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I’m proud と PRIDE

一番J-Popを聞いていたのは中学~高校時代だった。
CDを買ったりMステを見たりして、私もふつうのそのへんにいる中学生女子だった。
一方でひねくれてもいたから、流行りのものは大概低く見ていた。
みんな流行に踊らされるのが好きなだけであって、今のトレンドなんぞは一過性のものにすぎない、と思っていた。嫌な中学生である。
 
しかし、10代のころ流行っていた曲というのは一生ものなんだな、と最近感じる。あの頃聞くともなく聞いた中で、今改めて、心に訴えかけてくる曲がある。
 
実はちょっと前に、不眠を患った。(注:今は大丈夫!)
喉元過ぎればなんとやらで、今思えば大したものじゃなかったけど、寝つきが悪いのはそれこそ10代以来で、戸惑った。
いつも当たり前に目を閉じればいつの間にか寝ていた自分の部屋で、輾転反側、身の置き場がないまま時間が過ぎていく、眠いのに、寝つけない日々。
そんなに長く続かなかったけど、結構、辛かった。

私はもう二度とまともに眠れないのかもしれない
場所を変えても、薬を飲んでも眠れないのかもしれない
そうして健康を失い、職を失い、人間関係を失って人生が終わるんだ
……とか思ったりもした(ネガティブの角度がキツいタイプ)。
 
そんな夜々に、ふっと、思い出した。
「街中で寝る場所なんて どこにもない」
――ああ。こういうことかも。絶対違うけど。
 

華原朋美 I’m proud (1996) 

小室ファミリー全盛時代。CDを買っていない子でも歌える大ヒット曲だった。小室哲哉と超高層ビルの屋上で体を揺らしながら歌っているMVが印象に残っている。ビジュアルから「不安定」が一貫していた。
 
改めて聞くと、歌詞が強いこと強いこと。
いきなり “Lonely”で始まってしまう。さびしい、誰もわかってくれない、孤独。
「くじけそう」で「壊れそう」で「崩れそ(う)」な「私」。
ところどころ、舌足らずな歌詞が子どもっぽさ・もろさを強調する。
「大人」の「誘いの手」に引かれて、右も左もわからないこわいこわいせかいで「経験」だけが増えていく恐れ。
大人になる準備ができてないのに、弱いままで街に飛び出さなければならない不安。
Aメロの絶妙な不安定感も、危うさ・寄る辺なさを表現しているようだ。

さまよったって 愛すること誇れる誰かに
会えなさそうで 会えそな気がしてたから生きてた

「人混み」を彷徨する「私」。(まだ「少子化」が今ほど実感されていなかった時代!)こんなにたくさんの人が街にいるのに、誰にも出会えないかもしれない、でも会えるかもしれない。なんてか細い望み。
 
都会の夜を背景に、未成熟な女の子の体じゅうから「愛」と「涙」が溢れてきらめく。これは名曲だ。
 
自分は夜の街をさまようタイプじゃなかったけど、この曲を今聞くと、あの頃抱いていた将来への漠然とした不安や社会に対する恐れを思い出してしまう。それはきっと、今も私の中に残っている。だから共鳴するんだ。
 
この曲のラストが凄まじい。

声にならなくても ときには想いが伝わらなくても
笑顔も泣き顔も全てみんな
かならずあなたに知ってもらうの

「全て」「みんな」「かならず」。
この勢いは、危険なのではないか。破滅的にすら響く。
この子は、まだ子どもだ。
幼さゆえの勢いで、全力で相手に自分を投げ出していく。
一つでも応対を間違えれば、この子は摩天楼からそのまま飛び立とうとするだろう……
 
この歌の「あなた」にはどうも人間味を感じられない。
「あなた」はきっと、この子の理想なのだ。現実に存在している本人その人ではなく、理想像を見ている。だから怖い。
 
歌っていたともちゃんが、まさにこの歌を生きている、ように見えた。
当代一のプロデューサーに見初められ、スターダムにのし上がったともちゃん。テレビの中の人の気持ちなんかわからないけど、でも彼女はきっとこの曲を生きていた…… 

今井美樹 PRIDE (1997)

I’m proudが頭の中に回り始めて間もなく、「そういえばPRIDEって曲もあのころヒットしたな」と思い出した。
布袋寅泰が後に結婚した今井美樹のために作った歌だそう。中学生の私はそのへんの事情を全く感知していなかったが。
 
I’m proudが「あなた」に受け止めてもらえることを必死で求めている未熟な子どもの曲だと仮定すると、
PRIDEは成熟した大人の愛をしっとり歌い上げていて実に対照的だ。
 
「やさしさとは 許しあうことを知る 最後の真実」
「だけど今は貴方への愛こそが 私のプライド」

 
「貴方」は今、そばにいない。会うことができない。
でも「私」は生きていける。「貴方への愛」を拠り所として。
(Youtubeのコメント欄を見ると、愛する人と死別した人のコメントが多く、なるほどそのような深みに届きうる曲なのだ)
 
曲の歌いだしは「誓い」で始まる。

私は今 南の一つ星を 見上げて誓った
どんな時も 微笑みを絶やさずに 歩いて行こうと

覚悟が決まった愛なのだ。悲しみを乗り越えた、悟りにも似た愛。
この人は自分で立っている。「貴方」を愛しながらも、べったり寄りかからずに。
夢見がちな少女時代。「だけど今は」と繰り返される、現在の揺るぎなさ。

私は今 貴方への愛だけに
笑って泣いてる

嵐のあとに凪いだ海のように、どっしりと安定した大人の愛情が伝わってくる。

極めて歌いやすい穏やかな曲調。
落ち着いた歌詞に、南国リゾートの空気感が漂う音楽。
円熟味を感じさせる、時代を超えた「オールタイムベスト」な曲である。
 
 
 
私の記事をいつも読んでくださってる方々ならおわかりいただけると思うが、どちらの曲の方がよりすばらしい、なんて話では勿論ない。
 
I’m proudの未熟ゆえの切実さ
PRIDEの成熟した広さと深さ

 
板書するようにまとめてしまうのも野暮、散文で感想を書くのももとより野暮であるが、
ようやく恋の歌が心に響くようになって、あの頃の名曲たちが全く違った迫り方をしてくるようになって、
ただただしゃべりたくなってしまった。
 
ご清聴に感謝。
 


(↓↓あの頃の名曲↓↓)


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