2020ガンバ大阪シーズンレビュー後編:『宮本監督を考える』
お待たせしました、シーズンレビュー後編となります!後編やりますと言っておきながらその時点で一文字も書いてなかったので、できるかは気力次第だったのですが、何とか書き始めています。
最近の私といえば緊急事態宣言の影響もあって家からほとんど出ず、自宅にこもってばかり。不幸中の幸いは仕事を中座するとすぐ息子に会えること。毎度猫喫いならぬ息子喫いをしてから戻るのでそろそろウザがられているかもしれませんが、幼児の記憶はすぐなくなるので多分セーフ。
しかし噂によると宇佐美は生後8か月で歩き始めたらしいのですが、うちの息子は1歳3か月を過ぎてもまだ数歩しか歩いてくれません。化物ストライカーへの進捗は少し怪しくなってきましたね……。
-----
さて本題に入ります。後編は「ガンバの現在地と宮本監督の評価、そしてこれからのガンバについて」。大それたテーマをぶちあげてくれた前編執筆中の僕を小一時間絞り上げたいところですが、今回も前回同様、ちくわ君とはんぺん君に話してもらおうと思います。
ちなみに2人のセリフの前に◎と△をつけているのはテキストの色替えができないnoteで対話形式の可読性を高めるための策だったのですが、
◎:ちくわを覗いたらこう見えるやん
△:これもうはんぺんやん
と、可読性向上と識別性向上で一石二鳥やんけ!やべえ!俺!天才!!!と思ったことをご報告差し上げておきます。ではようやく本編へどうぞ。
-----
2020年の宮本ガンバをKPIから考える
◎ちくわ:後編はガンバの現在地と宮本監督の評価について語っていきたいと思います。率直に、今年のガンバのサッカーってどうだった?
△はんぺん:まぁ、正直面白くはなかったな。なんでか勝ちはするけど、手ごたえを感じるゲームはあんまりなかったし。複数点差で勝った試合って、ほぼなかったんちゃう?
◎ちくわ:複数点差で勝った試合は4回(A神戸、A仙台、H鹿島、A横浜FC)だけだね。
△はんぺん:その試合とかも、ほとんど後半最後のゴールやったやん。やっぱガンバって、「もっといったれ」(※ゴール後に更にゴールを促すお馴染みのチャント)のイメージがあるからさ。やっぱ、畳みかけてほしかったわ。
◎ちくわ:そういえば、今年はチャントもなかった。もしかしたら影響あったのかもしれないね。
△はんぺん:確かに。
◎ちくわ:印象としては、僕も同じような感じ。まあ印象だけで終わらせちゃうのはもったいないので、データを持ってきました。参考にしたのは名古屋グランパスについて語り合うページ:グラぽさんに寄稿されていたNeils(@NeilsXeno)さんのこの記事。
◎ちくわ:この記事ではとてもわかりやすく守備のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)が整理されていた。
※上記記事より引用
◎ちくわ:画像の通り、守備側の狙いを切り分けて指標化することで、「守備のどこがイケててどこがイケてなかったのか?」がわかる、というわけですね。
△はんぺん:ふむふむ。
◎ちくわ:で、今回は2019シーズンと2020シーズンのガンバを比較してみました。結果は以下の通り。
◎ちくわ:全体的にKPIが向上し、守備が改善しているようにみえるね。
△はんぺん:とはいえ、④被シュート1本あたりの枠内率以外は、全部1%かそれ以下の変化量だから、正直大して変わらないんじゃないのって気が。
◎ちくわ:それもそうだ。なので、もう少し解像度を上げてみた。去年のガンバは、3バックと4バックを併用していたね。3バックの時と、4バックの時、それぞれのKPIを比べてみた。
◎ちくわ:これを見ると、より今期の宮本監督が取り組もうとしたこととその成果が見えると思う。まずは3バック時の比較。3バックを採用していたのは、2019シーズンの後半と2020シーズンの前半になる。宮本監督は、2019シーズンの3バックが直面した課題として「前線からの守備」を挙げた上で「ハイプレス」をキーワードに取り組んでいた。結果として、相手をゴールから遠ざけ、高い位置で攻撃を終わらせたという①30mライン被侵入率についてはわずかに改善がみられたけど、③、④、⑤の守備KPIについては、むしろ悪化している。
△はんぺん:前から奪いに行こうとした結果、逆に守備のバランスが悪くなってしまったってことやな。
