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『猫を棄てる 父親について語るとき』 村上春樹

村上春樹のエッセイ。

猫を棄てに行き帰宅したら、棄てたはずの猫が自分たちよりも先に家に帰っていた。

このエピソードを比喩として、棄てたはずのもの抑圧されたものが回帰するという、村上春樹作品によく登場するフロイト的なモチーフがここでも使われている。

人には、おそらくは誰にも多かれ少なかれ、忘れることのできない、そしてその実態を言葉ではうまく人に伝えることのできない重い体験があり、それを十全に語りきることのできないまま生きて、そして死んでいくものなのだろう。(本文p.33)

今回の話は村上春樹の父親の3度の徴兵体験を、父親から聞いた断片的な情報と残されている記録から探っていくというエッセイである。

父が話すことなく、息子も父に訊ねることのなかった、重い体験を掘り起こしていく。
こういった個人的な体験を語っていくことが、日本人の棄ててきた記憶を呼び起こすことになる。

村上春樹は短編小説やエッセイの方が面白いと思う。

村上春樹のライフワークが端的にまとめられているようなエッセイだなぁと思った。

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