心震える時計の修復
しばらく時計ブームが来ていて時計の修復が続いていた時の話。
工房へ問い合わせに現れたのは私よりちょっと若いくらいの女性。
古い時計を使い続けたいので修復をお願いしたい、と。
後日、旦那様が時計を持ってきて
実はこの時計、奥様の亡くなったお父様が愛用していたものなんです、と。
急なことだったようです。
奥様自身からエピソードが出てこなかったことがなんだか切ない。
お父様の身の回りのものを整理していて出てきたこの時計を
思い出としておうちで使うことにしたそうです。
時計の中には、お父様の手書きのメモが入っていて
振り子時計のゼンマイの巻き方のメモでした。
傷んでいる木の部分を治して改めて時計を動かす時に必要な大切なメモ。
そしてなにより
手書きのメモ。
う〜ん、意味深い。
時計の機械仕掛けはわたしには分からないので時計専門の友人に委託しますが
今回は時計、動いていた物らしいので
箱部分の虫喰い処理と欠けているガラスの取り替え、仕上げのニス塗り替えが作業内容になります。
思い入れを感じるので絶対機械部分に破損のないよう緊張感高まる作業です。
そっと機械仕掛けの部分を外して作業開始。
虫喰い処理と同時進行にガラスをいつものガラス職人・フェルナンドにサイズぴったりに作ってもらいます。
我が工房のガラス張りを実現してくれたガラス職人フェルナンドチームのお話はこちら。↓
さて、納品の日。
工房へ受け取りに夫婦揃ってきてくれました。古びたこげ茶のニスを落として木目が現れたのは美しい時計に2人ともとても喜んでくれました。
そして、
いざ時計を動かして見ることに。
「使っていたモノだから動くはずなんだけど…」と緊張気味の奥様。
メモ通りにゼンマイを回して
ゴーン、ゴーン
チクタクチクタク、
動いた〜‼️
お父様の時計、復活。
とても感動的な瞬間に立ち合わせていただきました。
心に沁みる案件でした。
時に、家具は家具というだけではなかったりします。
それを使っていた人
そこに座っていた人の記憶が重なっていることが多いです。
だからこそ修復を、と思ってもらえる。
大事にされる家具も幸せ。
彼らがその人生(椅子生?)を語れたら
わたしは毎日、工房でじいちゃんばあちゃんの身の上話に飽きることはないだろうな。笑
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