2024 J1 第28節 ガンバ大阪 × アビスパ福岡 レビュー

スタメン


レビュー

 長谷部監督のもと明確なコンセプトを持ったチーム運営がなされていそうなアビスパ(詳しく見ているわけではないが)。ローラインで構え、前線のフィジカルとスピードを活かした堅守速攻——そんなイメージで観始めると意表を突かれた前半の立ち上がり。

 今節のアビスパは基本フォーメーションである3バックではなく4-4-2を採用していた。スタメンの並びだけ見れば3バックにしか見えないメンバーを持ち込んだ上でフォーメーションを切り替えてきた形。コイントスでサイドを変えたことも含め、恐らくスカウティング外しでガンバに普段の戦い方を選ばせない意図があったのではないか(前節も同じような戦い方だったらごめんなさい)。

 加えて、前回対戦と異なりローラインで構えて受けるのではなく、積極的に前線からのプレスをかけにきていた。特徴的だったのは前線の左に入った岩崎。もともとウイングバックが主戦場で上下動を厭わない選手だが、その運動量を活かして対面の中谷がボールを持てば落ち着かせずガンガンプレスの牙をむく姿が印象的だった。この試合、ガンバは中2日、アビスパは中6日。終盤になればコンディションの差が出てくるはずなので、序盤に畳みかけてゲームを有利に進めようと考えたのではなかろうか。

 ただ、逆にアビスパも自分たちの守り方に慣れ切っていない部分があるように感じた。特に気になったのは右サイドの紺野と亀川のコンビ。紺野はサイドハーフの位置に入っていたが、ザヘディの運動量がそこまで多くないため、場合によってはCBとSBのどちらに付くべきか困っている瞬間があった。黒川が紺野の背中で受け、アラーノがハーフスペースに入ることで、黒川からアラーノ、あるいはその後ろにいる宇佐美、といった形で、サイドバックからバイタルエリアへ斜めのパスが入っていた。3バックで守るアビスパであればハーフスペースへの迎撃の役割はサイドのCBが担えばいいので分かりやすいが、ここをどう潰すかがはっきりしていないようだった。

 そうこうしている間にガンバはダワン・鈴木徳真のどちらかが列落ちして3バック化、合わせてウイングを中に入れ、両サイドバックが高い位置を取る可変を行う。プレスをいなしながら幅を取った可変でボール保持を安定させつつあったガンバだったが、ボールを受ける側まで狙いがしっかり共有されている状況ではなさそうで、単発の攻めが増えていく。

 10分、この日左サイドバックの位置に入っていた池田が負傷交代。代わって井上が入り、宮・田代がひとつずつ左にスライド。接触がないのにファウルを取られた山下は不運だったが、池田は接触がないところでの負傷。重い怪我のようにも感じるが、軽傷であることを祈りたい。

 19分、トランジションの局面からPA内に仕掛けた紺野を鈴木徳真が倒してしまいアビスパが先制のPKを得る。起点となったアラーノと前の接触にファウルが出なかったことには疑問符が付くが、ここはガンバの守備も良くなかったと感じる。宇佐美がアラーノのカバーでサイドハーフの位置に入るまでは良かったが、黒川との役割分担にエラーがあったと思う。ボールを運ぶ紺野の対面には黒川がいるので、宇佐美は並走してカットインのコースを消しておけば紺野のスピードを落とせるはずだった。宇佐美が無理目のタックルを仕掛けてしまったことで紺野に加速の機会とドリブルのコースを明け渡すことになってしまい、鈴木徳真が1対2の対応を迫られることになってしまった。ややこしいのは、普段通りであれば宇佐美の守備のタスクはプレスバックからのタックルだったこと。ここでは瞬間的にサイドハーフの守備が求められていたのが難しいところだった。

 ただ、直後にガンバが福岡(ややこしい)のヘッドで同点に追いつく。アビスパのライン間で技術的な優位性を示していたアラーノがハーフスペースで倒されたところから、連続したプレースキックでのゴール。

 ここで注目したいのはゴールに繋がったコーナーキックのキッカーが宇佐美ではなく鈴木徳真だったこと。ここでは宇佐美はペナルティエリア外でこぼれ球に備える立ち位置を取っていた。この日の宇佐美のシュート数は最終的には10本を数えたが、上述のシーンと照らし合わせても、この日の宇佐美には「自陣でブロックを組むアビスパ対策として、外から積極的にミドルを打つ」タスクが与えられていたことは想像に難くない。

