銀幕のスーツに憧れて
0.はじめに
映画に登場するカッコいいスーツを見て憧れたことはありませんか。
何にもなかったアメリカ西海岸でユダヤ系の移民が相次いで映画スタジオを設立してから100年余りが経ち、長いハリウッドの歴史は現代ファッション史をスクリーンに映し出しているとも言えます。
本稿では駆け足にはなりますが、個人的にスーツの着こなしが洗練されていると思うハリウッド映画を4作取り上げてみようと思います。
1.フレッド・アステア『トップ・ハット(1935)』
ハリウッドで最もエレガントな男優です。若くしてブロードウェイで脚光を浴び、それがハリウッドに足を踏み入れるきっかけとなるほどのタップダンスの名手であり、この作品でもジンジャー・ロジャースと息の合ったコンビプレイを見せてくれます。アステアはブロードウェイの花形ダンサー役で登場しますが、ショーのシーンで着用し、タイトルにもなっている燕尾服とトップ・ハットの着こなしは、礼服としての燕尾服の普遍性が著しく低下した現代においてなお、アステアを、1930年代のハリウッドをも象徴するコーディネートとして記憶されています。
2.ショーン・コネリー/ダニエル・クレイグ『007』シリーズ
スパイといえばバチバチにキマったスーツ(もしくはタキシード)と車とお酒と女…みたいなイメージは、彼らが演じたジェームズ・ボンドによるものでしょう。タキシードに手巻きの煙草を咥える色男のショーン・コネリーと、トムフォードの細身のスーツに身を包んだ武骨な顔立ちのダニエル・クレイグ、この二人は非常に対照的ですが、どちらも非常に「ボンドらしい」説得力を併せ持っています。『ドクター・ノオ』『ゴールド・フィンガー』でショーン・コネリーが着用していたスリーピースのスーツは半世紀以上経った今でもスタイリッシュに感じられ、現代のスーツスタイルのお手本にもなるほど洗練されています。
3.コリン・ファース『キングスマン(2014)』
これもやっぱりスパイものになりますが…。
カジュアル化の波に揉まれてスーツを着る習慣すら薄れつつある現代に、スーツの正しい着こなし方の最適解を示してくれたのがこの映画です。表向きはサビルロウ(ロンドンのテーラーが並ぶ一帯)の高級テーラーで、実は諜報機関だという「キングスマン」に属する彼は、サビルロウらしいクラシックで折り目正しいダブルのスーツが印象的です。『007』シリーズが作り出した「スパイ=スーツ」の構図はここに来て確立されたと言えるでしょう。クールビズやノーネクタイが騒がれる昨今ですが、然るべき時に身だしなみをきっちり整える重要性を再確認できます。
4. おわりに
以上大急ぎではありますが、印象的な着こなしで観客を魅了した銀幕のスターについてまとめました。他にも、『ティファニーで朝食を』のジョージ・ペパード、『カサブランカ』のハンフリー・ボガート、『アンタッチャブル』のロバート・デ・ニーロなど、ハリウッドには映画の数だけ素敵なスーツの着こなしがあると言っても過言ではありません。これから映画をご覧になる際は、「そういう見方もあるんだな」と時折思い出しながら鑑賞してみてはいかがでしょうか。
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