3,400メートルのゴール《水曜日のエッセイ by 逢志亭姉》
水曜日の記事は文章クラブ『放課後ライティング倶楽部』メンバーさんが担当です。だいたい2ヶ月くらいで順番がまわってきます。
◆
日本で1番高い山は、富士山。
標高3,776メートル。
小学生の頃に覚えたのでは
なかろうか。
関西から新幹線や飛行機で
東に行く際には、
富士山が見える側の座席に
座りたくなる。
そして、キレイに富士山が見えると
なんとなく幸せな気分になる。
遠くから眺めていた富士山に
登る日が来るなんて。
誰しも一度は、登ってみたいなぁ、
なんて漠然と思ったりするものだ。
私も、そういう気持ちを
持ってこなかったわけではない。
だからといって、積極的に、
実現しようと、動いたことはない。
そうこうしているうちに、
月日は流れ、もう登ることは
ないのだろうな、と
富士山に自分が登る絵面が
フェイドアウトしていった。
ところが、人生は何が起こるか
わからない。
私の身近に、富士山に登ろう、
という一団が現れたのだ。
還暦記念に登ってみますか、
というぐらいのノリで
参加表明をした。
真面目な一団は、
富士山登頂に向けて
日々、zoomで筋トレに励んだ。
怠け者の私は、(なにせ、ライランも4日しか続かん笑）参加したりしなかったり。ビールを節制することもなく、当日を迎えるわけである。
そのことが原因かどうかは
定かではないが、
残念ながら8合目にて、
頂上へのアタックは断念した。
高山病にもならず、足が痛くて
動かなくなったわけでもなく、
息が上がるが、休憩すれば
また進める。
ただ、この息が上がる、というのが曲者で。
呼吸を整えるために、
たびたび止まらなければならない。
29人の大所帯で登っているので、
どんどん遅れていく。
登れば、降りなければならない。
下りに、どれぐらいの体力が
必要なのかもわからない。
無理をして、他の人たちに
迷惑をかけてはいけない。
8合目、3,400メートル。
日本で2番目に高い北岳。
3,193メートルより上まで来たよ。
ご来光も見えたよ。
ゴールはここにしよう。
頂上まで、400メートル弱。
それでも、8合目から2時間ほど
かかるらしい。
8合目から、登り始めた5合目まで
3時間ほどで、下山できた。
よしよし、次回の挑戦に向けて
登頂して降りるイメージができた。
富士山の山開きから
２週間ほどだが、
数名の方が亡くなっている。
そう、命の危険すら覚悟しないと
いけない山なのである。
どうする？
進む？やめる？
喉が渇いてる？
アミノ酸を摂取する？
常に自分と対話しながら
小さな決断を繰り返す。
他の人に影響されないように
自分の体と心の状態を
正確にとらえながら。
見栄も、ええカッコも何もない。
素の自分がさらされる。
5合目まで降りてきた時、
仲間とビールで乾杯しながら、
次は頂上で乾杯しよなって、
素直に言えた。
悔しくなかったと言えば
嘘になるけど
今回の私のゴールは8合目。
他の人と比べなくてもいいのだ。
富士山は、そのものが
御神体だそうだ。
なんとも美しい形で
神々しく、君臨している。
身も心も試されて
不思議と浄化されたような
清々しい気持ちに
なった。
それぞれの人に
それぞれのゴールを
もたらせてくれる富士山。
素敵な還暦記念だ。
[ライター：逢志亭姉]
◆あとがき
ヤスです。最近ニュースで富士山の死亡事故をよく聞きます。頂上があと一歩のところで無理をしてしまう人は少なからずいると思うんだ。「人それぞれのゴールがある」。気合いと根性とノリで、命は落とせません。
◆66日ライティング×ランニング〜シーズン2 《21日目》
参加者全員の記事はこちらに。
《こちらはシーズン1》
ひとりでなかなか頑張れないなら、私たちがいっしょに走るよ。
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