読書感想-HHhH(ローラン・ビネ)
▽小説というより散文
どうも255文字の制限があると、なぞかけのような感想になってしまって良くない。
自分向けのメモなので極論構わないのだが、後で読み返しても「よく分からん」ということもままある。しかし別に手を抜いて書いているわけでもないから、労力が勿体ないような気もする。
ナチの高官を暗殺すべく、亡命チェコ政府が本国に送り込んだ2人の青年を軸にした物語だ。史実に基づいた小説であり、著者が相当な資料を調べ上げていることも、読んでいると伝わってくる。
その語り方が最大の特徴だ。
1942年の話と、今の話がごちゃ混ぜになっている。「いよいよ物語が面白くなってきたぞ」と思ったら、次の章で著者がいきなり最近読んだナチに関する小説や映画などをこき下ろし始めたりする。
ついていくのに多少苦労するかもしれないが、それらが渾然一体となって、結果的に面白い。だから不思議だった。
普通の人が真似したら、支離滅裂な文章ができあがって終わるだろう。どうしてこの本は面白いのか、説明することは難しい。
僕は「散文」という言葉を思い浮かべた。文字通り、文章が散らばっていた。
例えるなら、物語の「幹」があって(それも所々切れている)、そこからちょっと離れたところに、枝葉が沢山散らばっている。
近くで見ると、確かに筋は一続きになっていない。けれど、遠くから見たら「あぁこれは木の絵だな」と分かる。モザイク画を眺めているような感じだった。
著者は徹底的に歴史を調べあげた。調べあげた上に、書き進める自分自身も物語の中に投じた。
それは事実を凍結させる効果があったと思う。著者が確認した範囲内で、物語のような事実があった……という事実。そこに疑問を差し挟む余地はない。
禅問答のような感想文になってしまうので、小説の「語り」への言及は、このあたりで止めたい。
▽「脇役」への敬意
著者のローラン・ビネは、なぜこんな手法をとったのか。
それはこの暗殺計画が、無数の市民によって支えられたことを重視したからだ。
ナチの高官、それを暗殺しようとした2人の青年。激しいアクションを描くだけなら、この3人を舞台に立たせればこと足りる。
しかし史実では、計画遂行のために大勢のチェコ市民が危険を顧みずに協力した。ナチによる報復では、関係者だけでなく、さらにひとつの村が犠牲になった。
歴史に名を刻むこともなく、しかしどんな偉人にも引けを取らないほど勇敢であった人々。著者は彼らに最大の敬意を払いたかったのだと思う。
書くことは難しい。
「脇役」に光を当て過ぎると読みにくい。しかし彼らを無視した「物語」に、どれほどの価値があるだろう?
この本は、その危ういバランスを見事渡り切った。稀有な、そして読むに値する小説だと思う。
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