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歌詞読んでみた lyric.2 / エッセイ「ダイラタンシー」

このテキストは、「歌詞読んでみた」と題し、その月に読んだ歌詞の中から数曲を抜粋し、その曲についてのコラム特に気になった歌詞にまつわるエッセイをまとめた連載である。

2月半ばに思いつきで始めた歌詞を書き起こして読む習慣、3月は無事毎日続けることができた。歌詞を書き起こしてXにポストするまでをゴールとしているので、たまに仕事の都合で0時を跨いでしまいそうな時は「明日まとめてやるか…」と怠惰が顔をのぞかせてくる。そういう時に”毎日やる”という枷は味方になってくれるので、なんとか3月はやり徹すことができた。

そして、このルーティンの目的である肝心の読書習慣だが、ほんの少しだけ時間を割けるように意識が傾いてきた。今月は何冊かビジネス書やコミックスを読めた。ビジネス書文体にかったるさと読みやすさを覚えながら読書の素振りができた気がした。

さて、今回も3月に読んだ歌詞の中から数曲を選んで感想を書いていく。前回の記事文章末にておすすめの歌詞募集をしたところ、有難いことにいくつかおすすめの歌詞をいただきました。送ってくださった方々、本当にありがとうございます。自分じゃ聞かなかったアーティストの曲を聞ける機会をもらえて連載を始めて良かったなと思えます。


andymori『クレイジークレーマー』 作詞:小山田壮平

まずはオススメされた曲。andymoriは初めて聴きました。

世間に付いていけないグズのくせ一丁前に見栄っ張りな俺をどこか諦めたように牧歌的に歌っている。俺のことは俺が一番理解して肯定してあげられる一方で、それを上手い事社会との間を取り持ってあげられるのも俺しかいない。散々ひどい目に遭ってきたお前(クレイジークレーマー)の正しい言い分をみんなに歌ってやるよ、と云う俺だって強いわけじゃないけどやせ我慢して優しくお前に唄っている。

この生きづらさに反抗するやり方が小山田壮平の場合は歌う事であり、少しでも生きやすくなるように願いを込めて作詞されたのだろう。

ひまわり畑の調子はどうだい 俺の方だって毎日咲きまくってんだ

andymori『クレイジークレーマー』より

ひまわり畑という風景が良い。雲一つない快晴の下、一面黄色のひまわりは太陽の光に向かってめいっぱい顔をあげているから。

Mr.Children『渇いたkiss』 作詞:KAZUTOSHI SAKURAI

<公式音源なし>

こちらもオススメされた曲。

Mr.Childrenは『HOME』や『SUPERMARKET FANTASY』くらいの世代なんだけど、中学生当時良さがわからなかったのでほとんど通って来なかった。『フェイク』だけはカッコよかったからシングルをTUTAYAで借りてめちゃくちゃ聴いた。なのでわたしが持ってる知識は『フェイク』がカッコいいということと、ナイツの漫才の「それミスターのチルドレンだよ!」というツッコミだけ。……すみません、曲は真面目に聞きました。

「情けないねえ…」が第一印象だった。僕と別れたあと、君はずっと僕を引きずって生きてしまえ、と願望にまみれている僕の方がめちゃくちゃ気にして、ものすごく引きずっている。身に覚えがありすぎる。

大抵の場合、君が気にすることなんてこれっぽっちもなくて、明日には僕の事なんてケロッと忘れて次に進んでいくんだよ。この歌詞で君に望んでることを僕はこれから全部自分で体験するんだよ。情けないよねぇ……。

曲の終わりに向かうにつれてメッキが剥が落ちていくのが痛い。

Mr.Children『彩り』 作詞:KAZUTOSHI SAKURAI

こちらのミスチルも同じ方にオススメされた。『HOME』に収録された曲で、このトーナメント表みたいなジャケットは覚えている。

これは中学生時分じゃ理解できなかった。逆に今この歳になったからこそ身近に感じながら聴くことができました。巡り合わせにありがとう。

無味無臭な日々のデスクワークが回りまわって人の笑顔になるという理想的なサイクルを描いている。先の曲もだが、Mr.Childerenは淡色系の印象を受ける。

2番でこの主人公の性格が掘り下げられているのだが、時事ネタにいっちょかみしては何かになった気がする小市民仕草は現代のインターネットにごまんといるネット民のそれ。2007年のインターネットはどんな雰囲気だったかを「2007年 ネット」でgoogle検索かけてみたらこんな記事がヒットした。