 30分、再びアビスパがスコアをリードする。ショートコーナーから宮のヘッド。クロスへの寄せが遅れたことで完璧なタイミングで完璧なボールを蹴り込まれてしまった。ジャッジへの不満から少しゲームが荒れ気味に推移していたことが影響してか、守備の規律を整えることができずに複数失点を喫してしまったのは残念なポイント。

 その後はガンバがボールを持ちアビスパが受ける、という展開が続いた。アビスパは自陣では5-4-1に変化して守っていたが、左サイドにほころびが出始める。ポイントは岩崎のところ。敵陣では2トップの左、自陣では5-4-1の左サイドハーフという相当移動量の多いタスクを与えられていた彼。時間が進むにつれ間に合わないシーンが増えていき、山下・岸本からのチャンスメイクが増えていった。ガンバはペナルティエリア内にボールを送り込めてはいるが、ゴールにまでは繋がらず。




 リードしていたが、後半も前からプレスを掛ける姿勢を崩してこなかったアビスパ。ガンバは先述したビルドアップの枚数調整だけでなく、自陣に相手を引き込んでの疑似カウンターによる前進も絡めていく。後半キックオフ直後のシーンではダワンがアンカーの位置をとり、鈴木徳真と縦関係を作っていた。中盤の2枚でアビスパの2トップと2ボランチを固定し、サイドバックを広げることでアビスパのボランチとサイドハーフの間にスペースを作り、そこに宇佐美や坂本が降りて起点を作る。

 47分、坂本一彩のバックヘッドで同点。アビスパのブロックを縦に広げた結果、紺野の背中でボールを受けることに成功した黒川がボランチを引き出して宇佐美がハーフスペースに。センターバックの井上が引き出されて全体がスライドしたことでアビスパ守備陣にはマークを確認するタイミングが生まれた。田代は何度も周囲に視線を送りながら中のマークを確認していたが、この確認が一瞬の隙を生んだ。ボールから目を切った隙を見逃さずフリーの位置に潜り込んだ坂本一彩と宇佐美のクロスのタイミングが噛み合った美しいゴールだった。

 後半の早い段階で同点に追いつくことができ、落ち着いてゲームを進められるようになったガンバ。宇佐美のビルドアップサポートを絡めながらじっくり前進してアビスパを押し込んでいく。

 56分にアビスパは3枚替え。ザヘディに替えてウェリントン、亀川に替えて小田、重見に替えて松岡。守備の形は4-4-2で変わらなかったので、恐らくフレッシュな選手の投入によって守備強度を上げようと試みていたのではないだろうか。特に松岡のデュエル勝率が目立っていた。63分には松岡のボール奪取からアビスパがボールを繋ぎ、アーリークロスからウェリントンの決定機を作る。

 ガンバも選手交代を行うが、中2日にしては交代が限定的。74分にアラーノに替えて山田。山田がトップ下に入り、宇佐美が前線に。坂本が左ウイングの位置に回る。前線のターゲットが減ったこともあってか、この交代から相手の中盤をうまく攻略できなくなってくる。

 ペースを取り戻したのは82分の選手交代から。山下に替えて福田、鈴木徳真に替えてネタラヴィ。ネタラヴィの狭いところで前を向く動きや福田の身のこなしでモメンタムを引き寄せる。およそ11か月ぶりの復帰となった福田は短い出場時間ながら切れ味の鋭いプレーを見せていた。2~3回チャレンジしていた内側に切り返すターンでファウルを得るプレーが目立っていたが、筆者が個人的に気になったのはサイドバックの上がりに呼応して斜めのランでDFを引っ張りながらエリア内に入っていくシーンなど、味方の展開に合わせたプレーの連続性を多く観測できたところ。この感じでプレー精度が上がってこれば、後半戦に向けて貴重なチームの上積みになってくれるのではないだろうか。

 最終的には倍以上シュート数の差をつけたが3点目は遠く、2-2のまま試合終了。これでリーグ戦は4試合連続の引き分けとなった。



まとめ

 90分を通して観れば勝てたゲームだったと思うが、前半、ディテールの部分で落とした2失点が痛かった。前半戦も序盤は苦しんだ。現状が戦い方をマイナーチェンジしたことによる産みの苦しみだとするなら、やり続けることでアーカイブが蓄積されていき、前半戦と同じように爆発的に勝ち点を伸ばせるタイミングがやってくる可能性もある。次節、台風の影響で開催の可能性は流動的だが、前半戦の好転のきっかけとなったダービーが待っている。10試合を残して首位との勝ち点差は6。まだまだ射程圏内。



ちくわ(@ckwisb

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?