2024 J1 第18節 ガンバ大阪 × 柏レイソル レビュー

レビュー

 インターナショナル・マッチウィークを経てのリーグ戦再開。ルヴァンカップで既に敗退しており同期間内の試合は天皇杯のみだったガンバと、勝ち残っていたが故に連戦が続いていた柏。主力の細谷はアメリカ遠征帰りのコンディションを考慮してか控えからのスタートで、マテウス・サヴィオの相方は木下。スターティングメンバーを比較すると、リーグ戦の好調も相まってメンバーを固めつつあったガンバと、連戦のコンディションも考慮しつつ模索中の柏、といった趣が対照的だった。

スタメンと控え

 メンバーが固まりつつあったガンバの中でひとつだけ違いがあったのがここまで坂本一彩が務めているトップ下に入った山田康太。まずは彼の起用がガンバにもたらした変化から描写していきたい。

 本職がフォワードの坂本一彩と比較して、よりトップ下らしいトップ下なのが山田康太。かつてはボランチでプレーした経験もあり、坂本よりプレーエリアが低い選手だ。坂本が起用された際は宇佐美と坂本が頻繁にポジションをスイッチしていたが、今節は役割分担が明確で山田康太が鈴木徳真・ダワンと近い位置で3センターのような関係性になっていた。彼らは役割を入れ替えながらプレーしていたが、基本的には鈴木徳真がアンカー、ダワンと山田康太がインサイドハーフ、という関係性だった。

 ガンバは、柏の4-4-2に対してこの"3センター"が間でボールを引き出しながらブロックを揺さぶり、最終的には縦パスからの落としやサイドチェンジを絡めてウイングに前向きで攻め込ませることを目的としていたようだ。序盤は柏のブロックを左に寄せてから右の大外に控える山下への対角のロングボールが目立った。一方で、中央を突破する選択肢として山田康太がフリックで展開するプレーもみられた。決まればリターンの大きなプレーだが、こちらは周りとの連動が今一つで成功率は高くなかった。

ガンバの保持基本構造

 柏の4-4-2攻略においてもう一つのギミックとして用意されていたのが「ローテーション」だ。先ほど"3センター"の関係性について述べた。この形だと宇佐美はいわゆる9番の位置が正位置となるが、半田がインサイドハーフの位置に上がっていくことで山田康太を9番の位置に押し出し、宇佐美をフリーマン化することができる。この狙いがはまったのが先制点のシーン。半田がインサイドハーフの位置に上がってワンタッチで前向きの鈴木徳真に落とし、そこからサイドチェンジで左の大外にいるウェルトンに届ける。ローテーションでフリーマン化していた宇佐美がハーフスペースを突いてボールを引き出し、立田との1対1を制してゴール。

 宇佐美の突破に関しては「流石」のひとことだが、このシーンでは始終柏の守備が後手を踏んでいた。恐らくこのローテーションによって誰が誰を観ればいいかわからなくなっていた側面もあるのではないだろうか。特に右サイドハーフの小屋松からすれば、黒川・ウェルトン・山田といった選手が主な管理対象だったにもかかわらず突然宇佐美が現れて「自分がマークにつくべき選手なのか?」と迷った結果、危険な位置で宇佐美をフリーにする瞬間を作ってしまったように思う。

 一方の柏の保持。リーグ最少失点が持て囃される今シーズンのガンバだが、今節においてはうまく守れていたとは言えなかった。柏のキーマンはジエゴ。左サイドハーフの山田雄士が半田陸を引っ張りながら内側にポジションを移し、CBが幅を取って左サイドバックに入ったジエゴを大外の高い位置に押し上げる。サイドで局所的な数的優位が生まれるため、そこにロングボールを蹴り込むことで前進を企てていた。ガンバはこの柏のギミックに対して、幅を取ってボールを引き出す古賀太陽に宇佐美と山下の2人がチェックにいってしまうシーンがあったり、中央へのパスコースが消せていない状態で山田もダワンもプレスに参加することで中盤に鈴木徳真しかいない状況が生まれ、中央のスペースを横断されてしまったりと序盤は整理されていない状態での守備が続いていた。

 それでもペナルティエリアには人が揃っており、柏に気持ちよく脚を振らせたシーンは少なかった。柏は前進のギミックは用意されていたものの、崩しの局面においては縦横無尽に動くマテウス・サヴィオの影響力が強く、彼を関与させるためのひと呼吸が素早く自陣に戻るディシプリンを備えたガンバにブロックを整える余裕を与えたと言えるのではないだろうか。時間が進むにつれ、古賀太陽へのプレッシングは山下が出て宇佐美が中央を埋めるという形で整理されていった。また、ジエゴへのロングボールが精度を欠くシーンも増えていき、柏の攻撃の迫力は落ち着いていく。

 そんな中、セットプレーの流れから元・柏レイソルの山田康太が2点目を奪う。構造としてどちらかに傾いていたわけではなかったと思うが、攻守におけるディテールの部分で差が付いた前半だったのかなと思う。




