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僕達の甲子園物語


夏の甲子園大会が始まった。
あの頃の僕達は朝から高校生の奮闘ぶりにワクワクしながら、テレビの前に釘付け。
一試合が終わる頃にはいてもたってもいられなくなり、約束もしていないのに自然と町内のグラウンドにグローブを持って集まった。

あの頃の僕達は甲子園球場で活躍する高校球児さながらに、ヘッドスライディングやダイビングキャッチをしては、ブラウン管の中のヒーロー達の真似事に酔いしれていた。

そう、僕達にとっては町内の低いマウンドがあるグラウンドこそが甲子園球場となっていたのだ。




蝉が夏を盛り上げるように鳴き盛る町営グラウンド。
昼食をさっさと平らげ、再びいつものメンバーが集まっていた。
目の前に対峙するのはリトルリーグの選手達。
メンバーは僕達が15名、彼らリトルリーグは24名。

僕達がいつものように野球に夢中になっていると、リトルリーグの選手達が続々とグラウンドに集まって来た。
彼らはこれからここで練習があるから早く帰れと言う。
それに対して僕達の6年生グループ5人が反発し、それなら俺達に試合で勝ったら退いてやるわ、と強気な態度。
リトルリーガー達は頭に血が登り、上等だとその意見を採用した。

そんな事情で、リトルリーグの監督が来る迄という条件で試合をする事になってしまった。
僕達は早速。誰がスタメンで出るかの相談を始めた。
みんな気合いが入って、やる気満々の輝いた目をしている。
なにせ初めて他のチームと試合が出来るのだ。
自分の力をどこまで示す事ができるかワクワクしているのだろう。

しかし、僕はとりあえず遠慮した。
だって、ちゃんとしたユニフォームを着ている相手選手達はとても上手そうに見えたから。

試合序盤、試合は拮抗していた。
相手のピッチャーをはじめとした守備が良かったし、僕達の6年生右腕も活躍していた。
グラウンドにはリトルリーガー達特有の野次が飛ぶ。

打順が2週目に入ると、僕達の打線が繋がりだし5回までに4点を奪った。
リトルリーガー達はなんとか1点。
リトルリーグの監督は仕事で遅れるという連絡があったそうだ。

僕達かなり強いんじゃね、なんて思っていると6回の守備で僕が呼ばれた。
なんと、ピッチャーをやれだとさ。
ビビリの僕はそれでも断りきれず、マウンドへと向かった。

僕の球種は2つ。
左腕から放たれる早くはないストレートと、曲がらないカーブ。
それでもストレートの伸びには自信があったし、カーブも曲がりはしないが多少落ちた。
緊張のマウンドはたったの4球で終わった。
最初の2人は初球をショートゴロ、3人目は曲がらないカーブを見逃してストライクのあと同じくショートゴロ。
呆気なく僕は6回のマウンドを終了させた。

7回の攻撃で僕達は4点を奪っていた。
僕もピッチャー返しでセンター前ヒットを放っていた。
来た球に逆らわずピッチャー返しって、高校野球の基本だからね。

試合を始めて1時間程経過したであろうかという頃、僕達の攻撃はまだ終わらず、1アウト2塁という時に突然、雷の音が轟いた。
少し前から空は暗くなり始めていた。

空を見上げると黒い雨雲がグラウンドの真上に迫っていた。
間もなく大粒の雨が土の地面を打ちつけてきた。

「これじゃあノーゲームだな」
リトルリーガーの誰かが叫びながら屋根の下に避難する。

「アホか。俺達の雨天コールド勝ちじゃ」
僕達の6年生のキャッチャーが自転車に向かい走りながら叫び返す。

僕達は夕立ちに打たれビチョビチョになり雷に追いかけられながら、散り散りに自転車を走らせ家路に着くのであった。




これが僕達の小学生時代の甲子園物語。




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