しかない。

壇上にいるあいつは誰だ。
さっきから金の話と自分の経験を語る。
そして、今に至るまでにどんなことをしてきたか。
どういうことをすれば良いか。
語る語る。
そしてしきりに彼は言う。
この話を聞いて実際に行うのは3割だ。
そして、継続して行うことができる奴は1割にも満たない。
暑苦しい体育館に押し込められた300人ぐらいの学生の中で、
彼の話を聞いているのは10人もいないだろう。
その中の1割、つまり俺がその1割、1人になってやろう。

日差しと外の気温のバランスがちょうどいい。
少し寄り道をしよう。
高校2年生3ヶ月の高林 匠はそっといつもの通学路から外れた。
ただでさえ寝坊して1時間目をすっぽかしているのだが、
特になんとも思わない。
学校はつまらない。

高校1年の春で大方のカーストが決まる。
そして、夏でカーストが確定する。
まあわかるだろうが、俺のカースト位置は中の下だ。
本当は下の中だが。
高校を行く道をひとつだけ外すと神社がある。
緑緑しい境内は、存在しているのかわからないマイナスイオンを感じさせてくれる。
そして、ここは神社公園と呼ばれているように、
大きなジャングルジムやブランコなどがある。
俺はいつもジャングルジムの上で寝転がって本を読む。
これが俺的にかっこいいと思ってる。
この姿をクラスの女子が見たら、
たちまちクラスの女子、学年へと俺がカッコいいと言う話が回ってしまうだろう。
なんて言う妄想をしながら、1人好きな小説を読む。
あーもう一日中こうしていたい。
学校行くのやめようかな。
ふと本から視線を外した時、
カッコいい俺を見ている奴がいることに気づいた。

そこには俺よりも身長が高く、
俺よりも顔が小さく、
僕よりも目がクリクリとしていて、
俗に言うイケメンがいた。

「匠くんってカッコいいな」
そいつの言葉はストレートで、
言葉尻に"笑"をつけてバカにしてきている感じもしなかった。
そして、そいつがクラス内でも
陰にいる俺の名前をしっかりと
認識していることに驚いた。
「佐々木くんはなんでここにいるんですか?」
僕はあまり話すのが得意じゃない。
「んー逆に匠くんは、なんでここにいるんですか?」
今回は確実に"笑"が付いてるし、
顔もニヤついている。
「えっ、寝坊したしどうせ遅刻するなら、
ここで本読んでから行こうかなって思って」
「ふーん、割と匠くん遅刻してくるよね、
毎回ここにいるの?」
「まあ」
「いいねー、俺もここ好きなんだ」
えっ、僕の中のカッコいい僕はすぐに佐々木くんの姿に塗り替えられた。
「俺も本とか読んでたらカッコいいかもな!
いつも寝てるだけだからさ」
佐々木くんは僕の横に並んで寝始めた。

えっ、僕はこの空間でどう生きていけばいいのだろう、
もう、本の内容も本の一文、一文字すらも集中して読めない。
学校に行く気もなくなっていた僕は、
ただそこにいるだけの存在になった。

僕はいつのまにか寝ていたみたいで、
少しだけ肌寒く感じて起きた。
ただ、背中だけを除いて。

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