2019 J1第12節 ガンバ大阪vsセレッソ大阪 レビュー

 ついにやってきた令和初の大阪ダービー。
 7戦勝ちなしと2連勝、という対照的なバイオリズムを描いている両チーム。とはいえダービーはダービー。直近のチームの調子は関係ありません。勝ってプライドを取り戻したいガンバとここで宿敵を破ることで新体制に確信を持ちたいセレッソ。舞台は完璧に整いました。
 お互いの狙いがぶつかりあったこのゲーム。詰め込まれた情報量の多さでは歴代最高クラスの大阪ダービーだったのではないでしょうか。というわけでお互いの狙いを少しずつ紐解きながら振り返っていきたいと思います。

スタメン

 前節鳥栖に完敗を喫したガンバはこの試合大きくメンバーを変えてきました。ヨングォンは累積で出場停止でしたが、遠藤・米倉・ジェソクといったこれまでスタメンで起用されてきたメンバーがベンチに回り、福田・高江・高尾といったこれまでU23を主戦場にしていた選手たちが抜擢された3-5-2という新たなフォーメーションを用いることとなりました。

 一方、セレッソは前節シーズンアウトの怪我を負った都倉に代わって高木が入ったものの、形としては前節・前々節の勝ちゲームで使っていた4-4-2の形を変えずに持ち込んできました。

宮本監督は何故3-5-2を選んだか?

 ガンバをつぶさに観察してきた方ならご存知のこととは思いますが、この3-5-2というフォーメーションは宮本監督が2017年にガンバのU-23チームで採用していたものです。

 当時、プロ契約の選手を11人揃えることすら難しかったガンバU-23において、中原のパス能力、妹尾・平尾の打開力、一美のポストプレー、群のサイズなど、数少ない計算できる選手の持ち味をどのように生かすかということを考えてひねり出したフォーメーションだったと思います。

 形こそ同じ3-5-2ですが、今回この大一番で宮本監督がこのシステムを採用した理由は似て非なるものでした。

 言うなれば「タスクの明確化」

 これまでのガンバが採用していた4-4-2(4-2-3-1)は、攻撃時にサイドハーフが中に絞り、大外をサイドバックがオーバーラップしてくるという形の変化を指向していました。攻撃時に各々がベースのポジションから移動することでボールを引きだせる仕組みです。

 こうした変化を起こすことで、相手の守備ブロックに対して「誰がどの選手についていくのか」という対応を強いることができます。一方で、自分たちの「攻撃の基準点」、言い換えれば、「誰がどこにいるべきなのか」という軸を簡単に失ってしまうリスクも孕んでいました。

 ガンバにとって苦しかったのが、機を見たオーバーラップで「攻撃の基準点」となっていた藤春が負傷離脱してしまったこと。彼がいなくなったことで、どこから攻撃を展開するべきなのかがぼやけてしまっていたように思います。

 このように人に紐づいて複雑化したタスクを、宮本監督は3-5-2の採用によって整理しようとしていたとみられます。

 3-5-2というフォーメーションは、そのまま並べれば4-4-2の急所である大外とハーフスペースにバランスよく人を配置することができます。ポジションを意識すれば、そのままいるべき場所に居られるということです。

 この変化の恩恵を一番受けていたのが倉田ではないでしょうか。
 前節ボランチ起用の際は、広範囲に動きすぎることで「いてほしい時にいない」という状況を生み出すこともあった倉田。
 「相手のサイドハーフとボランチの間」という具体的な基準点を与えたことで、出し手との意思疎通がスムーズになり、もともとの彼の特性である狭いところでボールを運んでいく能力がより発揮されていたように思います。

確信をつかむために

 試合開始直後のガンバは、恐らくいろいろと手探りだったのでしょう。小野瀬が押し出されて福田が左サイドバックとしてふるまう4バックのような形を取るなどやや定まらない形を見せていましたが、3分ごろからセレッソが様子見でボールを持たせてくると3-5-2の形を取るようになっていました。

 攻撃時は上記に記載したようにセレッソの守備ブロックの急所にバランスよく人を並べてボールを循環させることができていた一方、守備の整備はまだまだという印象でした。

 6分にはスローインからの流れで誰がどこを埋めるのかあいまいになっていた状況で藤田にフリーでシュートを打たれ、9分には最終ラインのカバーリングがあいまいになったことで高木の飛び出しから決定的なシーンを作られます。
 東口のビッグセーブもあってなんとか序盤での失点は免れましたが、ここで失点してしまっていたらシステムへの確信を得られないままに各々が自分のプレーに拘泥してしまう危険もあったので、この時間に失点しなかったのは試合の分水嶺だったかもしれません。
 
 こうしたピンチを経て徐々に守備の基準点を見つけていった印象のあるガンバ。10分過ぎごろからはセレッソのボール保持のターンとなりましたが、このあたりから恐らくは準備してきたであろう形が出せるようになってきました。図示すると下のような感じ。

