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★再掲載◆遠吠えコラム・「出産子育てで苦労する女性のために自民党政治は何をしてきたのか~岸田首相の『リスキリング』発言を巡って」(※画像は近所の蕎麦屋の鍋焼きうどん)

 先日挙げた岸田文雄首相の「リスキリング」発言に関するコラムについて、書き直しました。後半の「学びとは何のためにあるのか」というテーマについては別稿で取り扱うこととしました。あくまで、「リスキリング」という発言に透けて見える政治の怠慢をテーマに書き直しましたのでよろしくお願いいたします。

 岸田文雄首相が産休・育休中の女性たちのリスキリング、いわゆる「学び直し」を後押しする発言が波紋を呼んでいる。この発言にも腹が立ったんだけど、この発言を巡る大学時代の先輩のツイートにさらに頭来たんで、怒りの遠吠えをしようと思います。ガオー!

 出産や子育てによって女性の多くは職場から一時的に離脱してしまい、年収やキャリアの面で同期の職員、とりわけ男性職員との間に差が生じてしまうという課題がある。こうした課題を解消するために、出産・子育てで職場を離れている間、リスキリングによって自己研鑽を積んで同期職員との差を埋めたり、円滑な職場復帰につなげたりしようというのだ。この課題について、自民党の大家敏志議員が代表質問をし、出産・子育て中の女性が自身のキャリアのために「学び直し」を後押してはどうか―と提言した。この提言に対し、岸田首相は「出産・子育て中の女性の学び直しを後押しする」と答弁した。

 ただ、出産・子育てに伴う身体的・精神的負担は大きく、学び直しの時間を確保するのは困難なのではないか―といった疑問の声がSNS上で上がった。加えて、そうした身体的・精神的負担の大きい時期にキャリアアップのための学び直しを推進する姿勢にも、子育てや出産の大変さに対する理解が欠如している―と批判されていた。

 この発言を巡って、私の大学の先輩が、「岸田首相は議員の答弁に答えただけ」だとし、ブロガーで著作家の山本一郎氏が書いたコラムを取り上げて、「批判しているのは『わかってない』層」とつぶやいていて、怒りを覚えた。参考までに山本一郎のコラムを上げておく。

 このコラムはざっくり言えば、出産・子育て中に職場を離れている間、自己研鑽などの努力を積まない女性たちのキャリアを易々と保障できる余裕は企業側にはないから、首相の学び直しを支援する考え方自体は間違っていない―という趣旨だ。

 人生のあらゆる段階で、自由に学び直しができることは素晴らしいことだ。だが、今回問題になっていることは、学び直しの良し悪しではない。出産・子育てによってキャリアや年収に生じたディスアドバンテージを、出産・子育て中で大変な女性たちの努力によって解消させようとしている点に多くの人が違和感を覚えているのではないだろうか。女性がキャリアへの影響を気にせずに子育て・出産に専念できる環境の整備が現状立ち遅れているといっていいだろう。そうした環境整備の遅れが少子化の一要因となっているとの見方もあるくらいだ。子育てによって所得格差などの社会的不利益を被ることを、経済学ではチャイルドペナルティというらしい。「ペナルティ」だよ?罰だよ?子育てって尊いことのはずなのに。

 筆者は母から出産の苦労話を聞かされたことがある。私が生まれた時は予定日より速く産まれた上、子宮かなんかに体が引っかかってしまってうまく出てくることができず、帝王切開する事態になった。その際出血が多く母は死にかけたそう。出産後もしばらく入院していたとのことだ。生まれたばかりのころはなかなか寝付かなかったり夜に起きて泣き出したりしたこともしばしばあり、心身ともに疲弊する日々が続いていたという。私が歩けるくらいに成長した時も母の苦労は続くそうで、最寄りのショッピングモールへ買い物へ行った時も、何を思ったか、突然走り出してそのまま行方不明になったのだそうだ。モールの迷子センターで行方不明になった私を呼ぶ放送を流してもらったところ、初老の夫婦に連れられて姿を現したんだそうだ。その際には手に缶ジュースを持っていたとのこと。年端もいかない子供が缶ジュースなど買えるはずがない。私を連れてきた夫婦に駄々をこねて買わせたのだそうだ。こんな危なっかしい子どもからおいそれと目を離せないだろう。私一匹でさえこうなんだ。我が家は3人兄弟だから、単純計算すればこうした聞き分けが悪く危なっかしくて目が離せない子ども3人を抱えながら学び直しをする余裕がどれほどあるだろうか。

 子育てや出産によって生じたキャリアや所得格差の是正について、筆者自身、明快な回答を持ち合わせていない。ただ、「学び直し」の後押しが最適解ではないことだけはわかる。重い荷物を背負って苦しそうに歩いている人の苦しみを少しでも和らげるためには、重い荷物を一緒に持ってあげたりして重荷による負担を解消するのがいいだろう。だが、自民党が推し進めようとしている「出産子育て中の女性の学び直し支援」は、重い荷物を持っている人が歩く道を平らにして「もっと早く歩け」って言っているようなものだ。歩きやすくはなるが、根本的な苦しみを生み出している荷物の重さは解消されていない。そもそも、荷物の重さで苦しんでいる人に対して、「もっと早く歩け」という言葉を浴びせる人の人間性が心配になる。

 出産や子育ての負担を思えば、女性たちの「社会的な不利益」の是正を、女性たち自身の努力によってのみ実現するのは困難、というよりほぼ不可能ではないか。むしろ、出産・子育てで生じるキャリアや所得への影響を最小限に抑えるには、女性の働く環境を規定している企業の側にこそ求められているだろう。ただ、山本一郎氏が述べるように、企業の側に出産・子育てで一時的に職場を離脱する女性たちのキャリアを保障する余裕が必ずしもあるわけではないのも事実だろう。そこで、企業が女性の出産・子育てを後押しし、キャリアへの影響を最小限にできる制度づくりが必要となる。その役割を担うのが、政治ではないか。岸田首相の「リスキリング」発言は、そうした企業や政治が担うべき努力には目を向けず、一番大変な思いをしている人に努力を強いている点で悪質なのである。

 かつて衆議院議員の片山さつきというが、日本国憲法の基本的人権について、「天賦人権論はやめよう、というのが私たちの基本的考え方です。」との趣旨のことを言っていた。先の大家氏の発言からもわかるように、自民党には、努力をしないものに施しを与えない―という考えの人が多いようだ。人が生まれながらに平等に持ち、侵すことのできない永久の権利である基本的人権でさえも、国のために何らかの貢献をしなければ与えたくないと思っているらしい。

 ちなみに、岸田首相の妻がかつて週刊文春のインタビューで子育てについて「ワンオペだった」と述べている。首相外遊中に公用車で観光をしていたドラ息子の教育のために父岸田文雄はどんな努力をしたのか。出産・子育てで大変な女性たちに「学び直し」の努力を促す自民党の政治家たちは、女性たちのためにどのような努力をしてきたのか。
(了)

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