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深淵

人生で一番、しんどかったのは小学生高学年だった。 なんてことはない。小さないじめがあった。 少し前まで仲の良かったグループの友人に ある日から突然無視をされるようになった。 遊ぼうと近づけばよくわからない掛け声を合図に まさに蜘蛛の子を散らすように逃げられ、 給食の時には班員に目の前で悪口を言われ、 運悪く、家庭環境にも少しトラブルがあった。 父が浮気をしたか、家に寄り付かなくなった。 そのせいで母は荒れ、日々の鬱憤の吐き出し場所に 私を選んだらしくことあるごとに 「なん

    • お腹がすいた。

      会社を休んだ。 もう2ヶ月ほど前から体はおかしかったけれど だましだましやっていたものだから ついに無理が祟ったか、動けなくなった。 理解のある職場で、 数日休みをもらえることになったけれど、 やることもなく、 ただぼーっとベットに横たわる。 そうしたら、職場から連絡がいったか、 両親が片道5時間もかけて 一人暮らしの家まで来てくれた。 あれよあれよと 病院に連れて行かれたけれど 病名なんて出ずに、 また家に帰ってベッドに横たわると、 次にハッとした時には 乱雑な部屋

      • ちょっとした小説「暖冬」

        **** 「先輩、飲み連れてってほしいっす」  敬語すらうまく使えない二つ下の後輩。誰にでもフランクで、礼儀正しいとは言えないのに誰からも好かれる、そんなかわいい男の子。 「えー、ワインでいいならおごってあげるよ」 「ワイン!飲んだことないっす!」  犬みたいにまあるい目が私を見下ろして、真っ白いほっぺが嬉しそうに赤く染まるのを見るのが好きだ。もしもこんな弟がいたら、さぞ楽しかろうと想像を膨らませたりしながら、互いのスマホのカレンダーアプリを開きあって、食事の予定を組んだ。

        • 航空車にご招待

          初めまして、湯井です。 突然ですが、私は空を見るのが好きなようです。 そう気づいたのは、どうやら周りの大人たちはそうそう空など見上げないらしいことを知ったから。 空を見上げて見える何かが好きというよりも、空というものそのものがとても好きで、言ってしまえば、星の名前なんて北極星とか、ベガとか、そんな星の名前の代名詞のようなものしか知らないし、星座だってオリオン座しか見つけられない。ただのど素人です。 ただ、ふとしたときにぼんやりと空を見上げている自分に気づいて、そういうとき