この曲完成当初はもちろんSNSなんて想定の範疇になかったはずだが、このネットの歴史によれば、翌年2008年にiPhoneの登場、twitterのサービス開始など、振り返ってみれば現代を示唆してるような歌詞である。ここに並んでいた07年ネット用語大全は懐かしさで死にそうになった。

この歌詞の主人公はのちにこの悪循環を断ち切り、回り回り回って目の前の人の笑顔を見ることができた。こんなに優しく自分を変えていけるならそもそもの自己評価が低すぎる気もしない。繊細で優しい人なのだろう。

佐野元春『愛のシステム』 作詞:佐野元春

オススメされた曲。佐野元春は『SOMEDAY』しか聞いたことなかったのだが色っぽくてカッコいいですね。こんなシャウトする歌手だと思ってなかった。

リフレインするフレーズが耳に残ってしまい、翌日ずっと「そこにあるのはシステム」と脳裏をエンドレスリピートしてた。

大衆音楽を謳う彼のホームページに掲載されてるライナーノーツなどを覗いてみたが、この歌詞の内容に繋がる情報は見つからず、ビート重視の歌詞作りなことだけわかった。

さようならのくりかえし 君は無口になる
さようならのくりかえし 君は無口になる
彼女の清らかな海 それは果てしない砂漠

佐野元春『愛のシステム』より

ただ、こいつさてはモテるな?と思った。女性に咎められてるであろうシーンが続いているのだが、状況を支配してるのはおそらく彼である。モテるこいつはモテまくるがゆえに、疑われ咎められなじられてはさようならを繰り返す。これが彼をとりまく”愛のシステム”なのだ

ここからは自選を紹介していく。

アリス『チャンピオン』 作詞:谷村新司

この曲の画風はちばてつや『あしたのジョー』だ。汗とワセリンの匂いが熱気で立ちこめる空気の中で歌われるのは”チャンピオン”が見せる生き様だ

谷村新司といえば『浦安鉄筋家族』の仁ママが大ファンで、24時間テレビで『昴』を加山雄三と歌ってる人というイメージだったのだが、この曲に出会ってから見方がガラリと変わった。

この曲はストーリーテリングであり、チャンピオンという生き物の心情は多くは語られない。

帰れるんだ これでただの男に
帰れるんだ これで帰れるんだ

アリス『チャンピオン』

チャンピオンにとどめを刺すのは、かつての自分のような若い挑戦者。チャンピオンは挑戦者を喰らいながら生き徹し、次のチャンピオンによってその命を終える。この曲が見事に語りあげたのは”チャンピオン”という生態系が見せる生き様だ。

わーすた『詠み人知らずの青春歌』 作詞:園田健太郎

「詠み人知らず」の文字に惹かれた。読み方は「詠み人知らずの青春歌よみびとしらずのラブソング

わーすたは好きな人が良いですよ!と教えてくれたので、直近のリリース『えいきゅーむちゅーでこうしんちゅっ!♡』を聞いてみたのだが、楽曲の感じはすごく好きでいっぱい聞きたくなったけど歌詞を読むようなグループじゃないんだろうな、と思っていた。この曲に出会うまでは

「詠み人知らず」とは作者不明であるということ。この曲をもってグループを卒業する坂元葉月の存在と、この曲が作者不明、結末不明になるまで歌い継がれて、ラブソングを歌う青春(=アイドル自身、またはその歌)が後世まで残りますようにと祈りが込められている。歌詞の色彩が淡くて綺麗で、「光陰矢の如し」に掛けた「青春は矢の如し」というフレーズは美人薄命のアイドルにふさわしい名フレーズだ。

『詠み人知らずの青春歌』はさっきわーすたを知ったわたしに疑う余地を与えないほど屈指の名曲である。この曲はきっと後世へと…。

=LOVE『ラストノートしか知らない』 作詞:指原莉乃

友人にこの歌詞は良いと前々から話は聞いていた。すごく良い

誰かのための香水が淡く薄らいだ、ラストノートに恋をしてしまった女の子の恋を描く。この曲を理解するため、まずはじめに香水について調べて、ラストノートとはどんな香りなのかを知ることにした。

香水には揮発速度に応じて、トップノート、ミドルノート、ラストノートの3種類に分かれている

株式会社いいにおいHPより引用

ラストノートはベースノートとも呼ばれており、トップノートやミドルノートが蒸発した後に感じられる、持続的で濃厚な香りのことを指す。例としては、ウッディ系の香り(サンダルウッド、シダーウッド)や、動物系香料(ムスク、アンバー、シベット)などがある。

