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「2050年ゼロカーボンシティ宣言をした自治体が148」から考える。

この記事、いろいろ論点はあるのですが、いま私が多く接している「2050年ゼロカーボンシティ宣言」(2050年までにCO2排出量実質ゼロ)をした自治体の件について。

記事によれば、「「50年までに脱炭素」を宣言した自治体が7月28日で148、人口でほぼ7000万人に達したので政府目標も前倒しが必然、と小泉は論陣を張る。」とのことですが、2050年のCO2排出ゼロとはどういう状態か考えてみましょう。

CO2排出実質ゼロとは

その町ではガソリン車は走れません。ガソリン車が走るということは、どんなに燃費を向上させても、CO2が出ます。都市ガスも、プロパンガスも使えません。ガスを燃やせば必ずCO2が出ます。少なくとも今の技術では。

電気あるいは水素は、作り方によっては使えます。「作り方によっては」というのは、再生可能エネルギーもしくは原子力で作った電気、あるいは再生可能エネルギーから作った水素ということです。少々専門的になりますが、CCSといって火力発電等大型の排出源から出るCO2を地中に埋めるという技術があるので、それを備えた火力発電などで作った電気は許容されますが、CO2を地中に埋めるためには大きなエネルギーを必要としますので、相当のコストとエネルギーを消費することになりますし、産油国などでは原油を掘った穴に埋められますが日本はそうしたCO2を産める適地も限られます。「ネットゼロ」ですので、植林をしたりしてCO2を吸収させることも一つの手段ですが、それほど大量の植林をできる空き地など、通常ありません。

民生部門だけではありません。その自治体に化石エネルギーを使う産業があれば、「出ていってください」と言うのでしょうか。農業部門からも相当のCO2が出ます。それはどのように考えるのでしょうか。

とある自治体で試算してみました

とある自治体さんの再生可能エネルギー導入ポテンシャルやエネルギー需要を計算してみたのですが、環境省さんが公表している再エネポテンシャルが最大限導入できたとしても、自治体のエネルギー需要の1/5から1/6程度しか賄えないという結果になりました。もちろん、自治体によって状況は違いますので、全ての自治体でそうだという訳ではありませんし、ちゃんと「勝算」があって宣言された自治体もあると思います。2050年には大量に洋上風力発電が普及し、地域内の再エネでは足りなくても、送電線で遠くから再エネの電気を引っ張ってこられるようになるかもしれません。ただ、日本の多くの自治体ができることは、地域内の再エネを地道に増やし、省エネを徹底するという道しかありません。

宣言をされた自治体からご相談が持ち込まれ、2050年ゼロ排出とはこのようなことを意味するんですよ、とご説明すると、首長以下「そんなことできる訳ないし、考えたこともない」と仰います。担当者は涙目になります。

「2050年のネットゼロをみんなで目指そうね!」と、北極星のような方向性を示すものとして掲げるということであれば、その意義はわかります。ただ、この目標を掲げた自治体が増えたから、国の目標を引き上げるべきというのはかなり距離があるように思います。国の目標も「みんなで目指すビジョンだから!」という文脈で仰っているのであれば良いのですが・・。

やはりイノベーションが必要です

高いビジョンを持つことは、変化の時代にあっては特に重要だと私も思っています。実現できそうな目標を掲げても全く魅力的ではない、というのもわかります。ただ、いつも申し上げることですが、エネルギーは究極の生活必需品であり、生産財です。国民の生活・経済に与える影響が非常に大きいのです。

自治体レベルで考えると、2050年ネットゼロがどういう意味を持つのか、少し身近にご理解いただけたでしょうか?「自治体」が多く集まったものが「国」です。国として2050年ネットゼロを掲げるのであれば、どのようにそれを達成するのか、そして、2050年に日本に生きている人たちが(30年後ですから、私も生きている可能性が高い)どのようなエネルギーで生きていくかを真剣に考えなければなりません。

もちろん低炭素化をあきらめるわけにはいきませんので、私はイノベーションを進めるしかないと思っています(繰り返し申し上げていますが、イノベーションは「無いものを生み出せ」ということではありません。今ある技術のコストがあと10%、20%安くなるだけで描けるビジネスモデルは大きく変わります。それも立派なイノベーションです)。

そうでなければエネルギー政策に風穴があくどころか、日本が穴だらけです。


#COMEMO #NIKKEI

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