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一首評未満

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記事一覧

美しいから

月光に削がれ削がれていつの日かいなくなるときわたしはきれい/佐藤弓生『モーヴ色のあめふる』

この「わたし」がいなくなる時、空間には月光が削り続けた「わたし」の輪郭が、三次元的な意味を大切にするなら「わたし」の型に空洞が残ります。不在の「わたし」に対して美しさがあるというのは、その空洞に対する賛辞だとして読みました。第一歌集に

うつくしい兄などいない栃の葉の垂れるあたりに兄などいない/佐藤弓生『

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ネットプリント『半透明な花と翅』一首評

 花浜紫檀さんと展翅零さんのネットプリントを読みました。『半透明な花と翅』ってぴったりで面白いタイトルだと思います。「半透明」の語彙の選択。よく透明人間をテーマにした物語では、自己の存在の根拠が視覚化されることにあったりして、それを失う(見えなくなる)ことによって起こるアイデンティティの揺らぎや悲哀が描かれます。でも、お二人の連作を読んだ後の感覚としては、半透明な彼女らはむしろ光を透かすことでその

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不在の輪郭

うつくしい兄などいない栃の葉の垂れるあたりに兄などいない
/佐藤弓生『世界が海におおわれるまで』

失われたそれは、失われたというまさにそのことによって特権化された(それの意図に反して)。
それは、求めても得られないがゆえに、いつまでも求め続けることが可能な存在になった。
/二階堂奥歯『八本脚の蝶』

二階堂奥歯さんの文章は過去に存在していたものに対する内容だから文脈が少し違うけれど、存在にしてい

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