 後半、柏は小屋松に替えて細谷を投入し、木下と細谷の2トップを形成。山田雄士を右サイドに回し、サヴィオを左サイドに。ここから一気に試合のペースは柏に傾く。前半2点ビハインドになった時点から柏は前線からハイプレスに出る姿勢を明白にしていたが、前線が細谷に変わったことでより勢いが前面に出てきていた。ガンバは序盤こそ前半と同様最終ラインから繋ぐ意思を見せたが、ビルドアップのミスからターンオーバーを招くシーンが2回続いてから、よりセーフティなプレーを意識していくようになる。ゴールキックは全てロングキックになり、敵陣でもじっくり繋ぐというよりは少ない人数でピンポイントのパスを使って攻め切ろうとしていたようだ。リスク控えめの攻撃ではなかなか相手からボールを取り上げることはできず、後半は柏に保持を譲ることになる。

 後半の柏のボール保持においては、マテウス・サヴィオが左サイドに回った効果が大きく出ていたように思う。正確なキックを持つサヴィオが列を降りてブロックの外でフリーになり、逆サイドの関根にロングボールを通す→クロス、という攻撃パターンが新たに生まれていた(このサヴィオの役割、2020年あたりの宇佐美に通じるものを感じる)。

 2点リードでリスクを取らないガンバのスタンスは、時間が経つにつれ「セーフティ」というよりは「安易」なプレーに繋がっていった。宇佐美の前プレに後ろが連動しないシーン(56分)、ウェルトンが敵陣まで運ぶものの横パスをひっかけたひっくり返されたシーン(60分)など、少し緩みを感じさせるようなプレーが目立っていく。

 勝負所とみたか、井原監督は66分に島村と戸嶋を投入。直後にウェルトンが重戦車突破でその2人を吹き飛ばしたのには笑ったが、このプレーを最後にウェルトンもお役御免。倉田が左サイドに入る。

 倉田がここに入ることで、攻撃の起点やロングボールのターゲットとしてウイングを使うことは難しくなっていくが、恐らく守備のウエイトを高くしようというピッチ内の方針に呼応した選手交代だったろう。その後、山田康太に替えて坂本、山下に替えて岸本と、体力に衰えの見え始めた前線の選手を入れ替えるポヤトス監督。

 この交代のタイミングで柏も立田に替えて野田の投入を決断。かつてガンバ大阪(U-23)に在籍した野田が、J1デビューとなる凱旋を果たす。

 直後の79分にジエゴのゴールで柏が1点差に迫る。戸嶋の縦パスに反応した細谷がフリックで中谷の股を抜き、後ろのジエゴに通した技ありのプレーだった。このシーン、巻き戻してみるとガンバのコーナーキックからのカウンターの流れでディフェンスラインの配置がズレている。本来は右から半田-中谷-福岡-黒川となるべきところが、中谷-福岡-黒川-半田となってしまっていた。結果、マークの受け渡しがズレてしまい、瞬間的に中谷の周辺で2対1が生まれてしまった。流石の中谷もこれを守り切るのは難しかったか。

 その後も攻め続ける柏。86分に高嶺に替えて山本桜大を投入。サヴィオがほとんどボランチの位置に落ち、アーリークロスの配給先として機能するようになる。同じタイミングでガンバも宇佐美に替えてジェバリ、黒川に代えて中野を投入。ジェバリを1トップに、坂本を右サイドハーフに移し、岸本・半田・中谷・福岡・中野からなる5バックで守り切りにかかる。

 これまで、ゴール周辺は堅いものの中盤を支配されがちだった5バックへの変更。だが、今節は柏も中盤を減らしてクロスのターゲットを増やす変更を行っていたこともあってか、中盤を攻略されてクリーンな形でボールを送り込まれるシーンは比較的少なく、ブロックの外から送り込まれるクロスを前向きに跳ね返せており、セカンドも拾えるシーンが多かった。

 また、エゴを捨てたジェバリが前線で橋頭保として機能し、相手陣内で時間を稼いでくれた影響も大きかっただろう。9分という長いアディショナルタイムだったが決定機らしい決定機は作られないまま終わり、そのままガンバが勝利。これでリーグ戦4連勝となった。



まとめ

 前半はいい形でゲームを進められていたが、試合後のインタビューで選手たちも述べている通り、後半は2点差という状況で少し緩んでしまい、ボールを保持する意志をみせられなかったのは反省点だろう。83分ごろの保持シークエンスにおいては、しっかりポジションを取れていれば2トップのプレッシャーを外して前進できることは示せていた。チームで同じ絵を描いてこういう時間を増やすことができれば、より安定したゲーム運びができるようになるのではないか。

 湘南戦・柏戦と課題を突き付けられながらも勝ち点3を持ち帰ることに成功したガンバ。シーズン折り返しを前にして既に昨年度に並ぶ勝ち点を積み上げることができている。ここから4位神戸、2位鹿島、首位町田と痺れるような連戦が続く。ヒーローインタビューで山田康太がついに口にした「優勝」のふた文字。いよいよ高みに挑戦する時が来た。



ちくわ(@ckwisb

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