  セレッソはボール保持時はCBが開いてボランチの片方がその間に入り、サイドハーフは清武が絞って水沼が開くという形になっていました。
 恐らくは清武に当ててそこから展開できれば一番よかったのでしょうが、この落ちる動きには高尾がついていき、粘り強く対応していました。

 結果として清武ではなく逆サイドに開いた水沼にボールを流してそこを起点にクロスからのチャンスメイクを狙うこととなったセレッソ。
 負傷離脱していた都倉がいればクロスからの攻撃は非常に重たいものになっていたと思いますが、高木・メンデスという2トップだったので空中戦での優位性は確保できていたガンバ。このあたりからなんとなく「行けるぞ」という感覚がつかめてきていたのではないでしょうか。

 20分ごろからはガンバがボールを持てる時間も増えてきました。セレッソは上述のガンバが準備してきた守備の形によってクロスを蹴らされるシーンが多く、あまりボール保持からいいシーンを作れているとは言えない状況でした。

 ガンバがネガティブトランジション時の際の対応を迷いがちなこともセレッソはスカウティングしていたと思います。ガンバを自陣に引き込んで裏にスペースを作ることでロングカウンターからチャンスを作ろうとしたセレッソ。
 ボール保持のガンバ、カウンターを狙うセレッソという格好で試合は進んでいきます。セレッソはロングボールに飛び出した清武がキーパーとの一対一を作るシーンもありましたが、ここも高尾が粘り強く対応して事なきを得ていました。

無意識?意図的?福田へのお膳立て

 この試合のガンバは全体的に右に流れる傾向がありました。
 最終ラインに並んだのが菅沼、高尾、三浦。全員右利きの選手です。また、高尾は右サイドバックを主戦場とするプレーヤーなので、ボール保持の際は右に大きく開いて受けることが多かったです。

 ガンバのビルドアップが右を起点に始まり右サイドに人が集まってくることで、セレッソのコンパクトな守備ブロックも必然的に右にスライドしてくることになります。
 
 こうした状況下で輝きを放ったのが今節左ウイングバックで起用された福田。恐らくはこのポジションに与えられたタスクだった、タッチラインいっぱいに開いたポジショニングを忠実に守ることで、サイドチェンジからフリーでボールを受けられるシーンが非常に多く見られました。

 フリーでボールを受けた福田は、対面の選手に対しとにかく積極的にデュエルを挑んでいきます。この試合で福田が挑んだデュエルの数は両チーム最多タイの18回。そして恐るべきは、18回のうち12回のデュエルを制していたこと。ウイングバックなので攻撃・守備それぞれの局面でのデュエルがあったかと思いますが、前目の位置でも簡単にボールを失いませんでした。
 U-23ではサイドハーフの起用が多く、特に今期は持てばかならず一枚剥がすぐらいの勢いで積極的な仕掛けを見せていた福田ですが、こうした下積みの成果を見事トップチームの舞台で発揮させていた福田。

 これまでの4-4-2であればここに入る選手は藤春であり、ジェソクでした。彼らは積極的に一対一を挑める選手ではなかったためサポートを待つ必要があり、サイドチェンジから一人でチャンスを作るのは難しかったと思います。新たな価値をチームにもたらし、スタメンを奪い取った福田。彼のプレーはチーム全体を奮い立たせていたと思います。

相手の修正を逆手に取った先制点

 セレッソは後半から松田と水沼が一列ずつ下がって清武と高木がシャドーを形成する3-4-2-1の形に変化していました。前半フリーでボールを受けられていた福田に誰を当てるのかをはっきりさせる意図があったとみられます。

 そして開始直後に前線で起点を作れるソウザを高木と入れ替え。システムをがっちり噛み合わせることで前半最後のほうにガンバにボールを持たれていた状況から脱却しようと試みていました。

 しかし、そうした変更の直後にガンバの先制点が生まれます。先制点を生んだ全員の動きがすばらしかったので切り取って図解してみました。

 セレッソがマッチアップをはっきりさせてきたということは、ガンバからすればそれを逆手に取れるということです。先制点を生み出したのはマッチアップを逆手にとって作った2つのスペースでした。

 水沼が福田とのマッチアップを設定されたように、逆サイドでは丸橋が小野瀬とのマッチアップを設定されていました。恐らくセレッソの両ウイングバックのタスクは相手のウイングバックにアプローチをかけてバックパスを選ばせることだったと思います。

 タスクを忠実に守ろうとした丸橋が、高尾のパス動作を見て小野瀬にアプローチをかけます。すると、小野瀬に引っ張られた丸橋とソウザの間にスペースが生まれます。そのスペースを見逃さなかった高尾。縦パスを通し、絶好の位置で高江が前を向きます。

 そしてウィジョの動きも素晴らしかった。前を向いた高江から離れるように走ることでヨニッチ・松田をくぎ付けにします。
 そうすることで生まれたわずかなスペースに後列から倉田が走りこみ、完璧なトラップからニア上をぶち抜くゴール。ダービーに対する全ガンバファミリーの思いを載せたかのような強烈な一撃でした。

