観光客と地域の温度差が招く結果
<この記事のまとめ>
① すべての人にとって観光は魅力的なもの
② 立場が変わると観光が楽しめない
③ 観光客と地域の温度差をつくらない仕掛けを
旅は楽しい!観光はおもしろい!
全ての人にとって旅は楽しいものだと思う。
旅は日常を抜け出し、新たな出会いが生まれるもの。観光の定義はあるが、簡単に解釈すれば、観光とは人それぞれが様々な欲求を満たすために旅をすること、と言っていいと思う。
ちなみに、観光庁が定義する観光は下記の通り。
本基準では余暇、ビジネス、その他の目的のため、日常生活圏を離れ、継続して1年を超えない期間の旅行をし、また滞在する人々の諸活動とします。
引用元:観光入込客統計に関する共通基準(PDF)(2009/12策定、2013/03改定)
というわけで、観光庁の基準だと、仕事をする人も観光ということになっているため、前述した全ての人が楽しいかどうかは少々疑わしいかもしれない(笑)
気を取り直して・・・
それでも、観光するのはやはり楽しみを目的としていることが多いだろう。だからこそ、行ってみたい場所を入念に調べ、掛かる費用を計算し、そのためにお金を貯めて、期待感を持って旅をする。
日常生活圏を離れて、見たいものを見に、食べたいものを食べに、会いたい人に会いに、そんな高揚感を胸に楽しむのが観光だろう。
観光のほとんどは、ユーザーの趣味・趣向・意思など、自らの欲求によって行動に移される。そして、ユーザーは目指すものが一つだけであっても、観光を目的にその地へ足を運ぶ理由になるのだ。
それを受けて、観光の受け入れ態勢はどうなっているだろうか。
観光の受け入れを担当する人とは
さて、それでは観光する側からされる側に回ってみることにしよう。
観光される側、つまり受け入れ側だが、普段は自分の行きたいところに勝手に期待して、勝手に楽しめるほど自由に楽しんでいるはずの人が、受け入れる立場になった瞬間、なぜだか形式的な発言ばかりになるとは思わないだろうか。
それはそうだ。何しろ大きな矛盾が存在する。
その担当者は自分の好きなことではないことを無理やり観光することになるのだ。それも、日常的な空間、さらには仕事で。
自分の趣味趣向で、非日常を楽しむのが観光であるとすれば、自分の興味関心のないことを、日常のなかで創作せよと言われて、楽しむことが出来るのか。
この矛盾点に気付かないまま、観光を行っている地域が多い気がしている。
生活圏から脱出するのが観光なのに、生活圏の中で観光に取り組む必要がある立場は、本当に大変な仕事だと思う。
観光関係者の根底にこの大きな矛盾がある場合、その地域の観光振興は大きく後れをとっていることだろう。
観光客との温度差
観光の受け入れにおいて最も重要なことは「観光客との温度差をつくらないこと」というのが私の持論だ。
どんな素晴らしいパンフレットやホームページよりも、案内板や駐車場の整備よりも、観光において大切なのは、現地で同じ価値観の人と出会えたかどうかである。
逆を返すと、現地を訪れた観光客が、価値観を共有する出会いが無かった場合、さらには無関心な空気を感じ取った場合、その地域は観光客にとってマイナスのイメージしかないだろう。
せっかく人を集める力はあるのに、集まってきた人たちに悪い印象を与えるという、観光という概念を根底から否定する状況が起きることになる。
どんなに素晴らしい歴史や史跡、さらにはグルメや話題を持っていたとしても、現地での出会いによって「地域の評価」は高くも低くもなるということ。
ここで重要なのが、「観光スポットの評価」ではなく、そのスポットを有する「地域の評価」であることを自覚することだ。
地域観光とは、この温度差を極限まで無くすことが最大の課題であり、取り組むべき事業の根底であるべきだと考えている。
地域に存在する歴史や史跡、様々な文化や話題のスポットを粛々と紹介するところまでは誰でも出来ること。その一つ一つの魅力について、観光客と同じ熱量かそれ以上の熱量で共感・共有することができる人材の配置が、地域観光の最大の近道だと言える。
上田市において、この検証例となるのが「サマーウォーズ」によるアニメツーリズムの成功例だ。この事例についてはまた別の記事で紹介する。
写真は2010年に開催された上田わっしょいに、全国から500人を超えるファンが集まった時の集合写真。
憧れを持って出かけた先で、自分と同じ趣味の人と出会える感動と興奮は、観光の最上級の楽しみであると言える。
だからこそ、今、地域観光が取り組まなければならないのは、地域の持つ観光資源を誰よりも愛し、語り尽くせる人財の育成である。
これからの時代、これからの社会において、この人財の存在なくして、地域観光が成立することはない。
小手先の観光はもう必要ない時代がやってきた。いよいよ、地域観光の実態が暴かれる。さあ、本当の意味での観光戦国時代の幕開けだ。
上田ブランド研究所
所長 池松勇樹
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