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夜行列車に乗って

今回はAimerの「夜行列車 ~nothing to lose~」という曲について思ったことを書いてみようと思う。
今まで少ししか記事を書いていないが、ナナニジのことについて思ったことを書いてきた。今回はナナニジ以外での自分の好きな曲について書いてみようかと思う。次の記事で痛いオタクに戻る予定。
さて、「夜行列車 ~nothing to lose~」は2012年にリリースされたAimerのファーストアルバム「Sleepless Nights」に収録されている曲だ。
Aimerの代表曲と言えば「残響散歌」や「カタオモイ」になると思うが、「夜行列車 ~nothing to lose~」も素晴らしい名曲で、4月から新生活を迎えた方にも刺さりやすい歌詞なのではないかと思う。
何はともあれ、聴いたことがない方はまずは一度聴いてみてほしい。

Aimerの歌詞の魅力

Aimerの魅力として語られるのは、その歌声や歌唱力が主になるが、歌詞も非常に素晴らしい。プロフィールを公開していなかったりメディアへの露出も多くないことから自身も神秘的なイメージを纏っているが、歌詞もどこか神秘的な世界観がある。特に初期のころは夜をテーマにしている曲が多く、大人になりかけの頃に感じた神秘性、非日常感を感じることが出来る。
そして、神秘的でありながらもリアルなのだ。誰もが感じたことがあるような孤独感や不安感が素直な言葉で歌詞にしている。曲の主人公はごくごく普通の女性だ。
非日常感と日常感のバランスがとても心地よく、歌がスッと染み込んでくる。

夜行列車 ~nothing to lose~ の歌詞

ここからは歌詞をピックアップしながら、自分なりの解釈や良いと思っているポイントについて書いていこうと思う。

さよなら 夜の教室

この曲はいくつかの場所に別れを告げるところから始まる。「ここで私は声を失くした」と続くこの場所は、美しい思い出だけがある場所ではない。とても辛い思いもしている場所だ。それでも、別れを惜しむような大切な場所なのであろう。
その大切な場所に別れを告げるシーンは旅立ちの意思の強さと同時に不安な気持ちが見え隠れする。

誰も知らないどこかへ 新しい名前で

主人公にはある目的や望みがあって新しい場所へ旅立とうとしている。その場所のことは主人公も全くわからないし、誰も主人公のことを知らない場所である。2コーラス目では「空っぽの鞄で」と歌っていて、知識や経験すら役に立たない場所なのだろう。
これに似た経験は誰でも経験し得るものである。学生なら転校や進学かもしれないし、社会人なら就職や転勤、転職かもしれない。人生の大きな節目には誰も自分のことを知らない場所へ行かなければならないことがあり、そんな時は誰だって不安なものである。
私も自分の似た経験に当てはめながら聴き入ってしまう。

これでいいんだよ…

サビは「これでいいんだよ…」というフレーズが印象的に使われている。不安を抱えながら旅立つ自分に言い聞かせている。この曲の主人公は自分に「これでいいんだよ…」と言い聞かせなければならないほどの不安を抱えながらも「ほんのわずかな光」を求めて旅立とうとしている。
聴き手にとってこの言葉は、決してうまくいくと安易に励ますものではなく、失敗してもいいと旅立ちそのものを優しく肯定してくれるものだ。力強くはないかもしれないが優しく寄り添ってくれて、聴くと心が軽くなる歌になっている。
そして、この言葉は別れを告げる人たちにも向けられている。周りにいる大切な人たちはこの旅立ちを止めるかもしれないし、心配してくれているのかもしれない。それは旅立つ本人もよくわかっているのであろう。結果はどうなろうと納得していることを伝えようとしている。絶対に大丈夫とか、必ずうまくいくとか伝えられるよりもある意味重く、ある意味では安心できる言葉かもしれない。決意の強さが感じられるし、送り出すしかないと思えるのではないだろうか。

これでいいよね?