めまぐるしいカードの切り合い

 ゴールが必要になったセレッソは両ウイングバックを積極的に前に出してクロスの雨を降らせようとしますが、ガンバも粘り強く対応して決定的なシーンを作らせません。
 むしろ両ウイングバックが前に出たことでその裏にスペースが生まれ、トランジション時に左サイド裏で受けて切り込んだウィジョから2つほど決定的なシーンを作れていました。

 ボール保持時には3-5-2の配置を活かして後ろで回しながらじっくり時間を進めることができていたと思いますが、高江が足を攣ってしまったためこのプランは頓挫。

 ここからめまぐるしく両ベンチが動きます。

 高江の後ろに控えていたボランチは今野とヤット。コンディションがあまり上がっていないベテランに対して同じ運動量を求めるタスクは難しいと踏んだのか、宮本監督は交代投入で食野を送り込み、アデミウソンと両サイドを担当させる5-4-1でスライドの負担を抑える作戦に切り替えます。

 受けに回ったガンバの動きを察知したロティーナ監督は藤田を下げ柿谷を投入。ソウザをボランチに戻し、再び4バックに戻して攻撃の圧力を強めます。それを受けて宮本監督は倉田に代えて今野を投入。守備に重きを置いた采配で逃げ切りを図ります。

 セレッソは受けに回ったガンバを左右に振り回しながらクロスを打ち込むことでチャンスを作りにかかります。スクランブルから柿谷にシュートを打たれたシーンはヒヤリとしましたが東口がキャッチ。その後ロティーナ監督は狭いスペースで動ける田中亜土夢を投入しさらに攻撃に舵を切っていきます。

 クリアボールをなかなか自分のものにできなくなった状況を踏まえ、ガンバは矢島に代えてヤットを投入。
 今回はベンチスタートとなりましたが、フリーでボールを受ける技術についてはやはり抜きんでているヤット。スペースを探してパスの受け手となることでセレッソ一辺倒に傾いていた試合の流れを引き込み、ガンバにボール保持の時間をもたらしていました。

 とはいえセレッソも最後の力を振り絞り前線に人を送り込みます。ロスタイムのコーナーキックではキムジンヒョンも上がって点を取りにきますが、何とか守り切ったガンバ。どうしても勝ちたかった大阪ダービーをウノゼロでモノにしました。

まとめ:新たな風、新たな基準、新たな競争

 この大一番で若い選手を抜擢するという博打に打って出た宮本監督。結果、見事その博打に勝って勝利を手にすることができました。
 単なる結果だけが残った勝利ではありません。U-23での積み重ねはJ1の舞台でも無駄にならないことを証明した若い選手たちの突き上げは、ガンバに新たな風をもたらしたと思います。

 この日初先発だった高江・高尾・福田は全員が自分の持ち味を遺憾なく発揮していました。高江は絶え間ないフリーランで攻守それぞれの局面において適切なポジションを取り続け、高尾は粘り強い守備で攻撃の起点をつぶし続けたばかりか、攻撃時にはそのパス能力の高さをもって先制点奪取に貢献しました。福田は前述の通り自らの技術でチームに新たな価値をもたらし自らのポジションを確固たるものにしました。

 整理されたタスクのもと躍動する選手たちを見ていると、宮本監督が見たかった景色の片鱗がついに見えてきたような気がします。とはいえまだまだ途上の道のり。意表を突く戦術で相手のスカウティングを空転させ、配置的な優位を活かすことでようやく勝てた、とも言えなくはないです。
 今後当たるチームはこのガンバの戦い方を見た上で手を打ってきます。そうした相手の狙いを上回るような武器を磨いていくことができるか。

 とはいえ今日のゲームで、新たなガンバの基準が生まれました。これまでの人に由来した不安定な基準ではなく、配置とタスクをベースにした新たな基準です。
 人に由来しない基準は、正しい評価と健全な競争をチームにもたらします。若手にスタメンの座を奪われたベテランたちも黙っていないでしょう。新たに生まれた基準をもとに自分の武器を磨きなおすことで返り咲く機会を虎視眈々と狙っているはずです。そうした競争が好循環を生みチームをさらに強くしていくはず。
 振り返ったときにここがターニングポイントだったと言えるような一戦になるよう、今後も期待しながら応援していきたいと思います。

その他、気になったあれこれ

・この試合現地観戦でした!
 もう最高でしたね、エンタメとして最高だった。コレオも最高だったしTOYO TIRE様の演出(急な抜擢で対応できなかった若手のバルーンはご愛敬)も最高だったし観客の熱量も最高だった。非日常。異空間。
 こないだの神戸戦も大概すごい熱量だったけど、イニエスタが来るからいっちょ噛みしたろみたいな感じのお客さんが多そうだったのと比べると、今回は試合の勝敗が気になる人たちだけが集まっていたからか一人一人の熱量がケタ違いだったように感じる。
 大阪に住んでてパナスタのダービーに行かない奴はモグリ!ぐらいのプラチナチケットに成長しうるポテンシャルがあると思うので、ガチVIPにどんどん売ってこうぜ!!!インフルエンサー巻き込んでいこう!

ちくわ(@ckwisb

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