舞う

見上げると月が眩しくて
夜の闇がふたりを包み込む

虹をみた日

カメラで撮影した空が
わたしの目で見る空よりも美しい
思い返すあの時のことは
思い返すほどに美しくなっていく

あの日みた小さな虹が
世界を包みこんでいく

ひとつの夜に音楽が響く

ひとつの夜に音楽が響く
寝静まった部屋のなか
ヘッドホンから流れてくる
いつか聴いたあの歌声

ふたつの声がひとつになる
あの頃のぼくはこの歌が好き
なのに忘れてしまっていた
どうして忘れることができたのか 

みっつの約束を結んだ
人前で泣かないこと
人の目を見て話すこと
自殺をしないこと

すべてを思いだしたけれど
きっとまた忘れてしまう
いつかの夜にまた会いたい

目を閉じて待つ

眠ってしまったけど
風のざわめきのためか
夢見がよくなくて
目覚めると疲れていた
 
昼が過ぎて夜になっている
雨が屋根を打ちつける音
ぼくは静かになるのを
目を閉じて待っている

眠たくはないのに
真っ暗な部屋のなかで
何もすることがない

あなたはわたし

わたしはあなたのように生きることはできない

わたしはきっと違う道を選ぶだろうし

あなたとは違う世界が見えている

それでも

わたしはあなたであったかもしれない

わたしがあなたなら

あなたのように生きて

あなたが選ぶ道を歩み

あなたらしく笑って

あなたみたいに泣いて

あなたの見ている世界を

わたしも見ることができたでしょう

水面の向こうへ

水面を覗き込むと空がみえた
雲は流れ 鳥が羽ばたき
ゆらめく水面に指先が触れる
雲は消え 鳥が落ちる

踏み出した足先に炎が伝う
火の粉は散り 蝶が生まれ
立ち止まる私を炎が抱きしめる
火の粉を飲み込み 蝶が飛び去る

9月の風が私を連れ去る
時は流れ 目が閉じられ
あの日のことが思い出される
時は消え 私は風の中で
くるくると舞う