「これでいいんだよ…」のすぐ後に歌われるこの歌詞は、一見すると不安な気持ちの表れの様に見えるが、どちらかというとわずかな希望を求める気持ちが表れているように思う。旅立った先で「あなたに気付いて」もらえる、つまりは上手くいくこと、幸せになることを求めている。だから、この旅立ちは「これでいい」と言えるのだ。不安があったとしても、あくまでも前向きな思いでの旅立ちだから「これでいいよね?」と確認しているのではないだろうか。前向きな気持ちで旅立つのであれば、その先の結果がどうであっても納得できる。だから分かってほしいと、周りにいる大切な人たちと自分に確認の意味で問いかけているような気がする。

歌詞に残された余白

多くの人がそう感じていると思うが、この曲はAimer自身がアーティストデビューする際の不安な気持ちを歌にしたものだろう。Aimerと名乗ってデビューすることへの不安、誰かに聴いてもらえるのだろうかという不安、でも自分で納得して進もうとしている道だからこれでいいと自分にも周りにも言っている、そういう歌なんだと思う。そう思って歌詞を眺めてみると驚くほど赤裸々で率直に歌詞にしているような気がする。
率直でありながらも直接的すぎる言葉を減らし、場面を限定しない余白が残されている。その余白の解釈は聴き手の自由で、自分に当てはめて聴くことが出来る。Aimer個人のことを歌っているにも関わらず、誰にでも自分のことの様に聴ける曲になっている。
私は歌詞はパーソナルであればあるほど刺さりやすいものだと思っている。それは言葉にリアリティが生まれるからだ。実際に自分が感じた思いを言葉にした方が、想像だけで書いた言葉よりも重みが生まれる。感情だけをリアルに表現して、曲の世界や場面に想像の余地を残すことにより、多くの人に刺さる普遍的な歌詞になる。
新しい場所への旅立ちという誰もが経験するテーマなだけに、この曲は非常に多くの人に刺さるのではないかと思う。

希望への旅立ちか、絶望からの旅立ちか

そして、この曲はもう一つ大きな仕掛けがあると思う。Aimer自身がインタビュー等で語っていたことなのだが、曲は一つの意味だけではなく相反する意味が込められていることがある。希望を感じるような曲であってもどこかネガティブな一面があったり、逆に暗い曲であってもどこかに救いのある曲になっている。
私が夜行列車 ~nothing to lose~を初めて聴いた時の感想はなんて暗い曲なんだろう…というものであった。この曲は希望への旅立ちの歌だと思われていることが多く、先ほどまで書いていた歌詞の解釈や感想もそちら側に寄せて書いている。でも、この曲を別の側面でとらえるととても暗い。私にはそちらの方が印象が強かったのだ。
さよならと告げた場所に置いていくのは辛い思い出ばかりで、明るく楽しかった思い出は描かれていない。旅立った先に求めているのは「今よりマシ」程度のものであり、理想ではない。空っぽの鞄なのは、今持っているものは何もいらないからであり、むしろ置いていきたいのかもしれない。
「ここじゃないどこか」「誰も知らないどこか」に求めているのは、「ほんのわずかな光」であり、今いる場所からとにかく離れたい気持ちを歌っているようにも聞こえる。今に絶望してしまっているのかもしれない。そう思って聴くと、とにかく切ない歌になる。
一つ一つの言葉を違う角度で解釈すると全く別の歌になる。この曲は誰にとっても、どのような捉え方でも伝わる歌で、感じ方は聴き手に委ねられている。自分はそれこそ芸術の本質だと思う。

終わりに

この曲のことはずっと前から書きたいなと思っていたが、4月は環境が大きく変わる人が多い季節なので、この記事を4月中に公開したかった。
この曲の良さは誰でも経験するような旅立ちの歌で、不安な気持ちに寄り添うような優しさがあるところだ。そして、解釈に自由度がある。
この曲を自分なりの解釈で聴いて、勇気づけれられてほしい。
私がこの記事を書いたところで見る人は少ないとは思うが、この曲を聴いて良いなと思ってくれる奇跡的に一人でも人がいたら嬉しい。

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