ドキュメンタリー『ZAPPA』
アレックス・ウィンター『ZAPPA』(2020、アメリカ 、128分)
フランク・ザッパの太く短い生涯を振り返るドキュメンタリー『ZAPPA』。
世の中にはこんな凄い人がいるんだな、後世に語り継がれる偉人の一人だな、というのが最初の素朴な感想。
恐らく多くの方と同じく、私にとってもどこから入ればいいのか分からない、ゆえに今に至るまで後回しにしてしまっていた音楽家。
だからこそ、逆に楽しめたとも思う。
よくここまで記録を残していたものだ、という映像ばかり。
少し詰め込み過ぎな編集にも見えたけど、その手法でも全く時間は足りなかったのだろう。
本人が記録魔だったのか、マスター・テープ類も全て自分で自宅地下の倉庫に管理していた。
中にはロック・ファンなら思わず身を乗り出す類のものも。
活動初期こそ、1960年代半ばということもあり、書いた曲を再現するバンドはロックという型だった。
ただ独学で習得したらしい作曲も、クラシックの熟練者を驚嘆させるほどのもので、ときに高度過ぎて演奏できない人もいたという。
当然、コンピュータの作曲ソフトが現れればすぐに取り入れる。
頭の中に湧き続ける着想をどう具現化するか、それが常に人生の最優先事項だったのではないか。
意図的にナンセンスな歌詞だったり、どこまで本気なのか外からだと判別しかねるユーモアの感覚がある。
それは不思議なねじれを持つ楽曲や、アルバム・カバーやミュージック・ヴィデオにも通底する。
この辺りが笑えるかどうかが分かれ道になりそう。
今の私としては、エレクトリック・ギターが中心の曲よりも、いわゆる現代音楽に近いような録音に興味が持てそうな予感がしている。
ミュージシャンの誰もがレコード会社との契約に縛られていた時代に、表現者たちの権利や自由を守る闘いの最前線に立った。
私の目には、その姿が一番かっこ良く映った。
理路整然とした語り口は明晰そのもの。
仕事に対する考え方も明確で、商業性と芸術性はしっかり切り分けている。
それでいて、自分のレーベルを立ち上げ経済的にも成立させていたところは見事だ。
ビロード革命(1989)後のチェコスロバキアで、自由の体現者として人々から熱烈な歓迎を受ける様子は象徴的だ。
家族や共演者たちが語る人間としての側面も味わい深く、何やら掴みどころのない風変わりな存在だった芸術家が、少し身近に思えてきた。
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