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総理大臣のいない国家、それは日本!!(憲法夜話)15

行政権は誰のものか?

明治憲法はその条文に内閣総理大臣の規定を持たなかったがゆえに、昭和に入ってその欠陥を露呈し、日本を敗戦に追いやった。

しかるに現行の日本国憲法はいかに?

この致命的欠陥は正されたのであろうか?

驚くべきことに、いまだに日本国の内閣総理大臣は憲法の中に、その権限の根拠を持ってないのである!!

そのことを示すのが、下の条文である。

日本国憲法第65条 行政権は、内閣に属する。

明治憲法と日本国憲法を比べると、たしかに現憲法には「内閣総理大臣」という語句が出てくる(第65条ほか)。

この点に関しては、明治憲法よりはずっとましになったか・・と言いたいが、実はそうではない。

何しろ、行政権は内閣総理大臣一人が持つのではない。

内閣が連帯して、その権力を保有するというのである。

日本国憲法第66条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。(略)③内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。

つまり、行政権の行使は、内閣の連帯責任である!!

上の条文は、総理大臣が何かことを決めようと思えば、閣議にはかって、全大臣の同意を得なければいけないということだ。

もし、閣議で他の大臣が頑強に反対したら、総理大臣といえどもそれを実行することができないというわけである。

これに対して、「総理大臣が自分に反対する大臣のクビをちょん切って、言うことを聞く大臣を任命すればいいじゃないか」と思ってる人も多いのではないでしょうか?

たしかに日本国憲法には下のような規定がある。

日本国憲法第68条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばなければならない。②内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。

この条文を読む限りでは、総理大臣は言うことを聞かない大臣を自由にクビにすることができる。

また、大臣の過半数は国会議員でなければならないという制限はあるものの、総理大臣が大臣を自由に選ぶことが可能になっている。

したがって、戦前のような問題が起きる可能性はなくなったのではないかと思えてくる。

ところが、実はそうではない。

現在の日本国憲法にも致命的な欠陥が隠されているのだ。

大臣のクビがなかなか切れない理由は憲法にあった!?

賢明な読者の皆さんには、言うまでもないが、近代デモクラシー国家では主権在民を基本にする。

つまり主権は人民のものであるというわけだ。

だが、実際に国家としての意思(国家意思)を決定するのは、日本のような議員内閣制の場合、人民の選挙によって選ばれた議会と、その議会が選んだ政府というこということになるわけである。

具体的には議会が立法を行ない、政府が行政を行なう。

ところが、日本において他国と違うところは、日本の最高意思決定を行なう場合、議会と中央政府の他に、天皇の存在が欠かせないという点にある。

たとえば、内閣総理大臣の進出においても、国会が議決をして指名すれば、ただちに総理大臣が決まるわけではない。

日本国憲法第6条 天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する。

憲法のこの規定がある以上、国会で指名された人物が正式に総理大臣に就任するには天皇の任命を経なければならないというわけだ。

同様に、国会の召集についても、憲法ではこれを「天皇の国事行為」(第7条)と定めている。

したがって、国会議事堂に議員が集まれば、自動的に国会が成立するのではない。

天皇の召集なしに議員が集まっても、それはただの「議員集会」であって、そこでの議決は法的に何の意味も持たない。

小泉総理大臣がなぜ、田中真紀子外相をただちに更迭できなかったという背景には、実はこのことが大きく絡んでいるのである。

というのも、たしかに前述の第68条の規定によれば、内閣総理大臣は「任意に国務大臣を罷免することができる」。

だが、そこで総理大臣が大臣に対して「お前はもうクビだ!」と叫んだとしよう。

はたして、その瞬間から、その大臣は「ただの人になる」のか?

実は、そうはならないのである。

日本国憲法第7条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行う。

1 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。

2 国会を召集すること

(略)

5 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。

(略)

憲法第7条5項の規定に注目してほしい。

この規定が示すのは、内閣総理大臣に天皇の任命が不可欠であるのと同様、国務大臣についても、天皇による任免が不可欠であるということに他ならない。

つまり、内閣総理大臣が「君をクビにする」と通告しても、その段階ではまだ正式には大臣を辞めていないことになる。

天皇が、その大臣を免官をするまでの間、その大臣は大臣のままなのだ。

つづく

【参考文献】『日本国憲法の問題点』小室直樹著 (集英社)

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