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【6月号 特別企画】大会場はあなたの中に…妄想プロレス観戦記その4 アントーニオ本多(プロレスラー)【コラムフェスティバル②】

世界中が未曾有の事態となったコロナ禍にあって、それまでに再びブームとなって活況を呈していたプロレスも大会開催の自粛、中止を余儀なくされた。ようやく再開の兆しが見えたものの、プロレスファンは家で過去の動画を観てプロレス欲を発散するしかない日々が続いている。しかし、もう我慢できない。
プロレスが観たい。
今回の「コラムフェスティバル」は、執筆者の頭の中だけで繰り広げられたプロレスを、活字で展開するものである。
第4回は、現役プロレスラーのアントーニオ本多が執筆。コミカルから正統派まで、独特なキャラクターであらゆるプロレスを披露する彼も、もとはと言えば熱狂的なプロレスファンだ。そんな和洋新旧問わずプロレスを観てリング上で体現し、創作昔話の作成にいそしむ彼だからこそのファンタジーが今、ここに現出する。

文/アントーニオ本多(プロレスラー)

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<プロフィール>
アントーニオ本多(あんとーにお・ほんだ)●1978年東京都生まれ。2005年、プロレスラーとして「マッスル2」でデビュー。イタリア人、ハワイ人、「A.YAZAWA」、ハルク・ホーガンなど様々なキャラクターを駆使し、DDTプロレスリングなどで活躍。特に本家の動きを忠実に再現した「ハルク・ホーガン体操」は動画コンテンツなどでプチブレーク。YouTubeチャンネルも開設している。https://www.youtube.com/channel/UCsSpWtxhR4Y61JWRrx17htQ
最近は創作昔話の考案に起きている時間の大半を費やしている。

映画業界騒然の対決
チャック・ノリスVSクラーク・ケント(スーパーマン)


クラーク・ケントさんは、メトロポリスにある新聞社デイリー・プラネット社に勤務していた。
昼休み、お弁当に持ってきたおはぎとカイワレ大根を食べつくすと彼は言った。

「今日もありがとう、おはぎとカイワレ! バランス最高、宇宙規模!」

しかし、自分がふと口に出してしまった宇宙という言葉、もし周りの社員に聞かれたら、自分が実はクリプトン星からやってきたスーパーマンであると気付かれてしまうのではないか、そんな余計な心配が頭をよぎった、ちょうどそんな時であった。

記者室の窓から1羽の鳩が部屋に飛び込んできて、クラークのおはぎを置いていた皿の上に止まったのだ。
クラークはその鳩の足首に、手紙がくくりつけてあるのを発見し、メガネをズリ上げてそこに書かれた文字を読み始めた。

「やあ。クラーク。俺は知ってるