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「"結果"は得られず。"成果"はどうか?」2023ガンバ大阪シーズンレビュー

※全文無料で読めます。

序文

 改めて思い起こしたい、今期のガンバが掲げたテーマは「タイトルの獲得」でも「ACL出場権の獲得」でもなく、「スタイルを植え付ける」ことでした。2017年からの6年間、リーグタイトルを分け合う神奈川の2クラブと比較して、「フットボールスタイルの構築」という観点で明白な差があることを考えれば、監督解任が続いたここ3年の反省と「降格枠1」の特殊レギュレーションを踏まえると、首脳陣が「継続した取り組みによるスタイルの植え付け」をテーマに据えるのは自然だったと思います。

 しかし、いくら「スタイルの植え付け」がテーマだったとはいえ、「勝たなくていい」なんて話は最初からないはずなので、今シーズンの惨憺たる結果については受け入れがたいものがあります。

 リーグ戦成績: 9勝7分18敗、得点38、失点61
 ルヴァンカップ成績: ベスト8
 天皇杯成績: 2回戦(初戦)敗退

 一方、シーズン中の抜本的な改革が難しいのもこの競技の特徴です。今シーズンの勝利という"結果"が出なくても、未来の勝利に向けた"成果"は得られたのでしょうか。シーズンを振り返りながら考えてみたいと思います。


シーズンを3つに分けて振り返ってみる

第1期:「型」のインストールを目指す(開幕~13節)

 今年のガンバは一部の例外を除いて、アンカーを置いた4-3-3を採用していました。4-3-3といえば、バルセロナ・マンチェスターシティ・リヴァプールなど、欧州最先端のチームが思い浮かびます。「ボールを握りながら、相手を圧倒する」、ガンバが目指すプレーモデルを踏まえて、欧州の支配層が採用するようなバランスよくピッチに人を配置できる4-3-3を採用したのだろうと思います。

 ポヤトス監督がこの4-3-3で目指したのは「型」のインストールだったのではないでしょうか。「スカッドやチームの特徴を踏まえて戦術を考える」というよりは、「ポジション毎にタスクを定義してそこに選手をあてはめていく」という考え方です。プレーを通して、選手たちがガンバの目指す姿に必要なスキルを身に着け、成長していく……といった青写真を描いていたのかもしれません。ただ、この取り組みは結果に結びつきませんでした。色々な要因があったと思いますが、自分が考えたのは以下の3点です。

 ①ウインガーが強みを発揮できなかった
 ②守備にカロリーをかけすぎた
 ③致命的なミスが多発した

 ①ウインガーが強みを発揮できなかった
 両翼で幅を取るウインガーにボールを届け、そこからの打開でチャンスを作るのは4-3-3の特徴のひとつです。マンチェスター・シティであればジェレミー・ドク、グリーリッシュなどが想起されるでしょうか。ポヤトスも、開幕柏戦では左利きの杉山をサイドで張らせたり、次の鳥栖戦では山見を張らせたり、所謂「大外のレーンで勝負させる」プレイヤーを作り、そこに向かってボールを届ける形を作ろうとしていました。しかし、ウイングにボールが届いてもそこで強みを発揮することができませんでした。杉山、山見、福田、食野……と様々な選手がウイングのポジションで起用されましたが、確固たるスタメンの座を確保するほど活躍した選手が出てきませんでした。

 ②守備にカロリーをかけすぎた
 前述した欧州最先端のチームの多くがハイプレスを採用しています。高い位置で相手にプレッシャーをかけ、スピーディに奪い返し、常にボールを保持して相手を攻め続ける、という考え方です。一方、ガンバが採用していた守備のオーガナイズは、インサイドハーフに入っている宇佐美がセンターフォワードと同じ高さまで上がって4-4-2のブロックを作り、ミドルゾーンで構える守り方でした。ポヤトス監督は「攻撃の中心になる宇佐美をなるべく守備に奔走させずゴールに近い位置に置いておくためにこの守り方を採用した」と述べましたが、ブロックの間にボールを通され、相手を中央から追い出すことができず、機能していたとは言い難い状況でした。

 ③致命的なミスが多発した
 機能しているとは言い難い状況ながらも、それなりに形は見えており、やりたいことも分かる状態は作れていたと思います。ただ「考えながらプレーしていた(倉田)」の言葉が示す通り、余裕がなかったことが影響してか、致命的なミスが多発しました。広島戦の東口、札幌戦の福田、湘南戦の谷とDFライン、京都戦の三浦……と、勝ち点に直結するようなミスが毎試合のように起こります。勝てていないことでメンバーが定まらず、起用されたメンバーも不安定……といった負のサイクル。チームの柱になるような選手が見出せず、勝負どころで踏ん張れない試合が続きます。


第2期:「マイナーチェンジ」か「ブレ」か(14節~25節)

 ターニングポイントとなったのは14節のホーム・マリノス戦。このゲームこそセットプレーからの2失点により結果は出ませんでしたが、次節新潟戦の勝利から8戦負けなし。一気に残留争いを抜け出します。ここでの主な変化を簡単にまとめれば、以下の3点になるでしょう。

