見出し画像

総理大臣のいない国家。それが日本!!(憲法夜話)18

国際法の主体は主権国家である

近代国際法というのは主権国家を前提に作られたものであるからだ。

すでにどこかで述べたが、主権というのは「天上天下唯我独尊」であって、主権を超えた権威は存在しない。

そうした主権国家が並立しているのが国際社会であって、国家同士はみな理論的には対等である。

分かりやすく言ってしまえば、何をしようが勝手だし、誰の干渉も受けない。

しかし、どの主権国家も勝手なことばかりしていては、国際秩序が保てない。

そこで生まれたルールが国際法である。

したがって、国際法の主体は主権国家であり、国家意志を決定する中央政府の存在を前提にしている。

一口に国際法と言っても、平時と有事とでは、それぞれ違う法秩序が支配する。

戦争の発生、継続、終結は戦時国際法というルールに従うことになっている。

ところが、日本が他国からの攻撃を受け、中央政府が事実上存在しなくなってしまえば、その戦時国際法というルールは適用されなくなってしまう。

つまり、日本人は戦時国際法に基づいた、正当な武力抵抗も降伏もできなくなるわけである。

もちろん、相手側と交渉することも、友好国に助けを求めることもできない。

また中央政府がなければ、相手国は日本人に対して何をやろうとも国際法に触れることがない。

極端な話、皆殺しにされようが、こちらは何もできないということである。

大東亜戦争の末期、日本の大本営は長野県松代に設備を作って、いざというときにそこに丸ごと大本営を移転できるようにした。

これを見て「国民を捨てて、自分たちだけが助かろうとは何事か」と考えるのは短絡的で、中央政府機能がなくなれば、日本は降伏することさえできなくなるのだ。

幸いにして日本の場合、大本営は最後まで健在であったので、日本はポツダム宣言を受諾することができた。

だが、戦後の日本では、中央政府が存在しなければ国家そのものが消滅してしまうも同然なのだというセンスがどこにもない。

だから危機感もない。

それが端的に現れているのが現在の憲法であるということができるだろう。

江戸時代も、天皇は「元首」だった!?

主権国家においては、一瞬たりとも「政治の空白」は許されない。

日本以外の国では、このことは常識となっているし、実際の制度にもそれが現れている。

たとえばアメリカの場合、大統領がもし暗殺や急病など、不測の事態で死ぬことがあれば、自動的に大統領職が副大統領へとシフトするという決まりになっている。

通常ならば大統領職への就任は、宣誓を伴う儀式が必要だが、こういう場合は後で宣誓を行えばよい。

この点において、天皇の任命を必要不可欠とする日本の内閣総理大臣とは違う。

日本の場合、内閣法では首相が死亡したりした場合、臨時の「首相代理」が置かれる規定になってはいるが、首相と首相代理とでは月とスッポンぐらいの違いがある。

アメリカの場合、副大統領が大統領の全権を引き継ぐのであって、大統領代理になるのではない。

ちなみにアメリカの場合、かりに大統領と副大統領が共に死亡したとすると、その場合、下院議長が大統領職を代行する。

その下院議長もダメなら、上院仮議長、国務長官・・といったぐあいに十何番目まで、法律で序列が決まっている。

これだけの候補者がいれば、どんな事態があっても一人ぐらいは生き残っているだろうというわけである。

しかし、そこで「さすがは超大国アメリカ!」と感心するのは早合点である。

というのも、こうした継承制度は何もアメリカの独創ではない。

ヨーロッパにおける王位継承順位を踏襲したものにすぎない。

国王が死ねば皇太子が、もし、その皇太子が死んでいれば、皇太子の兄弟が・・といったぐあいに王位継承順位は定められ、王位は自動的に移る。

王位の空白はありえない。

こうした王位継承制度は、中世のサリカ法(ゲルマンの慣習法)に由来する。

そこで日本の歴史を振り返ってみれば、サリカ法のような王位継承順位の定めはないものの、天皇が崩御されれば、ただちに次代の天皇が践祚(せんそ:皇位継承の事)なさることになっていた。・

この点において、紛れもなく日本の天皇は、ヨーロッパの国王とまったく同じ主権者であり、元首であったということができる。

一方、これに対して江戸時代の徳川幕府はどうかと言えば「将軍の不在」はしょっっちゅう起きていた。

というのも、そもそも征夷大将軍とは天皇が授ける官職(しかも令外の官)であるのだから、前将軍が死んだといっても、ただちに後継者が相続できるわけではない。

すぐに相続できるのは、徳川家の跡継ぎの地位だけである。

だから、前の将軍が亡くなって、徳川家の相続者が征夷大将軍に任命されるまでの間、下手をすると一年近く、幕府はあれど将軍がいないという事態がしばしば起きていたわけである。

つづく

【参考文献】『日本国憲法の問題点』小室直樹著 (集英社)

#日本国憲法 #主権 #内閣 #総理 #大臣 #安倍晋三 #日本 #台湾銀行 #高橋 #是清 #明治憲法 #陸軍 #海軍 #不磨の大典 #天皇 #征夷大将軍 #サリカ法



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?