◎ちくわ:そして、宮本監督はシーズン中盤から3バックをやめ、4バックに変更した。なぜ3から4に変更したかの理由は前編をあらためて読んでもらえれば。こちらに関しては、2019年の4バックと比べると、①の30mライン被侵入率こそ悪化しているものの、それ以外の守備KPIについては大きな改善がみられる。
△はんぺん:これははっきり改善してるってわかるなぁ。特に④被シュート1本当たりの枠内率は劇的に改善してるな。
◎ちくわ:①が悪化した、ということは、つまり「高い位置から奪いにいく」のをやめて、「守備ブロックを構える」ことを優先するようになった、と読める。実際にピッチの上で起きていたことを見ても、前で奪いきる、というよりは、2トップのプレッシングで相手の攻撃をサイドに追い込み、危険な中央のエリアを使わせない、というやり方だったね。
△はんぺん:なるほど、つまり④の被枠内シュート率が下がったのは、相手に中央を使わせなかったから、余裕を持ってシュートを打たせてしまう場面が少なくなった、ってことやな。
◎ちくわ:そういうことだと思う。4バックを使い始めてから、中央を割られて失点するシーンはほとんどなかった。こうした守備の規律をチームにもたらしたことは、宮本監督はじめコーチングスタッフの成果だと思う。
△はんぺん:ふむ。
◎ちくわ:一方で、これを手放しに喜べないのは、「ハイプレスに取り組む」というシーズン当初の公約は達成できなかった、ってことだ。さらにもう一つ都合の悪いデータを出すと、守備KPIの裏返しとなる攻撃KPI。
◎ちくわ:シーズン当初のスローガンである「GAMBAISM」の在り方として規定されていた「ボールを保持して相手を圧倒する」という観点で見ると、30mライン侵入率は大きく悪化していて、お世辞にも圧倒できているとは言い難い。
△はんぺん:確かに。
◎ちくわ:理想と現実を照らし合わせて最大に近いリターンを得ることはできたけど、掲げたビジョンをやりきることはできなかった。戦略の失敗をなんとか戦術で補おうと四苦八苦したのが2020年の宮本ガンバだったと思う。
「良い監督」の条件とは?
◎ちくわ:ところで「良い監督」って何なんだろうね?
△はんぺん:なんやろな。。面白くて勝てるサッカーをする監督、とか?
◎ちくわ:なるほど。まあこんなの明白に定義されてるわけじゃないから、それぞれにそれぞれの答えがあると思うけど、自分が思うのは「与えられたミッションを達成できる」のが良い監督だと。
△はんぺん:ふむ。
◎ちくわ:サッカーの監督って見ている人からは色々託されがちだけど、クラブにおける位置づけは結局のところ「中間管理職」だと思う。経営側のフロントから順位だったりタイトルの数だったりのミッションを与えられて、コーチなり選手なり部下をコントロールしてミッション達成を目指す。
△はんぺん:なるほど。
◎ちくわ:例えば「面白いサッカーができる監督」が「良い監督」なのか、というと、それが「面白いサッカーをやってください」という「ミッション」ならそうだし、そうじゃないなら、それは「ミッション」を達成しやすくするための「手段」でしかないはず。
◎ちくわ:監督には与えられたミッションがあって、それを達成するためには部下を動かす必要がある、「俺にはこんなミッションがあるからお前はこのミッションを達成しろ」と部下に迫るのはアホなマネージャーで。優秀なマネージャーなら、そのミッションを達成するために、ミッションを翻訳して、部下の望みと自分のミッションのベクトルが揃うように仕向ける。
△はんぺん:仮に「面白いサッカー」なるものがあるなら、それはベクトルを揃えるためのツールってことやね。
◎ちくわ:そういうこと。
△はんぺん:話を強引に戻すと、ガンバの場合はどうなんやろうな?言ってる意味で、宮本監督は「良い監督」と言えるんやろか。
◎ちくわ:まあ、監督に与えられた本当のミッションって普通は外には出てこないだろうし、そこは想像するほかないけど。タイトルこそ獲れなかったけど、「契約更新を勝ち取った」ってことは、少なくとも何らかのミッションは達成できたってことになるから、今年については「良い監督」だったんじゃないかな。
△はんぺん:何か含みのある言い方。
◎ちくわ:うーん。来年はどうなるか分からないから。
△はんぺん:確かに。
◎ちくわ:今年の宮本監督のサッカーって、結構な数のサポーターなり、あるいは他のクラブのサポーターにも、「面白くない」「内容と結果が一致してない」って言われてた。僕はそれ、ある意味すげーなと思うんですよ。
△はんぺん:そのこころは?