 ①守備のオーガナイズを変えた
 ②キーマンのコンディションが上がった
 ③サイドバックが強みを発揮できるようになった

 ①守備のオーガナイズを変えた
 
これまで宇佐美が起用されていたインサイドハーフの位置に、運動量豊富な倉田を起用。ジェバリとの縦関係を作り、4-4-2への可変、というよりは、トップ下を置く4-4-1-1、4-2-3-1といった守備のオーガナイズが採用されました。ジェバリがサイドチェンジを牽制し、倉田がCBにプレッシャーをかけつつ精力的にプレスバックを行う。DF-MFは4-4ブロックを組みやすくなり、中央を割られることが少なくなった印象です。

 このプランは、14節まで唯一の勝ちゲームだった第8節の川崎戦と似たもの。石毛を10番の位置に据え中央を固めるプランは川崎相手の「対策」色が強く以降のゲームでは負傷離脱した宇佐美の復帰に伴って影を潜めていましたが、続くゲームでもこの守り方が基本線になり、運動量のある倉田・石毛・山本悠樹がインサイドハーフを務めるようになります。一方で、これまでその位置で起用されていた宇佐美は、センターフォワード、左ウイングの控えとしてベンチに名を連ねるようになりました。

 ②キーマンのコンディションが上がった
 
また、1トップの軸としてジェバリが機能するようになったのもこの時期からです。キャンプから抱えていた怪我が癒え、春先のラマダーンを越えたことでコンディションが回復。ポストプレーで強みを発揮するようになります。そんなジェバリの強みを活かすため、丁寧に繋ぐことだけを心掛けるのではなく、場合によってはロングボールを使ったり、ウイングもこれまでのように幅を取るのではなく、ジェバリの周辺でボールを引き受けるためにインサイドに入るシーンが増えていきました。付随して、致命的なミスも起きにくくなっていた印象です。

 ③サイドバックが強みを発揮できるようになった
 
ウイングが内側に入ることで空いた外を使うようになったのが黒川と半田の両サイドバック。「序盤戦では上がりを制限されていた」と黒川が述べたように、極力基本の形を保ちながら前進、崩しと進んでいった序盤戦と異なり、サイドバックが外でチャンスメイクの主導権を握るようになりました。黒川は累積警告による出停を除けば全試合でスタメン、半田は半年で欧州からオファーが来るレベルまで成長。J1有数のクオリティを持つサイドバックで相手を上回れるようになり、ガンバのスカッドの強みと戦術が噛み合うようになりました。

 ただ、これを「強みを発揮できるようにマイナーチェンジした」と捉えるか、「目指すべきゲームモデルからブレた」と捉えるかで意見が分かれると思います。これらは表裏一体、連勝が止まって再び勝てないサイクルに入ったのは後者の側面が浮き上がってきたことも影響していそうです。


第3期:残留ラインに振り回される(26~34節)

 夏の貯金のおかげで何とか残留に漕ぎつけましたが、ガンバは8/19の湘南戦から実にリーグ戦で10試合の勝ちなし。7連敗でシーズンを終えることとなります。ここまでの大ブレーキ、となると何か単一の要因があった、というよりは数多の要因が折り重なっていたと考えるのが自然ですが、強引に見えている何かから考えるなら以下なのかなと思います。

 ①スカッドの出力低下に手を打てなかった
 ②戦い方のブレにより規律が乱れた

 ②スカッドの出力低下に手を打てなかった
 連勝中決して順風満帆だったわけではなく、半田の骨折、成長を遂げていたCB佐藤の脱臼による離脱など怪我人が目立ち始めます。スカッドの出力が逓減していく中でも夏のウインドーで即戦力級の補強はなく、フィールドプレーヤーについては中野・唐山と前所属クラブで出場機会を失っていた選手の補強にとどまりました。残留をほぼ手中に収め、この時点での無理な投資は必要ない、という判断自体は尊重されるべきものだったと思いますが、結果的にここで動かなかったことも後半戦にチームが大ブレーキに陥った一因だったと言えそうです。

 ジェバリは10月の代表戦以降出場ペースが落ち、アラーノも終盤に怪我、ネタラヴィも母国で起きた紛争によってプレーどころではなくなってしまうなど、連勝を支えた外国人選手の離脱が相次ぎ、周りのチームが練度を高めていくのと逆行してチームの出力が下がっていきました。本来であれば、彼らの離脱を埋めるサブ組の台頭を期待したかったところ。ただ、結果的には前半戦で出場機会を得られなかった選手たちが彼らに代わって出場機会を得ることはほぼありませんでした。

 ①戦い方のブレにより規律が乱れた
 ガンバTVのインタビューにおいて倉田が「夏頃から新しいことにチャレンジしているが、それに慣れていない」というコメントを残していました。「新しいこと」が何かは具体的に明かされませんでしたが、何故ポヤトス監督は勝てていたのにわざわざ「新しいこと」を始めたのでしょうか?

