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「本づくり」ここだけの話

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テーマは「編集者の本音」。読者や著者の方にわざわざ伝えるほどではない。けれど、じつは大切にしていることを書きました。参考になるかもしれませんし、ならないかもしれません。
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軽井沢に出版社をつくるまで。

2022年の年明け、長野県軽井沢町を本拠として、出版社を登記しました。 社員は私一人。株式会社としての法人格です。 ここでは、なぜ一介の編集者にすぎない私が、会社を辞めて、創業を決めたのかを書いてみます。 1・サラリーマン万歳。起業家魂なんてゼロだった 経歴は、書籍の編集を10年。主にビジネス書や新書をこれまで手がけてきた。思い返すと新卒から20年、いっときも離れることなく、どこかの企業に雇用をされていた。毎月給与をもらうことに慣れきった自分がなぜ起業を決めたのか。リスク

【出版社退職エントリー】 SBクリエイティブを卒業しました。そして次の目標へ

2022年2月にSBクリエイティブを退社しました。 2014年6月に入社して、8年弱。編集者としてたくさんの機会を与えてくれた、人生でも忘れがたい時間です。とてもすべては書ききれません。とはいえ、次へのチャレンジの萌芽もそこにはあるはずで、時間をとってまとめてみました。何の参考にもなりませんが、一人の人間の記録として読み飛ばしてみてください。 企画会議で撃沈 ー入社〜種まき 前職のフォレスト出版には2年半、在籍した。そこからの転職。 フォレスト時代は初めての書籍編集だった

「いつか本を出したい!」という人が考えておくといいこと

移住をして、別業界の方と話す機会が増えました。 そんな中でもよく聞かれる質問がこれです。 「どうすれば本は出版できるの?」 異ジャンルの方からすると、出版とはブラックボックス。誰もが商業出版すればいい、とまでは思いませんが、もしかすると出すべき人に情報が閉ざされているのかもしれません。適切なフラット化は、未来の社会をつくる、一つのアプローチになるかもしれない。 そんなことを思って、出版社の「中の人」として、10年間、書籍編集の仕事についてきて、「大事にしたほうがいいかも

タイトルづけは「転がる言葉」を探す

本のタイトルづけはむずかしい。 本が売れるかどうかは、タイトルが9割、だとも言われる。それは表層的には、タイトルが書店で目にするいちばん最初の情報だからそこでつかまないと逃げられる、ということではある。だけど、それだけじゃない。タイトル=背骨が「決まっている」本は、本づくりの段階でも、腰が座りやすい。書き手も編集者もそこに向けて共通の目標ができる。 では、どうやって考えるべきか。いろんな人がいろんなことをいう。どれも正しいような気がする。 おそらく、これまで本づくりをや

なぜ本はそんなに大事か

担当本が校了をむかえ、妻子が実家に帰省している時期、ということもあって、軽井沢町内の宿泊施設に泊まりにきました。 油やさん、というところです。 かつて堀辰雄が執筆活動をした中山道、追分宿のお宿。車で5分の距離ですが、周囲は宿場町の雰囲気をうっすら残していて、気分が変わります。 *** そんな作家の痕跡を感じる場で、少し"本"について考えてみました。なぜ、デジタル隆盛の時代にあって、古典的なメディア、本をつくることに自分はこだわっているのか。「本は無くならない」と多く人

リライトの心得 ー編集者は文章をいかに直すか

「リライト」とは、別の方が書いてくださった原稿をよくするために、加筆・修正をすること。Re writingのことです。 そのスタイルは、編集者によって人それぞれ。ここでは、主にライターさんから上がってきた原稿を、さらに磨き上げるために、書籍の編集者である私が、どんな視点で、いかに修正を加えているかを紹介します。 1・前提:加筆は断りを入れるべしそもそもの話ですが、書き手の原稿に無断で手を加えることはNG な行為です。それはライターさんからの原稿であっても同じ。まずは、「改

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「売れる本づくり」という呪い

のっけから、ツッコミが入りそうなタイトルである。 ここ最近、ずーっっと、もんもんと考えていることについて言葉にしてみる。 出版業界で「売れる本をつくる」というのは、華々しいことだ。Jリーグでいうと、ゴールを決め、得点ランキング上位に入るようなもので、その結果をもって、待遇が上がったり、上位チームに引きぬかれたりもする(ステップアップ)。そもそも担当本が「ベストセラーになる」とは、著者・制作スタッフ・販売すべての関係者の、その努力が報われる、すばらしい瞬間であり、めざすべき

