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SAKURA-MAIL

今年も桜の花が散りはじめた。
小学校へ向かう道沿いにある桜の古木。
青い空から、薄ピンクの花びらがひらひらと舞い落ちると、風が控えめな香りも運んでくる。
子供の頃、飽きもせず、舞い落ちる花びらをつかまえようと、ずっと空を見上げていたものだった。
私の前にまたひとひら、花びらが落ちてきた。
その時、ふと、昨年の同窓会での話を思い出した。
同級生の一人が亡くなったと・・・あまり遊んだりしなかったけれど、そういえばあの子もここを通っていたはずだ。
あの子もやっぱり同じように、この桜を見上げていただろうな。
他にもたくさん、この道を歩く同級生たちがいたけれど、そのほとんどはこの街を離れて行方も分からない。

私の初恋だったイチ君。
卒業前に転校してしまったけど、今はどうしているんだろう?
背の高い、カッコいいお父さんになっているかな?
正義漢で、乱暴な男子にいつも食ってかかっていたミーちゃん。
きっとすてきな肝っ玉母さんになっているよね。
そんなミーちゃんの横で「女子怖え~」って、おちゃらけてたマッくん。
今でも余計なこと言ってたりするのかな。

そんな思いにふけっていると、また花びらが舞い落ちてきた。
つかまえようとのばした私の手をすり抜けた、その花びらをつかまえたのは小さな手。
ピンクの今どきなランドセルを背負った小さな女の子だった。
おかっぱ頭の女の子は、手のひらに花びらをのせ、私を見上げて言った。
「サクラから 手紙もらったの」
そう言って少女は微笑んだ。
「手紙?」
「そう、これはサクラからの手紙なの。サクラがみんなに手紙をとどけているの」
その時、強い風が吹き、花びらが吹雪のように舞った。
ランドセルの少女は、花びらのシャワーの中を、クルクルと楽しそうにまわりながら叫んだ。
「ことしもあえたね、またあいましょうね、って書いてあるの」
その言葉に私はハッとした。
手紙・・・そうか、そうなんだ。
桜をみるたび、なつかしい友達を思い出すのは、桜がみんなの思いを私に伝えてくれていたからだったのかも。
イチ君も、ミーちゃんも、マッくんたちも、きっとどこかで桜を見て、昔のことを思い出しているんだろう。
その思いがきっと桜を通じてここに届いているのだ。

私の前を花びらが舞い落ちながら声をかけてきたような気がした。
「オボエテクレテマスカ?」
私は目の前の桜の花びらにこたえた。
「はい、おぼえていますよ」
すると花びらはまた風に乗って舞い上がり、青空へと飛んでいった。

そうなんだ、そうだったんだ。
桜の花だけじゃない。
きっと五月のハナミズキの花びらも。
激しく降る雨も、そのあとにかかる虹も。
美しい白い入道雲も。
夜空に光る星も。
黄色く光るお月様も。
色づいた紅葉の葉たちも。
真っ白に降ってくる雪たちも。
すべて見ている私たちに思いを伝え、そして私たちの思いも伝えていてくれたんだ。

空から舞い落ちる手紙。
すてきなことを教えてくれてありがとう、そう言おうとしたけれど、少女はいつの間にか私の前から消えていた。
もしかしたら、あの子は桜の精だったのかも・・・。

また来年も私は桜の花びらに思いをたくすのだろう。
風に舞った桜の花びらは、青空の中で舞いながら私にこう語っていた。
「ワタシノコトヲ ワスレナイデネ」
私はうなずいた。
イチ君もミーちゃんもマッくんにも、今はもういないあの子にだって、
いつでもこうして会えるから忘れたりしない。
離れていても、この花びらからの手紙で、またみんなと通じあうことができるんだ。
すっと、手のひらに一枚の花びらが舞い降りてきた。
私はその花びらに向かって言った。
「・・・ワスレマセンヨ イツマデモ」
手のひらの花びらは、そんな私の気持ちをのせ、また風に舞い上がり、青空の中に吸い込まれていった。

~Fin~

これまで書いたnotoの紹介はこちら
→ インデックス https://note.com/u_ni/n/ncaae14bb6206/edit


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