見出し画像

修復屋のジレンマ。ペイント?修理?修復?

家具修理工房で修業時代、
師匠フリアはいつも家具のペイントについてケチョンケチョンに言ってました。
あんなことをしたら木目が日の目を見れなくなって台無しだわ!と。
当時は古い家具に対してペイントするというのがマイナーな、というか粗々しい解決策という定義が普通でした。
今ほどペンキの種類もなかったし、
古い家具そのものに人々は興味を示してなかったんです。
もちろん一部のアンティーク、高級家具を持っている人を除いて。
そういう人たちが家具修復工房のお客様、な訳ですね。

ところが近年、
アンティーク、ではなくてヴィンテージブームのようなものが始まって
アンティークまではいかない、アンティーク風家具をペイントして
シャビー風、プロバンス風という南仏の田舎のおうちにあるようなスタイルに仕上げる
というのが大流行し始めました。
それに伴い、かの有名な
チョークペイント、という塗ってからヤスリをかけて風合いを出せる
しかも水溶性の(匂わない)ペンキがどんどん発売され始めました。
これがまたうまく仕上がっちゃうんだな。

扱ってみると、水溶性なので扱いは簡単だしお掃除も楽々。
コツさえ掴めばいろんなテクニックを掛け合わせて色んな仕上げができます。

詳しいチョークペイントの使い方はこちら↓

しかし!

さあ、ここで
修復屋のジレンマが始まります。

もともと修復という言葉は、
「古い家具を、時間の経過を残したまま元の状態に近づける」という定義だと私は理解しています。
できる限り、パティナと呼ばれるたくさんの人が触れた跡、長い時間の経過で擦れていった部分などを残す
とてもデリケートな判断が必要な作業です。
オーダーの仕事でもお客様の好みや意向に沿って判断していくとても大切な部分です。

修理、は壊れたところを使えるように直すこと。

レノベーションはいわゆるイメチェン。
ペイントはこのレノベーションの枠に入ると思います。

”修復屋の仕事として家具のペイントをするのか?”
頑固な古来の修復屋はしないと思います。うちの師匠みたいに。

しかし、
今更、再生産できないような手の込んだ質のいい家具が
どんどん捨てられていく現状。
そのかわりにイ○アのような大量生産の家具を買う人々。
そしてまたすぐ壊れて捨てられていく。
なんとも虚しい。
そんな現実の前に
ペイントだろうが修復だろうが、
しっかり作られた家具がまだ使われていく未来の方がいいな、と思いました。

ちょっと余談ですが
修復も仕事の中でもジレンマはあって、
アンティーク家具を飾って眺めるために修復するお客様というのは実際少数派で
ほとんどのお客様のニーズはその家具を使い続けるためで、現代の実生活に古い家具を適応させること。

例えば、1900年台初頭のキャビネット、タンスなどは鍵で引き出しやドアをいちいち閉めていたので
その鍵で引っ張って開けていました。

しかし、「取っ手」というものが存在する現代で、
古い重たい引き出しやドアを鍵で引っ張って開けているのは非合理でもあります。
新しい家具のように引き出しに金属のガイドがついているわけでもなく
ドアの蝶番はとてもシンプル。ネジで角度を微調整できたり圧を変えたりできるものではありません。
ピアノ並みに重たい書斎机は一度配置したら模様替えは不可能です。

その都度お客様と相談の上、実生活でベストな状態の家具にするようにしています。
使いづらければ邪魔になってしまう。
やっぱり使われて、愛されてなんぼです。

例えばこんな家具。
今回は使う頻度は低いということで、取っ手はつけません。
オリジナルデザインも素晴らしいのバランスを崩したくもないです。
毎度、毎度、ケースバイケースの判断です。

結論、
ウベコ工房では修復も修理もレノベーションも
全てやります。
家具に第二の(第三、第四の)人生を与えます。

アンティークだろうがヴィンテージだろうがただの古い家具だろうが
また愛されて使われるための作業をするのがウベコ工房。
時にはボール板の引き出しも直します。
それでおばあちゃんの介護がちょっと楽になるのなら大歓迎。
合板のファイルキャビネットでも直します。
お父さんの思い出のキャビネットなら大歓迎。

だから厳密には家具修復工房ではないかも知れない。
家具救済工房かな。笑

家具と使う人の幸せのために。笑


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?