◎ちくわ:だって、「サッカーの内容」で部下の望みとベクトルを揃えなくても、ミッションが達成できたんだもん。
△はんぺん:なるほどね。
◎ちくわ:当然「質の高い選手を揃えることができた」のは要因として大きいだろうけど(※とはいえ人件費はJ1でも中位)、「プランを選手に実行させる」ってことにかけては凄い能力があるんだと思う。カリスマ性なのか、メッセージの出し方のうまさなのか、元代表キャプテンは伊達じゃないね。
△はんぺん:リーダーとしての才覚が凄いとして、こっからはそこに内容の上積みをもたらせるか、ってとこなんかな。
◎ちくわ:やっぱり、天皇杯終了直後の倉田のインタビューとか聞いても、選手としては今年のサッカーは本意じゃなかったみたいだし。このまま長続きできるとは思ってなさそう。
△はんぺん:オフシーズンにはコーチ入れ替えてみたり、実績のある選手いっぱい足してみたり。今のやり方や引き出しに不足を感じるから手を打ってるってことなんやろうね。
宮本監督の「ミッション」とは?
◎ちくわ:宮本監督のミッションって、なんだったんだろうね。
△はんぺん:コンペティションの成績以外に「ミッション」があったとすると、間違いなく言えるのは世代交代、言い換えれば「脱ヤット」をいかにスムーズに成し遂げるか?というのはあったんちゃうかな。
◎ちくわ:そこは本当にうまくやってくれたと思う。当然監督だけじゃなくて、スカッドのバランスを考えた強化部の力もあったけど。まさか脱ヤットがここまで平穏に着地できるとは思わなかった。脱ヤットの顛末については以下のツイートツリーに時系列をまとめているので、良ければこちらも読んでみてください。
◎ちくわ:相当エモい仕上がりになってますが、ヤットのジュビロへの期限付き移籍が「降って湧いた話」じゃなくて、それこそ健太監督時代からの長い長い伏線があってようやく見いだせた着地点なんだ、ってことが分かってもらえるんじゃないかと思う。
△はんぺん:……まあ、上を観るともっときれいなお別れができてるクラブもあるが()
◎ちくわ:それは言わんといて()
-----
◎ちくわ:あとは、監督のミッションが何かを考えるうえで、宮本監督が本当の意味で「中間管理職」なのか、ってことも考えとかなあかんやろうね。
△はんぺん:どういう意味?
