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籐でトゥネット・編み始める歓び

籐で編まれた椅子の座面、時には背もたれや家具のドアにも使われますが。
こちらを手編みする技術を習得すべく
アカデミーの籐技術コースを申し込みました。

技術を学ぶことになったいきさつはこちら↓

これまで修復の技術はアカデミーの短期コースには行ったことがあるけれど、
ほぼすべて師匠・フリアの工房で実際のオーダーを通して学んで来ました。
大学のような場所で学位を出されるような職業ではないし
実際のニーズに応える形で学んできたのは正解だったと思っています。
歴史的、学術的価値の高いアンティーク家具だったらまたそれは別のカテゴリーになると思うし。
私は実際に使ってもらえる家具を扱う派だなって感じ。

さて、籐編みを学びたいと考えた時、
これまで委託をお願いしていた同業者のルッキーに頼みこめば教えてくれるかな
とも思っただけど
彼の工房、山奥過ぎて通えんし、雑誌とかにも掲載されちゃう人気布張り屋、ルッキー忙しいし。

だから一度こうして正式に 笑
学術的に学んでみるのもいいかな、って。

それに週に一回バルセロナへ出かけるのも楽しみ。
そしてどんなクラスメイトに出会えるかも楽しみ。
どんな先生に巡り会えるかも楽しみ。

と言うわけでワクワクのスタート。

コースは44時間。11週間通います。

初日。
クラスは定員オーバーの11人。
大半は定年退職してこの修復アカデミーに通いまくっているセニョーラたち。
修復もやって椅子張りもやって金箔もやって
今度は籐編み!みたいな。
老後のいい趣味だよね。

あとは既に私のように修復工房をやってるメリチェル。
木工に興味があって、家具を作りたいと思っているカナダ人のイルディコ。
アルゼンチンから来たばかりで、こちらのアカデミーに登録して、学生ビザを取得したソフィア。
クラスで唯一の男性ラフェル。などなど。
既に何らかのコースを一緒にやって顔なじみ同士の人もいる。

先生は修復と籐編みを専門にやっているモニカ。なんとなくどこかで昔あったような気がする人。こういうことあるよね。時々。

ほぼ3ヶ月のコースを通じて、だんだんとお互いのことがわかってきて、それぞれがそれぞれの理由でここにやってきている。でも、共通点は古い家具が好きっていうことだから、なんだか気が許せてしまう、この不思議。
価値観が似てるからかな。

作業工程を話していてもいろんな意味で話が早い。みんな何かしら修復をやったことのある人なので、どんなところに問題が生じるかわかっている。だからすごく話が論理的にどんどん伝わって楽しい。
申し込んでよかったなぁ。

最終日に撮った写真。あれ、先生いない。
現れた。


さて、さて本筋の籐編みの方はと言うと
難解度・高い!忍耐と集中力がものを言います。

作業工程にプラスチックの棒状のものを使うって言うことを知っていたんだけど、一体何のために使うもので
あれは一体何なのかそれをずっと知りたかった。

このカラフルな棒ね。


そして初日この謎が解けました。
あのプラスチックの棒はゴルフのティー。ゴルフボールを支えるのに使う細い棒です。
土に刺さる方は細くな尖っていて、反対側はボールを支えるように太く丸く平面になっている。
果たしてこれが正式な道具なのかはさておき、
この謎が解けたことに多大な喜びを感じました。笑

そしてこのティーは、籐を編み始めるスタートポイントで穴に通した籐を支えておいたり、引っ張って支えておくのに使います。糸と針の縫い物で言う玉留めのような感じ。言葉で説明すると難しいんだけれど、とても理にかなった道具です。

先生、編み込みの仕組みをまずは理論で説明中。
そしてまずは解体。
古い籐をキレイにすべて取り除きます。

まずは縦糸から2本組で編んでいきます。編むというよりここではまだ穴を通して行ったり来たり。

スタート。家具のパーツは修復してある状態です。


縦糸が終わると今度はまた2本組で横糸。
特に丸い座面はカーブに至るとどこの穴に収めるかが悩みどころになってきます。
なるべく平行を貫いて視覚的に違和感がないようにするのが大切。

縦横が終わると今度は斜め。
こちらは一本ずつ。
ここからが難解度、急上昇!
縦と横の各2本組の一本目は上を、2本目は下を、とくぐらせていくので一回間違えると編み物のようにそこからすべてがずれてしまいます。
集中力が途切れないように上、下、上、下、とぶつぶつ呟きながらの作業。

籐は自然素材で、今回の座面には皮籐と呼ばれる薄っぺらく挽かれたものを使っています。
カゴなんかには丸い筒状のものがよく使われます。
日本でもラタンっていう名前で知られているのかな。
自然素材なので湿気の吸収をします。それを利用してすべての製作過程は籐を水で湿らせて行います。

時々、素材そのものが古くて乾き切ってしまっていたり、湿らせ具合が足らないとパキっと折れてしまいます。これだけ編み込んで途中で折れるのはまさに大惨事。
これでクラスメイトの大半はほぼギブアップ。
お上品に着飾ったセニョーラたちの間で
「あぁ!こんちくしょう!」
「また切れたわ、このどうしようもないラタンがぁ!」とか、
なかなかの罵声が飛び交い、それをお互いに大笑いしてなかなか楽しい授業風景。笑
「もう、なんなのよ、いやんなっちゃうわ、はぁ〜」と深い深いため息をつくおばあちゃんが可愛かったりして。一生懸命なだけに落ち込む。でも続ける。

結局、最初の椅子は7週間くらいだったかな。2脚目は四角い座面だったのでより簡単で4週で完了。

縁の仕上げも完了
裏側もしっかり閉める。
座面完成
組み立て完了


商売にしたら割に合わないテンポだけれど
個人的にはセラピーのような効果があって
普段ノンストップで忙しくしている中、週に一回4時間、ただ籐を編めば良いというコンデュションがとても癒しでした。
しかもこの工程大好き。
縫い物、編み物も好きだし木材や自然素材も大好き。
好きなものが全部混ざったような作業なので私には完璧。
11週のクラス終了後にで「これ好き!」って言ったの私だけだったけど。笑
そのくらい苦戦の作業でもあります。

できることなら毎日これ編んで暮らしたいくらいだけど
時々入る籐編みの仕事として楽しみながらできるならナイスだな。
これだけで生計は立たぬであろう。

そういえば、12年前、この村に引っ越してきた頃
商店街にこの籐のカゴ専門店があったなあと思い出しました。
洗濯物を入れるのに使っている大きなカゴはそこで買ったもの。
最近はほとんどが中国やアジアで作られて安価で売られるものになってしまっているけれど、何十年も前からヨーロッパでも作られていたものです。
師匠フリアの工房の近くにも籐職人がいて小さなプールみたいな浴槽みたいなところに水を張って籐がいつも浸けてありました。
もうリタイアしちゃったけど。

今はカゴまで手を出す気にはならないし家具に沿った籐編みをやっていくつもりだけれど
こういうものを作れる「手」になれることが一番の喜び。

満足感、達成感120%のコース体験でした。


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