留学生Mさんの思い出 その1

以前、ある知人の紹介で、アジアの発展途上国からの留学生と交流をしたことがありました。国立感染症研究所に派遣された女性でした。

とても聡明な方でしたが、生活費に困っていました。できるだけの援助はしたつもりでしたが、私も当時はお金がなかったので、満足のいくほどでまでは手助けできませんでした。
これは、その人が書いた英語の詩をもとに万葉集風に書き直したものです。

たちまちに 春は過ぎゆき 桜花(さくらばな) 散りにけらしも 香(か)のみ残して                maumau
                      ~Mさんの英詩より

解説

つい最近まで若いつもりでいたのに、もうこんな年になってしまった。このまま年をとるだけなのだろうか。

だけど、年相応に、するべきことはあるし、何よりも自分が今している研究を完成させなければならない。

人間として、きちんと成長し、自分の仕事にまい進すること。それが、今、私にできる一番大切なことなのだろう。

当時、お茶の水の喫茶店で会ったことがあります。久しぶりに会ったMさん。
すでに、日本語は流暢になっていました。

運ばれてきたコーヒーを、おいしそうに飲みながら、大きく深呼吸をしたMさん。
「ここのコーヒーはおいしいですね」
「僕はお茶の水に来ると、かならずここのコーヒーを飲むんですよ」
「ところで、Mさん、生活の方は大丈夫ですか」
「苦しいけどなんとか頑張っています」
「最近、アルバイトを始めたそうですね」
「はい、仕事と両立するのはたいへんですけどね」

喫茶店で、しばらく積もる話をしたあと、マロニエ通りを散歩しました。
光あふれる中で、Mさんの横顔は輝きに満ちていました。

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