「コミュニティ?何それ?」と思っていた編集者が出版×コミュニティに挑んで、気づいたこと【売上への本当のインパクト】

出版社の人間として、本を書籍する過程で、2つの「コミュニティ」にかかわりました。 それぞれの本、「宇宙に命はあるのか」は5万部に、「医者の本音」は13万部に、とそれぞれ一定の結果につながりました。 では、実際にコミュニティはいまも有効なのか? 編集者はどう立ち回るか。ぶっちゃけ販促効果は?コスパは?みたいなことを書いてみます。 視点は、あくまで本の編集者。コミュニティビジネスの専門家ではないことで、やや外からみた視点になると思います。(※ここで語るのは、自分が主役になる

新書のタイトルを考えるときに心がけているたったひとつのこと。

最近、自分の新書タイトルだけでなく、部内のタイトル会議に参加する機会も多くて、「タイトルで本の生き死にが決まるなぁ」と思うことしばしばなので、自分がどんな感覚でタイトルをつけているか、振り返ってみた。 もちろん「売れるタイトルのつけ方」と大見得を切ることはできないので、あくまで自分の場合、と断っておきます。 大前提として、想起しておかなければならないのは「新書コーナー」は目的買いよりも衝動買いが圧倒的に多いはずだ、ということである。 たとえばビジネス書の棚の前にいくお客

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企画は「熟成タマゴ」のように考える

苦労した話から。 書籍の編集を始めた頃、企画の深め方も、タイトルのつけ方もいまいちわかっていなかった。タイトルを100個くらい書き出してみるのだが、どれもピンとこない。最終的にはダーツで決めた(くらいの感覚だった)。目の前に心惹かれる素材(著者のメソッド)があるのに、その最適な届け方がわからないのだ。 これって、その渦中にいると相当しんどいんですよね。 外部の「見えている人」からするとこうすればいいのに!ってすぐわかったりするのですが、考えているつもりでも、まったく答え

編集者の本音④売上よりも大切にしていること

3刷2万部。 おかげさまで「医者の本音」に重版がかかりました。 このブログが売れ行きに貢献しているわけではありませんが、もちろんうれしいのでここでご報告!まだまだポテンシャルのある本だと感じてます。 こうして関係者とともに精魂込めて作った本が売れるというのは、なにりよりもうれしいことなのですが、それ以上に大切にしているものとは何か?というお題目です。 最初にお断りしておくと、やはり「本が売れる」というのはすごく大切な事。 編集の仕事って、お願いしてばっかりなので、唯

「すごい人」と仕事をするとき心がけていること

あまり役に立たない話を書きます。 編集のおしごとで著者さんとやり取りをするとき、相手は必ずといっていいほど「すごい人」なわけです。そんな人と、どうすれば関係が切り結べるか。メソッドではありません。僕が目指す「境地」みたいなものです。それも道半ばです。 ** 普段だったら会えないような成功者や経営者の方とお会いできる。質問ができて、話を聞ける。このしごとの「役得」でもあるのですが、とはいえ、「相手にメリットをもたらせる自分でないといけない」といつも焦りを感じていました。な

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編集者の本音ーー編集者の「大丈夫です!」はどこまで当てになるか?

8月6日配本で担当の書籍が発売になります。 中山祐次郎さんの「医者の本音」というタイトルの新書です。 タイトルにあるように、外科医である中山先生が、普段患者に伝えることのない「本音」を包み隠さず書くよ、治療や薬のことはもちろん、金、女、死…包み隠さず明かしますよ。 と、そんな本です。 実は本書はタイトルで少しもめました。 「医者の本音」では、まるで著者である中山先生が医者を代表して、最大公約数の「本音」をぶちまけるような見え方をしてしまう。そうではなくて、あくまで本

編集者の本音② 持ち込み企画に、なぜ冷たいのか?

本を出したい。 そんなご相談だったり、企画提案を受けることがあります。 知人のプロデューサーさんの紹介や、出版パーティー(あまりいきません…)や飲み会で知り合った方から後日、改めてというパターンもありますし、突然「あの本の奥付をみまして…」と手紙をしたためてくださる方など、出会いはさまざまです。 「なぜ編集者は持ち込み企画に冷たいのか?」 と銘打ってみたわけですが、「いや、そもそも冷たくはないかも」と一方で思う自分もいます。編集者はつねにあたらしいネタを探していますし