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押井守のサブぃカルチャー70年「音楽の巻」【2021年9月号 押井守 連載第28回】

今回は、そういえば押井さんに聞いたことのないテーマ、「音楽」について。カラオケのオハコやポスターまで部屋に貼っていたというミュージシャンについてなどをうかがいますが、ここへきて、押井史に多大な影響を与えた人物の存在が明らかに!?
取材・構成/渡辺麻紀

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彼は言った。「音楽というのは、気持ちいいと感じることが一番大切なんだ」と。

――今回は音楽についてお願いします。音楽も立派すぎるくらいサブカルですし。考えてみたら、押井さんに音楽についてのお話をお伺いしたことはなかったかもしれません。

聞いた人もほとんどいないよ(笑)。

――押井さん、カラオケで歌ったりするんですか?

あまりないなー。いつだったかSF作家クラブのパーティでカラオケに行ったことがあるんだけど、宮部みゆきさんが突然、『残酷な天使のテーゼ』を歌い出してびっくりしたことがある。
アニソンは誰でも歌う時代なんだけど、私はほとんど歌えない。最近の曲は難しすぎて覚えられないし歌えない。メロディが難しすぎますよ。
私がカラオケで歌うのは『サイボーグ009 第2作』<1979~1980年>)の『誰がために』。(高橋)良輔さんの『009』の主題歌だよね。あとは『あしたのジョー2』(1980~1981年)の主題歌(『傷だらけの栄光』)と、沢田研二が歌った『さらばヤマト』(『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』<1978年>)の主題歌(『ヤマトより愛をこめて』)かな。

――押井さん、古いとはいえ、レパートリーは思いのほか豊富ですよ。

子供のころに観ていた海外ドラマの主題歌、『ミスター・エド』(1961~1966年)とか『ブラボー火星人』(1963~1966年)の主題歌とかも、今でも憶えているから歌えるよ(笑)。
でも、こういう歌はただ憶えているから歌えるだけで、好きだったからとか、大きな影響を受けたからというわけじゃない。
アニメやドラマを離れて、ポップスとか流行歌になると、子供のころからことごとくスルーしてきたんです、私は。
音楽にハマる年齢の中学生のときはグループ・サウンズの全盛期。ちょっと気の利いたヤツになるとビートルズとかアニマルズを聴いていた。高校と大学はフォークソングの真っ只中。吉田拓郎とか小室等とかが大人気だった。
でも、私はそういう音楽やミュージシャンを全部スルーした。まるで興味がなかった。

――初めて買ったレコードは誰のだったんですか?

それが意外だろうけど、ジョーン・バエズなんですよ。中学生のころで、彼女のLPを買い漁り、部屋には彼女のポスターを貼っていた。イデオロギーも何もなく、ヒッピー文化にシンパシーもなかったにもかかわらず、ジョーン・バエズが私のマドンナだった。

――お、押井さん、中学生のころからおばさんっぽい人が好きだったんですね。

おばさんっぽい? 当時の彼女はそんなことなかったと思うけど……。
それはさておき、彼女の音楽性とかどうでもよくて、彼女が好きだっただけ、今になって思えば! 
もしかして、オレはフォークソングが好きなのかとも思い、ピーター・ポール&マリーやブラザース・フォアのレコードも買ったけれど、たいして聴いたわけじゃない。だから単にバエズが好きだっただけ。
そのあとLPを買ったのは『2001年宇宙の旅』(1968年)のサントラ。映画を観た翌日、レコード屋に走ったから。その次はホルストの『惑星』だったかな。要するにSFだった。これも音楽性とはあまり関係ないわけだ。
そうやって振り返ってみると、映画関連だったりドラマだったり、純粋にバエズというキャラクターだったりしただけで、厳密に言うと音楽そのものが好きになったわけじゃない。
若い頃は青春と音楽がセットになっているし、そういう映画もたくさんある。でも、私の場合はそんなことは一度もなかった。自分でも不思議なんですよ。

――押井さんとジョーン・バエズ……奇妙な取り合わせですねえ。

自分でもそう思うよ(笑)。
それからどーんと飛んで(スタジオ)ぴえろに入ったとき、オカッパのおねえさん、岩崎宏美に行っちゃうんですよ。

――えっー! 岩崎宏美⁉ それもまた衝撃的じゃないですか!

まあ、そうだよね(笑)。でも、相当ハマっていた。リサイタルにも行ったし、初回限定のポスターが欲しくてレコード屋に予約して、そのポスターを部屋に貼ったりもした。『センチメンタル』とか『シンデレラ・ハネムーン』とか『万華鏡』とか、かなり聴き込んでいましたよ(笑)。

――も、もしかして岩崎宏美のポイントはオカッパなんでしょうか?
 
それもあるんじゃない? 歌も上手かったし、キャラクターも好きで、ルックスも好みだったから。彼女はいわゆるアイドルじゃなくて、グラビアに出たこともほとんどないんじゃないかな? TVドラマや映画への出演も記憶にない。本当に歌が上手だったから歌一筋の人って感じだよ、私の印象は。
岩崎宏美は、その後、結婚して芸能界を引退し、離婚してまた戻って来た。ヘアスタイルはさすがにオカッパじゃなくなったけど(笑)。

――いやいや、押井さん、今もチェックしているんですか?

そういうわけじゃなくネットでニュースを見ていたら、そういう情報も目に入るんです! 追っかけているわけじゃありません!

――そうですか、ちょっと安心しました(笑)。

そして、ある日突然、モーツァルトに行っちゃうんですよ。

――よくわかりません……。

私もわかりません! 

――まさか、ミロス・フォアマンの『アマデウス』(1984年)がきっかけとか?

違います! それよりずーっと前から聴いていたから。ただ、そのときはモーツァルトの何がいいか、よくわからないまま聴いていた。大学時代の頃で、当時は自分がクラシック好きだと思っていたんですよ。バッハとか現代音楽の武満徹とか聴いていてコンサートにもよく行っていたしね。

――クラシックに走ったきっかけは?

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