2024 J1 第4節 ガンバ大阪 × ジュビロ磐田 レビュー

レビュー

 試合開始早々・前半3分に先制点を手にしたガンバ。岸本・ウェルトンという新戦力たちの特性に導かれたサイドの制圧構造が秀逸だった。簡単に言えば、左はアイソレーションで刺す、右はトランジションで刺す。

 先制点に繋がった右サイドへのロングボール。ここでは、岸本と相手SB松原との競り合いが起点になった。岸本はそれほど身長があるわけではないが、DFもできるということで競り合いを厭わず、その後のトランジションへの反応も早い。宇佐美や山田康太を含め、岸本へのロングボールに備えて右サイドに密集を作り、敵陣深くでボールを奪いにいく――先制点については松原の不用意なパスが直接的な原因とはいえ、それが起きうる構造を意図的に作ろうとしていたように見えた。

 その選択肢を強力にしていたのはこの日三浦に代わって先発CBを務めた福岡だろう。左CBから右WGへワンステップで届ける持ち前のキック精度が光った。Sofascoreによると、中谷のロングボールのチャレンジ数が3本(うち0本が成功)に対し、福岡は実に14本のロングボールチャレンジ、うち7本を成功させている。岸本にいたっては、空中戦勝率100%(3/3)だ。DF-GKでボールを回し、磐田の準備が間に合わないここぞというタイミングで高精度のロングボールを蹴り込むことができていたとみられる。

 逆サイドでは、ウェルトンをアイソレーションで走らせる形が目立った。ここで目立ったのは一森。GKを起点にすることで磐田DFに左右の狙いを絞らせず、タッチライン際に張ったウェルトンがフリーでボールを受けられる隙間が生まれる。ボールを受けたウェルトンは、前が空いていれば走れる。空いていなくてもドリブルでボールを運んで相手を押し下げられる。ある程度の高さまで運べたら、自分の間合いで「止まる」ことで味方が崩しの陣形を整える時間を作れる。喉から手が出るほど欲しかった「ウインガーらしいウインガー」がついにガンバにやってきた。

 磐田がサイドの制圧構造を嫌って中央への管理が甘くなれば、ブロックの脇から「斜めに刺す」パスの出番。ゼロトップ的に降りてボールを引き受けられる宇佐美・山田康太らがバイタルで牙を向く。ウイングが気になって空いた磐田SB-CBの間に走り込み、ポケットを取りにいく半田陸も目立っていた(両WGを張らせて半田が走り込むスペースを作る黒川の3バック化も組み込まれていた)。サイドの優位をベースに、中央の怖さもある。出し手を潰しに行こうとしても、ネタラヴィが列落ちでボールを落ち着けるし、一森まで戻されれば的を絞れない。守る磐田からすれば、相当のやりにくさを感じていたのではないだろうか。

 磐田は保持の狙いによってこの苦境を脱しようとしていたように見えた。この日のガンバは新潟戦ほどハイプレスには出ていなかった。ガンバ側に早い段階で先制できていた余裕もあったろうが、磐田が最終ラインに選手を落としてガンバにハイプレスの的を絞らせなかったことも影響していたと思う。

 磐田は、最終ラインで数の余裕を持ちつつ、そこからじっくり組み立てる、というよりは、サイドハーフを捕まえに行くガンバのサイドバック裏を目がけて早いタイミングでボールを送り込むことが多かった。サイド深くまでボールを持ってくることができれば、そこで時間を稼いでサポートを待ち、アタッキングサードに人を集めてポケットを攻略しにかかる。

 川崎戦で衝撃的な4ゴールを放ったジャーメイン良だが、前線でしっかりボールを自分のものにできていた。以前J1で観た時はこんなにボールを落ち着けられる印象はなかったので驚いた。前節新潟をサイドに閉じ込められていたのに対し、今節そうはならなかったのは、前線で時間を稼げるジャーメインがいたからだろう。彼が脅威になることが分かれば、ガンバもうかつに前から人をはめ込みにくくなる。そうなると磐田も中央に通しやすくなる。サイド奥に起点を作り、人を集めてポケット⇒クロス という流れで、ガンバのゴールマウスを脅かすことができていた。

