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[17]パイロットまで、あと2年。

博多駅で解散した後喫茶店に入った。
学生アルバイトに見える女性から
汗をかいた水が提供されて奥に引っ込む。

アイスコーヒーを頼むことにして
ガラケーの地図アプリで近くにある美術館を調べる。

詳細は不明だが近くにあることは確認できた。
別に見たいものがあるわけではない。

とにかく今は
自衛隊の訓練から大きく離れたことがしたい。
肉体を使わない思考の世界に没頭したい。
静かな環境で自分の心の声に耳を傾けたい。
そんな思いが一層強まった。

アイスコーヒーを一気飲みして
美術館まで直行した。
暑くて汗が出たがビル風も心地よい。

外観が特徴的なおかげで
大まかな方角に歩いたら到着できた。
アジアを冠しているだけあって
エントランスは異国情緒漂う雰囲気。
鳥居のようなフォルムの屋根は
モダンな建物群の中で明らかに異質だ。
行ったことがないからワクワクする。

こんな場所に一人で足を運ぶのは初めて。
特別展はフランスの田舎にある洞窟の壁画らしい。

エジプトの象形文字より単純だがなめらか。
単色でゴツゴツの岩肌にそのまま描かれている。
馬、牛、あれはバイソンらしい。
ライオンもいる。 

真っ暗な壁画にこれだけの絵を描いた。
一体何のため?
人間なのか?まだ原始人なのか?

疑問が湧いては消え、
キャプションで答え合わせをする。

頭の中にもう一人の自分が生まれて
自問自答する。
完全に自分一人の世界。

ちょうどお昼時ということもあり
展示室の中は人がほとんどいない。
自分の靴音しか聞こえなくなる。

孤独な空間が心地いい。
たっぷり2時間企画展を楽しんだ。

せっかくだからと常設展示にも足を運ぶ。
常にこれだけの資料があるのかと感動した。
夕日に沈むシルクロード。
ラクダと人間が赤く染まる。
地元の美術館はあったが行ったことはない。
こんなリラックスタイムを過ごせるなんて
もっと早く気づけばよかった。

最後に資料室で、さっき見た壁画の資料を読む。
フランスの南、ボルドー地方のものらしい。
たまたま犬が中に入ったのを追いかけた
地元の少年が発見したそうな。
大分にもそんな場所があるかもしれない。
牛の下には屋根のような記号が書かれている。
一つのグループを表すという説や
テリトリーの意味があるらしい。

全てのことには意味がある。
俺が今やってる訓練にも意味があるんだろうか。
とりあえず3時間は泳げることがわかった。
墜落した時の恐怖心は減ったのかもしれない。

何の後悔もなく図録も買った。
めちゃくちゃ重たいが全く後悔はない。
あの時の感動をまた味わえるなら安いものだ。
美術館でしか得られない栄養もあるんなだと感じた。
そして俺は合コンに遅れた。

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