◎ちくわ:与えられたミッションを達成するのが良い監督、って話をしたけど、どうも宮本監督は「ミッションを与える側」の片棒を担がされてる感じもする。単なるピッチ上の成績以上に、クラブのフィロソフィーだったり、ブランディングだったり、ガンバは色々な期待を宮本監督にしてると思うし、宮本監督もそれをわかった上で立ち回ってるような気がする。
△はんぺん:雇われの監督として扱うには、色々属性が盛られ過ぎてるもんな。
◎ちくわ:そういう人材をOBに抱えられるだけの歴史があるってポジティブな捉え方もできるけど、いいことばかりとも言い切れない。
△はんぺん:ミッションを与える側の片棒を担がされてるなら、「自分のミッションを自分で設定する」、みたいなことになってしまう可能性もあるわけやから。組織として健全ではなくなってしまう可能性もある。
◎ちくわ:まぁ、少なくとも今年に関しては、チームのビジョンをガン無視して結果に徹したサッカーをしてたように見えたんで、そこは、宮本監督も自分の役割を弁えてたと思うけど。
△はんぺん:うん。見てて思うのは、超負けず嫌いなんやろな。ロッカールームのBlu-ray見てても、インタビュー聞いてても、勝った時と負けた時の態度の差が凄いもん。色々隠したがりな宮本監督やけど、これはまったく隠せてへん。笑
◎ちくわ:クラブから求められる視座高い振る舞いに忖度しつつも、結局は白黒に没頭している感がある。なので短期的には杞憂かもしれないけど、長期的には、いずれ来るサイクルの終わりをどう迎えるのかについて、クラブは準備しておかなきゃいけないんだろう。
△はんぺん:ヤットの時と同じようにな。
まとめ
◎ちくわ:さて、ここまでのまとめ。
-----
・KPIから宮本監督を考える:シーズン当初の公約は達成できなかったが、期中の戦術変更でチームの守備に規律をもたらしたことがKPIからも見て取れた。その結果、リーグ2位、天皇杯準優勝という着地となった。
・宮本監督の評価:過渡期にあるクラブをまとめ上げる手腕を発揮し契約更新を勝ち取ったが、その内実には監督自身が指摘する通り反省も多く、ここから更なる上積みという課題に向き合っていかなければならない。
-----
◎ちくわ:——といったところでしょうか。後半は少し抽象的な話になってしまった気もしますが、長々と続いたシーズンレビューも一旦このセクションでおしまいです。ここまで話してきてどうでしたか?
△はんぺん:うーん、今シーズンずっと見てきて満足も不満もあったけど、クラブとして自分たちがどういうフェーズにいるのかの現状把握は、ちゃんとできてるような気はした。
◎ちくわ:現状把握大事やね。
△はんぺん:あとは、そこからちゃんと前に進めるのか。例えば、「守備のベースはできた、そこから攻撃」って話をよく聞くけど、そもそもサッカーって攻防一体のスポーツだから、あちらを立てればこちらが立たず、みたいなことは十分あると思うし。
◎ちくわ:チームとしてそれを成立させることができるかは、ピッチの上で何が起こるかを見てみないと分からないね。
△はんぺん:不安半分・期待半分やね。まあオフシーズンに漏れ聞こえてくる情報の限りでは、色々チャレンジはしているみたいなので。まずはゼロックススーパーカップを楽しみに待ちたい。
◎ちくわ:本当はまだまだ語りたいことはあるんですけど。今年で終わったU-23のこととか、それぞれの選手のこととか、ロッカールームDVDのこととか、コロナの影響とか、事業のこととか、色々。ただ語り尽くすのは難しいので、今日のところはこのぐらいで終わっておこうと思います。この記事を読んで皆さんが考えたこと、コメントなり引用RTなりリプライなりで語っていただけると嬉しいです!是非、語り合いましょう!
△はんぺん:語り合いといえば、最近流行りのClubhouseでも使ってみれば?アカウントあるんやろ?
◎ちくわ:あるにはあるけど。まぁ、いつかはやってみたいと思います。何か機会があればお声がけいただければ。
-----
オフシーズンも残り僅か。再び一喜一憂の週末がやってきます。スタジアムで、テレビの前で、喜びをたくさん爆発させるためにも、皆さん、お体と感染症には本当に気を付けて、日々をお過ごしください!
ちくわ(@ckwisb)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?