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「私がうんざりしていたのは料理ではなく“一人でする”ことだった」と気付いた美食倶楽部@京都の話

以下、先日イベントに参加してくれたライターの野村佳未さんからの寄稿文です。なお、新型コロナウィルスの近況を鑑み、3月・4月と美食倶楽部@六本木店は休業しておりましたが、特定少数限定で開催してきたイベントも3月後半〜いったん4月中旬まで中止することにいたしました。

主婦、旧友に誘われはじめての美食倶楽部へ

 三児の母、主婦歴11年。気が付くと、家庭生活においてそれなりのキャリアを築いてきた。1日3度食事を作り、それを頬張る子どもたちはメキメキ大きくなっていく。過不足なく幸せな日々。

 幼児持ちの主婦が夜遊びに出るには、それを手助けしてくれる存在が必要だが、夫はいつも、行っておいでよ!と快く送り出してくれる。そんなこんなで、奈良県在住、三児の子持ち元編集者&ライターである私は、夕刻おけいはん(京阪電車のことで、関西の人はこう呼びます)に乗って京都を目指していた。
 
 目指すは「美食倶楽部」。美食倶楽部主宰の本間氏は20年来の旧友で、元合コン仲間。「みんなで飯作って食べる飲み会。めっちゃいいから!来ない?」。京都の素敵なゲストハウスNINIROOMで、“海の京都”をテーマに開催するという。まぁ、飯作るのはなんなら今日で4回目。すでに朝食、昼食と晩の作り置きもしてきているのだが。

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会場はすでに人で溢れ、和やかな雰囲気。子連れ参加者も多く、乳幼児の声が響く。1年ぶりの再会となる本間氏とあいさつを済ませ、まずはビールをいただく。「飲みながら飯を作る」といういかしたコンセプトだ。キッチンドランカーにはうってつけ。

一人参加の私も、初対面の皆様とかんぱーい! 調理に入る前に、スペイン・バスク地方における美食倶楽部について本間氏が熱く語る。

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バスクでは公民館的に機能し、仲間同士、住民同士のコミュニケーションの場になっているとか。日本では「孤食」という言葉ができるほど、食卓がさみしいものになっている。一人暮らし、核家族が増え、仕事、勉強、習い事、生活時間の違いから、家族と一緒に暮らしていても一人で食事をする機会は多い。

途中で、本日のメイン食材“伊根ブリ”が登場。つやつやピカピカの神々しい姿に会場から歓声が上がる。

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京都の北端、丹後半島に位置する伊根町を漁場とする伊根ブリは、日本三大ブリの1つ。北海道から日本海を旅して丹後地方まで南下するころには、脂が乗り切った極上ボディに成長しているという。高級食材をそれなりのレストランで食せば値が張るが、取り寄せて調理すればリーズナブル。それも美食倶楽部の魅力の一つだ。

会話と新技で盛り上がる、日本酒片手の調理タイム

調理は4チームに分かれて開始。「ブリ大根」「から揚げ」「カルパッチョ」「ブリしゃぶ」。私はブリしゃぶチームだ。

目の前には参加者15人分の大量の野菜が積まれている。制限時間1時間のタイムトライアルだ。しゃぶチームは4人と聞いていたが、集ったのは私のほか、笑顔がステキな好青年1人。あれ? まぁ、とりあえず調理開始だ。

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野菜を洗いエノキを手で割く好青年、包丁で野菜を切りまくる主婦。「日本で一番長い路線バスは片道10時間あるらしい」などと美食倶楽部とは無関係の話で盛り上がりながらも、着々と作業は進む。いつもは黙々と、もしくは子どもたちのケンカを仲裁しながらの料理。たわいない会話で笑いながら一緒に手を動かせるというのは、なんて楽しくありがたいこと。

目の前では手際よく伊根ブリがさばかれ、その切れ端をつまみながら、日本酒をちびちび頂く。伊根ブリのお供に選ばれたのは、同じく丹後地方の与謝娘酒造から届いた日本酒たち。純米吟醸から季節限定の無濾過原酒までが並び、セルフサービスで頂く。ワインのようなまろやかな口当たりの日本酒が、ブリの脂と口の中で溶け合う。もう全部刺身で食べちゃう?最高だね!

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遅れて到着した美女がしゃぶチームに加わったが、ここで問題発生。まな板が足りない。ブリの冊切りにまな板は必須なので、野菜は手で持ち、空中で切ることにした。制限時間は1時間、まな板が空くのを待つ余裕は無い。

白菜左手に右手の包丁でザクザク切り落とし、大皿へ積み上げていく。ニンジンも空中で削ぎ切りだ。主婦歴11年にして、エア切りという技を習得した。

目の前では鍋が温まり湯気を上げている。熱い。エア切りはハードだし、湯は煮えたぎるし、汗がじんわりにじむ。初体験の美食倶楽部はその優雅な字面とは異なり、体育会系だった。

ブリを食しながら、調和の時代は進んでいく

制限時間終了になんとか間に合い、ブリしゃぶの体裁も整った。チーム三名でお互いの健闘を称えあう。横に長いテーブルの上には、各チームが作り上げたブリ尽くしのごちそうがズラリ並ぶ。ここで改めて乾杯の音頭。もう皆でき上がっているけれども。

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各自皿を持って移動しながら食べるので、隣り合う人が次々入れ替わる。お初ですね、という挨拶は無くても、顔を見合わせ「おいしい~」の一言から会話が弾みだす。

「ここが最高にうまいところ!」とブリのあらを丁寧に取り分け、配り出す人がいる。その気配りに「お父さんみたい!」「優しすぎる」と場がゆるむ。ホクホクに煮あがったブリの肝、ワイン酵母の日本酒と最高のマッチングでした。

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料理の楽しさ、お父さんの気配り、おいしいという喜び。家の中で完結していたそれらが共有されると、共鳴して心地よさや感動が増幅していった。ここで提供されたのはシェアクッキングの場だが、調理や食することだけでなく、参加者それぞれの個性や魅力もシェアされ、つながっていく。それらは分けあうことで減るのではなく、確実に増していった。

この日4回目となる調理だったが疲労感はなく、安らぎと高揚感を胸に帰路についた。一人で毎日ご飯を作っていると、正直うんざりすることもある。もう料理したくない、と何度思ったことか。

でもそれは、料理がイヤだったのではなく、来る日も来る日も一人でやり続けることへの疲れや悲しみだった。キッチンで缶ビールを飲みながら乗り切るのもアリだけど、たまにはこうやって、みんなとつながれたらいいな。お互いのいいところや愛情を持ち寄って、シェアしたい。

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折しもこの日は春分の前日。春分の日は「宇宙元旦」ともいうそうで、時代が変わる日だ。私たちの親やご先祖が懸命に働き、築いてきた豊かさや物質的な充足。そこから時代はもう一歩進んでいく。分け合い、与え合う調和の時代。もう始まっているな、と確信した夜だった。

文/野村佳未

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