株式会社いいにおいHPより引用・抜粋

ムスクというとボディソープや柔軟剤で使用されるあの甘い匂いまたはヤン車に吊ってあるあの葉っぱの匂い。わからない人は明日ドラッグストアかヤン車へ嗅ぎに行くといい。この曲では香りが淡いばかりに、強い香り(=昼から逢える関係)に憧れてしまう甘美な香りとして使用されている。しかし、それを手に入れてしまうことには抵抗感を表すような自己陶酔の様子もうかがえる。香りで泥濘に縛られて、一時の幸福感や自己憐憫がない混ぜになった状態が苦しくも心地よい。そういう気持ちを歌ってるのだろう。

ただ、この詞を男であるわたしがいくら調べて考察したとしても真に理解することはできないな、という限界を感じてる。この曲は女性のみが感知できる領域を歌ってる気がしてる。この歌詞についてわたしが百篇語ったところで、女性の「わかる」には敵わない。根拠はない、勘だ。

しかしそれでも、恋にとって香りとは何にも勝る呪いであるというのが、この曲の切なさからひしひしと伝わってくる。

そしてこの曲、テーマ設定もさることながら、表現も実に素晴らしい。この歌詞の情念の密度は並々ならないと思わされたのも、わたしが理解を諦めざるをえなかった理由の1つである。

君から「何してる?」が欲しい
メッセージ 右に傾く

=LOVE『ラストノートしか知らない』より

この「メッセージ 右に傾く」が最初何のことかわからなかった。悩んでる折、友達からのLINEが着信した。これか、と一方通行の呼びかけと不安と比例するように増える文字数によって、メッセージは右に傾いていくのだ。それをたった2単語につめこんだ作詞。作詞家:指原莉乃、めちゃくちゃすごいのでは?すごく良い曲で素晴らしい歌詞だった。

今回はこの曲で諦めもしたヒトの思念や感情への理解について考えてみた。

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エッセイ:「ダイラタンシー」


文章を書くことが趣味だと日々の一言一言が気になって仕方ない。自分も、他人も。片言英語のように単語の羅列でも意味は十分伝わるとわかっていても、抜け落ちた主語・述語、「は・が・を・に」、「役不足」、言葉は時代によって意味を流動的に変化させていくとはわかっていながらも、どうしても気にする自分がいる

言語が生まれた瞬間から決まってたかのように言葉を巧みで美し言葉を象ることへの憧れがものすごく強いからだ。お笑い芸人と西尾維新と木下龍也とラッパーのせいだ。とは言いつつも、0と1が生み出した大言語交流時代に少々難儀してこそあれ、脳みそ振り絞って悩むのは嫌いじゃなかったりする。

それともうひとつ、言葉によって人間関係を読もうとするクセがついてしまっているのも良くないと思っている。何を隠そうわたしは居酒屋に1000人はいる、飲み会後ひとり反省会するタイプの人間だ。日常のバーバルコミュニケーション偏重で言葉に囚われすぎてしまうと、将来思想が偏ったガミガミジジイになる気がしていて。そんな未来は是が非でも御免こうむりたい。文章を書く事は一生できる趣味だからこそ健康寿命はなるべく伸ばしていきたい。

この悩み、そもそも因果が逆である。人の感情や思念があっての言語なのである。言葉とは手掛かりのひとつでしかないのに、愚かにもわたしは言葉にすべてが込められていて、言葉を読み解くことですべてを理解できると思い込んでいるのだ。アホか、と。そんなことをあれこれ悩みながらなんやかんやしていたら、これはヒントかもしれなと思ったのがダイラタンシーである。

片栗粉を良い感じの分量で水に溶かすと、圧力が加わった時に固体に変化して、でんじろう先生が地面にたたきつけたりするあの流体。この衝撃を受けた時に固まる性質を利用して、この流体に似た素材が防弾ベストに採用されたりしているだとか。

型にはめて言葉尻をもてあそぶのではなく、人の感情や気分の機微の液体の握り方を心得ることこそ最善なのではないか。そうすることで自分の頑固も少しはふやけてくれるかもしれない。

わたしの目論見では、この液体を理解し、それにふさわしい言葉を授けてあげられた時こそ、わたしが理想としている”言語化”が達成されるではないかとにらんでいる

そうとくれば早速実践だ!と思ったのだが、わたしは友達が少ないのを思い出した。服を買いに行くための服がない。言語化の難儀はまだしばらく続きそうだ。

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以上、3月度の「歌詞読んでみた」になります。本稿コメントやXのリプライ、DMにておすすめの歌詞や感想などいただけますととても嬉しいです。それではまた来月に。

おしまい。

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