本屋、はじめまして #6 Zelt Bookstoreー後編
本と仕事と店主についての
8問8答
1 オープンから約1年、率直な感想は?
月に10日しか開けていないというのもありますが、本当にあっという間でした。オープンしたらだいぶ暮らしが変わってしまってストレスになるだろう、と思っていたのですが、逆に週の生活リズムが整ったようにも思います。とにかく無理をせず、細く長くやっていくというのを目標にしているので、お客さんには少々不便をかけてしまうと思うのですが、続けることを最優先に二年目も頑張りたいと思います。
2 仕事の必需品は?
まずはパソコンと、音楽と、手帳です。手帳は友人が作っているもので、まっさらでなんでもかけるので、本屋の時はメモ帳にしたり、絵のラフを描いたりしています。
3 最近気になったニュースは?
やっぱり都知事選ですかね、、、。店を持って初めての選挙だったのですが、少しでも投票率が上がればいいなと思いオリジナルのポスターを作って投票証明書の提示で古書10%オフになる選挙割をやってみました。思ったよりも反響があり嬉しかったです。選挙が終わっても、当選した人、投票した人を見続けていくことが大事だなと思います。
4 今読んでいる本は?
たくさん同時に読んでいるのですが、レヴィ=ストロースの「悲しき熱帯」と、中沢新一の「精神の考古学」、あとは文庫化される前に読み切ろうと思っていた「百年の孤独」です。悲しき熱帯と精神の考古学は次の個展の参考に読んでいます。百年の孤独は結局あと数ページでまだ読み切れていません、、、もう登場人物が誰が誰だか息子なのかおじいさんなのかわからなくなっていると思います。柴山は「石を聴く」というイサム・ノグチの生涯を追った本を読んでいるみたいです。
5 読書をするシチュエーションは?
よく読むのは寝る前です、あと作品制作をしているときは最初に1日かけてばっと読んでしまったりします。あとは店番の時もたまに読んでいます。
6 これまでの人生で記憶に残る1冊は?
私は今でも本を読むのはとても遅くて、とても読書家と言われるような読書量ではありません。それでも昔から本という存在がすごく好きでした。今思えは紙が好きだったのかもしれません。誕生日に買ってもらった当時手に入りづらかったハリーポッターの第1巻を、しばらくパラパラとめくっては丁寧に拭いたりして棚に戻していました。分厚くて綺麗なスピンがついている、いわゆる「本」という趣の装丁の本を手にすることが初めてで、本当に嬉しかったみたいです。その後ある日突然その本が読みたくなって、読むと信じられないくらい面白かったことを今でも覚えています。今まではものとして愛でていたこの紙の塊の中にこんな世界があったなんて、、と衝撃でした。それから図書館がものすごい場所のように思えてきて、さまざまな本を手にとるようになりました。好きな本を一つに絞るのはとても難しいですが、これが本を好きになるきっかけの体験だと思います。
7 伊藤さんが考える「本の魅力」とは?
先ほどの体験とも共通するのですが、本は待っていてくれます。手に取った時あまりピンとこなくて閉じてしまっても、ある日突然また手に取りたくなって、すいすい読める時が来ます。学生時代に山形県の老舗の本屋でアルバイトをしていたときに、店長に本の何が好きか聞かれたことがあり、咄嗟に「私はとても読むのが遅いのですが、パラパラめくったり触っているだけでも満足するんです、、」と言ったら、「それはとてもいいね!」と言われて、店長はとても本を愛している方だったので、「いいんだ、、、」となぜかすごく嬉しくなったのを覚えています。読み方にも正解はないし、買ってもすぐ読まなくてもいい、見た目をただ愛でてもいい、そしてもちろん読むとさらに面白い、大変懐の深い媒体だと思います。
8 本屋さんとしてこれからやってみたいことは?
今出版部門のようなものはほぼなく、自分の個展の作品を簡単にまとめたZineのようなものを2冊ほど、Zelt発行として出しているのですが、もう少ししっかりした本も作ってみたいなという気持ちもあります。ずっと考えているのはユニセックスのソーイングブックを作りたいということ。つくることを楽しめるような本を作りたいと思っているのですが、その中でもソーイングはもっともっと老若男女楽しめるようなシンプルでかっこよくて面白い本があってもいいと思っていて、知り合いのデザイナーさんたちに相談しながら作ってみないなとずっと妄想しています。
店主のおすすめ(本に限らず
1 AUTOPROGETTAZIONE by Enzo Mari
Enzo Mari 著
(CORRAINI EDIZIONI)
お店の伝えたいことの象徴としていつもおすすめさせてもらっている本です。イタリアのデザイナーエンツォ・マーリの作品集で、掲載されている家具は全て材料と寸法が記されており、実際につくることができます。auto progettazioneを「プロジェクトの背後にある誠意をもっとよく理解するために、1人1人が自分で行うべき行為」と表現していて、デザインというものが決して生活や生きるために遠い存在ではなく、「つくる」ということの大切さを教えてくれる本です。
2 あいたくてききたくて旅にでる
小野和子 著
(PUMPQUAKES)
こちらも開店の時からずっと切らさず置いていて、おすすめの一冊です。約50年かけて、東北の民話を訪ね歩いてきた小野和子さんの民話採訪の記録です。小野さん自身の旅の記録、そして口承で古くから伝わってきた民話と、民話が語られる際に語り手から溢れでる土地や生活の記憶たちも収録されています。自らの足で語り手の家を周り訪ね聴いた膨大な話の数々に気が遠くなり、また東北の厳しい環境の中でいかに人々は生き抜いてきたか、小野さんは民話を切り口に丁寧に掬い上げていきます。生きていくこと、そして聴くということ、さまざまなヒントが詰まっています。
3 SARO レンゲ
スプーンにはいろいろな形がありますが、その中でもスプーンになる直前のような、プリミティブなかたちをしているのがレンゲだと思います。福井を拠点に活動するセキサカによる新しいカトラリーブランド「SARO」のレンゲは、そのプリミティブなかたちを研ぎ澄ませ、道具のようでもあり彫刻のようにもみえます。使い方が曖昧だけど愛おしい、そんなレンゲで自作の小籠包や豆花を召し上がってみてはいかがでしょうか。他のスプーンやフォークなどのカトラリーも、手にした時の重量感やエレガントさのバランスが日常をより豊かに彩ってくれる、そんなカトラリーシリーズです。スイス人デザイナー、カルロ・クロパスがデザインを手掛けています。
後記、はじめまして
お店のいたるところにおもしろいオブジェや飾りがあり、隅から隅まで楽しく、美しい空間でした。(写真左:卵をわらで包み持ち運べるようにした入れ物に拾ってきた石を入れたオブジェ) おふたりの北欧の旅の話を聞いたり、私の旅の話を聞いてもらったり、居心地が良くて長居してしまいました。 イラストレーターでもある伊藤さんの個展@那須が現在開催中です!⇒https://www.instagram.com/p/C9cBVOgSbG5/
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