見出し画像

五輪メンバー招集苦戦=日本サッカーの進化

いよいよ今週7/25に日本代表の五輪サッカーが始まる。
先日、メンバー発表があった2024年パリ五輪サッカー日本代表メンバー18名。日本は候補選手の中で所属先の海外クラブとの交渉に苦戦し、主力選手の招集断念およびオーバーエイジについても招集ゼロとなった。
主力選手を招集できなかったことに、JFAの交渉力を批判する声もあるが、この五輪メンバー招集苦戦は日本サッカーが進化していることに他ならないポジティブな発展で、それに伴う一つの問題に過ぎないと言える。

①年代別代表主力、松木玖生と鈴木彩艶の落選

今回、五輪代表メンバーから落選となった松木玖生と鈴木彩艶については大きな衝撃をもって報道された。落選理由について大岩監督からは明言は避けたものの、山本昌邦NDが補足として松木の海外移籍の可能性に言及したことで
「松木(+鈴木)はこの夏海外移籍する見込みであること。また、その移籍先の海外クラブが五輪へ派遣することを拒否する可能性が高いため、五輪登録メンバーに選出しても所属クラブが認めず代表に帯同できない事態に鑑み、落選となった」
という解釈がなされた。
(同時に、選手の機微な情報をペラペラと漏らした山本NDに対する人間力も問われた)

当初は「一クラブから招集は2選手まで」という縛りのせいで落選かとも言われたが、FC東京側がJFAからの事前打診を受けて「3選手(野澤、荒木、松木)の選出について了承」という意向を示していたことも明らかになったため、海外移籍による落選という理由が確実に。
他にもヨーロッパで活躍中の鈴木唯人や久保建英、内野貴史…等々20名以上のヨーロッパクラブ所属選手が落選。https://x.com/tyuu__bou/status/1808368108001972710?s=46

また、オーバーエイジについても数ヶ月前の報道では遠藤航選手らが候補になっていたものの所属先のリヴァプールから招集拒否をされ、結果としてオーバーエイジなしで挑むことに。


②五輪に対する概念、世界強豪国と日本の違い

「金メダルを目指すと言いながらベストメンバーを組めないのか」という批判・失望の声がファンから挙がっているが、個人的にはこれは日本代表が強豪国に近づいた証とポジティブに捉えている。
そもそも、世界各国で五輪代表にフルメンバーを招集できる強豪国はまずない。言うまでもなく大きな理由は、クラブ側が選手派遣を拒否できるから。五輪はFIFA主催の大会ではないため、各国協会が招集をかけてもクラブ側が派遣拒否する。

フランスは開催国であるのに、レアル・マドリードとの交渉の末、エムバペの招集を断念。前回の東京五輪においても、ヨーロッパでプレーするストライカーではなくオーバーエイジで招集できたのはメキシコのティグレス所属のジニャックだった。
既にA代表招集されている23歳以下の選手は過密日程の兼ね合いからもA代表を優先、そしてそのレベルの選手は欧州ビッグクラブに所属しているケースが多く、クラブ側も容易には五輪へ送り出さない。
日本に縁がある事例で言えば、2016年リオ五輪において日本と同グループに入ったスウェーデン実に52人もの招集拒否に至り、エリクソン監督がメンバー選考で極めて苦しんだ事例があった。

また、五輪自体に対する注目度も優先順位も低く、五輪という大会に是が非でも主力を送り込まなければと意気込む強豪国のファンはそう多くない。W杯と五輪では比較にならないほど重要度が違う(事実、フランス国内での五輪サッカーのチケット売れ行きは悪い)。

この五輪に対する概念が、なぜ世界の強豪国と日本では違うのか。生じている理由は大きく2つ。

(1)
日本の23歳以下選手は
ヨーロッパのクラブ所属が今まで少なかったこと
(2)
日本人は五輪に対する注目度が高く
重要視するファンも多かったこと


「(1)日本の23歳以下選手はヨーロッパのクラブに所属が今まで少なかったこと」に関しては過去の五輪大会における招集メンバーの所属先を見れば明らかで、ほぼ大半が国内Jリーグクラブ所属。Jリーグ側はJFAと協力関係にあるため招集については基本的に全て応じる形。なので23歳以下選手のベストメンバーを編成できる状況で、JFA側もファン側もそれが当然と認識。
「五輪代表は大事なビッグイベントであり、全く制約無くベストメンバーを当然招集できる」という概念だった。

しかし今やヨーロッパに所属する選手が一気に増え、また、ヨーロッパのクラブに対して五輪招集の強制権もJFAは擁しておらず、クラブが協力する姿勢も国内Jリーグクラブに比べれば雲泥の差。このヨーロッパ所属選手の比率が一気に高まったことが招集困難の大きな理由に。

「(2)日本人は五輪に対する注目度が高く重要視するファンも多かったこと」については、これはサッカーに限らず五輪全体に対する国民感情の違いであり、データで見ると以下の通り。

・五輪開催2年前の調査(NHK)

日本:東京五輪に「関心あり78%、関心なし22%
フランス:パリ五輪に「期待している37%、期待していない57%

さらに、今回のパリ五輪について各国にToluna社がアンケートをとった結果もすごい。

パリ五輪を視聴する意向の人:フランス64%、日本69%

つまり、日本人は五輪好きであり重要視している一方、ヨーロッパ(フランス)においてはそこまで五輪の重要度は高くなく冷めているという結果が出ている。地元開催国の国民よりも日本人の方がパリ五輪を見る意向となっている。それはそのまま五輪サッカーに対する国民熱意に直結する。