 想像できる仮説は「連勝中の戦い方にポヤトス監督が満足できていなかった」こと。上述の通り、同じ4-3-3でも前半戦と連勝時では中身が異なります。本来やりたいことが前半戦にあったと仮定するなら、残留が見えたタイミングでそこに寄せていこうとしたのかもしれません。客観的にみても、連勝中の戦い方は両SB、ジェバリの好パフォーマンスへの依存度の高さからサステナブルではなかったと思います。

 いずれにせよ、チームの練度が上がらない要因のひとつはそこにあったと思います。仮にどこかで勝ち点を取れていて、残留が「完全に」決まっていれば「本来やりたいこと」を改めて突き詰めていき、練度を高める、という判断もできたかと思います。しかし、下位チームがなかなか負けないことで即効性の高い対策が必要になり、それがホーム名古屋戦で突然現れた3バックに繋がったのではないでしょうか。終盤戦はインテンシティで後手を踏む試合が増えていましたが、こうした文脈の中でコンセプトが見えづらくなり、選手たちが迷ってしまったことに理由がありそうです。


KPIでふりかえる

 まとめとして、以前のシーズンレビューでもお借りしたNeils(@NeilsXeno)さんの「攻守のKPI」の考え方を使って、ここまでのストーリーをファクトで確認していきましょう。データは、Football LABより拝借しております。

上記記事より参照


 私の記事では、「①第1期~第3期のガンバの攻撃段階別KPI」と「②対戦相手のKPI(言い換えれば、ガンバの守備段階別KPI)とガンバの攻撃段階別KPIの差分」を取りまとめてみました。①では、どの時期に何が良かったのか?②対戦相手と比較すると何が良くて何が悪かったのか?が見えるようになっているかと思います。

 読み取れることを整理すると、以下の通りです。

 第1期:相手と比べると30mラインの侵入率が高い(+5.2%)。ビルドアップはそれなりにできていたのでは。一方、枠内シュート率と枠内シュート得点率で大きく対戦相手と差を付けられている。特に枠内シュート得点率については、自分たちの数値が26.5%とそれほど悪くないのにもかかわらず相手と大きく差を付けられており、ミスによって「相手が簡単にゴールを決められるシチュエーション」を多く作ったことの証左になりそう。

 第2期:多くの指標で対戦相手を上回っている。特に枠内シュート率(+14.1%)と枠内シュート得点率(+5.5%)が高く、いわゆる決定力で相手を上回ったとみられる。一方で、30mライン侵入率についてはほぼ相手と変わらない数値となっており、行ったり来たりの局面が増え、第1期でみられたビルドアップによる優位は得られなくなっていたのではないか。

 第3期:PA侵入率が大きく悪化(34.4%→25.4%)しており、また対戦相手と比較しても低い(-9.3%)。インテンシティの悪化により、常に相手に押し込まれる展開が続いていたといえそう。枠内シュート得点率が9.7%と非常に低い水準であり、主力選手の離脱/コンディション低下によって決定力が大きく下がったのではないか。


"結果"は得られず。"成果"はどうか?

 さて、改めて序文で述べた話。今シーズンの勝利という"結果"が出なくても、未来の勝利に向けた"成果"——つまり、何を残して何を捨てるのかの見極め――はできたのでしょうか。

 現時点で確認できることとしては、以下の通りです。

◆強化体制の抜本的な改革
 ・フットボール本部の新設と松田浩本部長の就任
 ・強化部長の交代
◆ポヤトス体制の継続
 ・ポヤトス監督の契約延長
 ・コーチングスタッフについては、不明
◆選手の大幅な入れ替え
 ・出場機会を失った選手の一斉放出
 ・加入は、J1経験のある働き盛り

 フットボール本部の新設については情報が少ないので分からない部分が多いですが、ここ数年の不振にあたって強化体制に大きな問題がある、とクラブ側が判断していると受け取れます。新任の松田浩氏は、ガンバの監督経験はあれどもガンバにルーツのある方ではないので、これまでのOB路線をやめ、外の血を入れていくことを示してもいるのかなと思います。

 ポヤトス監督については契約延長となりました。流れてくる記事によればポヤトス監督は今期単年契約だったとのこと。であれば、新しい強化体制の志向に合わせて監督を変える、契約の判断を引き延ばすこともできたはず。そうしなかったということは、ポヤトス監督がプレゼンテーションしてきたスタイルはガンバのあるべきフットボールスタイルと比較して大きく外れてはいない、とクラブが判断した、と読み取れます。

 選手については、山本悠樹を除けばシーズンを牽引した主力はほぼ残留(の見込み)、一方、出場機会を失っていた選手たちは軒並み入れ替わる進捗となっています。

12/31時点情報

 代わって入ってくるのは、J1経験のある働き盛りの選手ばかり。まだ移籍市場は終わっていませんが、現在の動きを見れば「主力選手と控え選手のギャップを埋め、チームの水準をボトムアップで引き上げる」ことが大きなテーマになっていることが見て取れます。

 これらの選択が正しいか間違いかは未来からでないと判断できません。ただ、少なくとも「クラブが得た"成果"に対してプロアクティブに動いているように見える」のはポジティブなのかなと思います。すべてが来年の"結果"に繋がることを祈ってこの文章を終わります。

 最後までお読みいただきありがとうございました!


ちくわ(@ckwisb

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