 だが、そこで効いていたのが宇佐美のプレスバックだ。アタッキングサードまで運ばれたあとのバックパスに宇佐美がプレスバックをかけることで磐田のリサイクルを許さない。ゴールという華々しい結果にフォーカスが当たっている今年の宇佐美だが、これができるようになっているのが去年との違いを明らかに示していて、本当に頼もしい。


 後半の磐田はペイショットと古川を投入し形をガラッと変えてきた。ペイショットとジャーメインの強力2トップを前線に並べ、ポストからのセカンドボール回収、内側に入ることが多かった平川と異なりサイドで待てる古川がカットインからのハイクロス、と分かりやすく狙いの軸を変えてきた。

 ガンバは後半序盤こそ押し込まれるものの、ウェルトンの突破を活用してゴールに迫る。47分、55分と縦突破から決定的なクロスを供給したウェルトン。55分のクロスから始まった波状攻撃でゴールが実る。ついに今シーズン初の複数得点に成功したガンバ。

 しかし直後の59分に失点。セットプレーからのカウンターで黒川がGK川島と1対1の決定的な形を作るが、それを防がれたところから繋がれ、ジャーメインのヘッドから1点差に迫られる。ジュビロの崩しは見事だったが、そこまでのオープンな展開のあおりを受け、コンパクトネスが失われていたように見えた。

 以降、ガンバは磐田に押し込まれることとなる。ここでは福岡起用のネガティブな側面が出た。三浦と比べるとどうしても肉弾戦に劣る福岡。ペイショット・ジャーメインに空中戦を制され、なかなかボールを自分たちのものにすることができずラインが下がってしまう。前線はできれば前から潰しにいきたいが、ロングボールでアドバンテージが取れる磐田にとってみればハイプレスはそこまで怖くない。後半直後から怪しかった守備の意思統一が、ここに来て露わになってきた。

 その流れをボール保持によってせき止めたのが鈴木徳真だった。ネタラヴィとの交代でボランチに入ると、積極的に動いて横パスのサポートに出る。磐田も決してプレッシングの圧力が強くなっていたわけではないので、2トップ裏に起点を見つけて顔を出し、横パス・バックパスを使いながらボールを落ち着けていった。ただ、その効果が保たれたのも10分ほど。以降は選手交代によって改善を試みるが、ポジトラの局面で孤軍奮闘になり、相手にボールを回収される→クロス、の無限ループが続く。

 このように磐田にモメンタムを握られながらも、最後ではやらせない気合が目立っていた。クロスのこぼれ球への反応が早く、シュートブロックが間に合う。磐田に放たれた20本のシュートのうち11本をブロックし、枠内シュートは3本に抑えていた(sofascore)。切り替えの意識を高く、という今年のガンバのキーワードがチームに浸透していることが分かる時間帯でもあったのではないだろうか。終了間際の一森のビッグセーブもあり、ガンバが薄氷の連勝を果たした。



まとめ

 個の特徴が目立つ構造で磐田を押し込めた前半、構造の変化に対応できず相手の個の特徴にあわやというところまで迫られた後半の差が顕著なゲームだった。完璧なスカッドを作るのは難しいからこそ、自分たちが特徴を出せる局面でしっかりとゴールを奪い切れたこと、そうでない時間でもしっかりと守り切ったことは、チームの自信につながったはずだ。

 ウェルトンという新たな武器を手に入れたことで、今までの武器が更に輝きそうな予感もある。どの武器をどのタイミングで使って、そのためにはどう動くのが正しいのか。具体的には、半田のポケット攻略が岸本のランニングと被ったシーンなど、ピッチに居る選手の特徴とそれぞれの強みが全体で整理されていけば、もっと怖い攻撃ができるはず。次の試合が待ち遠しい。


ちくわ(@ckwisb

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