今後、五輪全体はともかく、ことサッカーに限れば日本も国民感情・熱意は変化していくのではないかと推測する。
つまり、五輪のサッカーは
「フルメンバーを全力で招集するのが当然の大会」ではなく、
「難交渉の末、招集できたメンバーの中でベストを尽くす大会」に日本サッカーファンの概念が変わっていくのではないか。

過去の五輪日本代表では2016年リオ五輪において、久保裕也が当時所属していたスイス・ヤングボーイズがUEFACL予備予選に挑む重要な時期だったため久保の招集を拒否、リオ五輪への出場断念になった事例が驚きをもって伝えられた(結果、久保はシャフタール・ドネツク相手に2得点を挙げる等、CL予備予選で大活躍)。
ただ、今回のように何十人ものヨーロッパ所属選手が落選したことはないため、今大会を機に大きく潮目が変わったものと考える。つまり、ファン側も「ヨーロッパ所属選手を五輪に呼ぶのは相当難しいんだな」という共通認識に至るようになるのでは、と。

また、国民感情で言えば日本代表が今まで何十年も五輪に出場できなかったことも大きな要因だった。1996年アトランタ五輪で前園真聖擁する日本代表が28年ぶりに五輪出場の切符を掴むことになり、大きな熱狂を産んだが、今やそれ以後8大会連続で出場する五輪常連国となっている。
「出ることが叶わない夢の舞台をもぎ取った」から
「アジアの予選を突破して当然、五輪に出て当然」へ変わっていった、これも大きな変化。

日本サッカーファンも1990年代、2000年代に比べれば相当目が肥えてきて、五輪代表に全力を注ぐ形よりはクラブでの立場を配慮する目線も増え、各強豪国のメンバー編成を見た上で「五輪はそういう位置づけの大会なんだ」と他のヨーロッパ強豪国のファンと同様の考えで認識し始める人が増えてくるのではないか。

③代表招集の難しさは、日本が強豪国に近づいた証

個人的には既に「難交渉の末、招集できたメンバーの中でベストを尽くす大会」という位置づけで五輪を見ているので、今回の主力選手落選については理解も納得もしている。そして元々自分はオーバーエイジ不要派であり、5月の報道では遠藤航が招集濃厚と言われてたものの、クラブに拒否されて良かったと思っている。五輪でメダル獲得も重要だが、リヴァプールでの新シーズンポジション争いの方を優先すべきだと思うからだ。開幕前に疲労や怪我のリスクもあるし、欧州メガクラブ所属からわざわざ呼ぶべきではない。

それはそれとして、五輪自体はどこまで日本が結果を出せるかを楽しみにしている。何人か欠けてはいるものの、このメンバーが世界相手にどれだけ通用するのかは日本サッカーの指標としても、また、単純にエンターテイメントとしても楽しみ。

さらに、五輪サッカー競技自体のレベル低下について冷めた目で見ているかというとそうでもない。先ほど挙げた一部強豪国を除けば、「世界のスカウトの目に止まる絶好の舞台、自らの力を存分に見せつける」、「国のためメダル獲得を本気で獲りに行く」と意気込む各国の選手達は大勢いる。

1996年アトランタ五輪で優勝したナイジェリア、
2000年シドニー五輪で優勝したカメルーン。

当時のメンバーが、あの優勝をどんなに誇らしく思っているか、一国だけでなくアフリカ全体での大きな偉業として認識しているのは数十年経過した後のインタビューでもよくわかる。
また、2004年アテネで準優勝のパラグアイは全競技の中で同国史上初のメダルがこのサッカーにおける銀メダルであり、2024年現在も夏季五輪で獲得した同国唯一のメダルとなっており、国としてとてつもなく重要な功績となっている(日本はGLで対戦し3-4で敗れている)。

メンバー編成においても、今回のパリ五輪でアルゼンチンはマンチェスター・シティのFWフリアン・アルバレスを招集しているし、2012年ロンドン五輪でウルグアイはカバーニとスアレスの超強力オーバーエイジ2トップで挑んでいる。
また、スペインはヨーロッパの中では異質で、スペインの法律上、五輪招集を国内クラブは拒否できない制度となっている。そのため、レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリードといったメガクラブ所属の選手ですら基本的には招集可能となり、ドリームチームの編成が可能となっている(ただし、海外クラブ所属選手にはこの法律は適用外のためマンチェスター・シティ所属の代表候補選手は当然派遣拒否されて招集できない)。

このように全力で優勝を狙って挑む国は当然いるため、五輪サッカーのレベル低下や存在意義をそこまで冷めた目でみることはない。

繰り返すが、この招集困難ぶりを見て日本サッカーはまた一つ進化したのだと感慨深く思った。

海外クラブから

「この選手はうちにとって重要な戦力orステップアップの移籍交渉中だから五輪には行かせない」

と招集拒否され続けるのは日本サッカーの成長そのものであり、それだけ各選手がクラブから戦力面で重要視されていて、誇らしいことだから。
そして、例えフルスペックではなく、難交渉を経た中でのベストメンバーだとしても彼らが世界にどこまで通用するのかは楽しみだし、今後のキャリアの上でも重要な舞台となる。
W杯とはまた違うテンションにはなるが、応援していきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?