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紹興酒を味わうおとなになりたかった中華屋のバイト時代

 大学近くに行列のできる担々麺の有名なお店があった。辛いものが苦手だったわたしも、ここの担々麺は好きで必ずチーズ担々麺、通称チータンを辛さマイルドで注文していた。入学し、そろそろバイトをしようと考えていた時に、そのお店がバイトを募集していると聞き、働き始めて以来4年間卒業まで働いていた。

 平日でもランチタイムは市役所の職員や学生の列ができる。小さな店だが、休日の昼は11時半の開店から13時半のラストオーダーまでで毎回100杯は担々麺を出していた。

 そのくらい、注文はほとんど担々麺とチャーハンのセットだったが、ことあるごとに「うちは中華屋だ」とオーナーが言っていた。担々麺屋なのではなく中華屋なのだと。

 夜も担々麺がひたすらでるなか、たまに中華料理のコースを予約するお客さんもいた。いつもは気怠そうな店長も、コースの予約が入ってる日は心なしか生き生きしているように見えた。

 正直、子どもの頃中華は苦手だった。母親が中華好きでたまに家で酢豚やエビチリがでていたこともあったが、妙な酸味や独特の甘辛さが苦手であまり気分は上がらなかった。実家を出た後も外食で中華料理を食べたことはなく、本物の味を知らずに過ごしてきたので、恥ずかしながら棒棒鶏や油淋鶏、回鍋肉などの王道中華も、まかないで少し食べさせてもらって初めて味を知った。

 そんな中華料理偏差値の低い私は、鶏とカシューナッツの炒めものや、皮蛋(ピータン)、トマトと卵の中華風炒め、牛肉の味噌炒めクレープ包みや、XO醤炒めなど、バイトをして初めて知った料理がたくさんある。そして、コース料理を注文するおとなは、決まって“紹興酒”というお酒を頼んでいた。大学生になって仲間内で行く飲み会では“ショウコウシュ”という名前は聞いたことがなかった。日本酒やワインとは違う、何か未知のおとなの世界の飲み物なのだと思った。

 9割のお客さんが食べて行く担々麺を頼まず、私の知らない中華料理をテーブルいっぱい並べ、紹興酒に氷砂糖を入れてちびちび飲むおとなが、意味もわからずカッコよくて憧れだった。

 わたしはこの学生時代のバイトで少しずつ中華料理を知り、大好きになった。去年初めて中華料理のコースを頼み、念願の紹興酒デビューを果たしたが、まだカッコいい感じには飲めていない。おとなの余裕を醸し出しながら紹興酒を飲める日はいつ来るのか。

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 後々知ったが、昔の中国では、自家製のお酒に氷砂糖を添えて贈る習慣があり、「自家製のお酒でおいしくないかもしれないので」という謙遜の気持ちを表したものだそう。添えているだけで実際には入れずに飲むのがマナーだとか。私みたいなお子ちゃまは甘いお砂糖があったほうが飲みやすい気がしてしまう、紹興酒がはやく飲めるようになりたい。

 中華でいうと、最近、思い出野郎Aチームの増田薫さんが書いた『いつか中華屋でチャーハンを』を読んだ。まだまだ知らない中華のことがたくさん載っていて面白かった。何より絵が食欲をそそる、、電子書籍はオールカラーだということを知り、電子書籍いいなと思ってしまった。

 町中華でカレーかオムライスを頼み、どこかで酸菜を手に入れ、福岡にいるうちにダル麺を食べねばと思っている。食べたいものがたくさんあって大変だ。



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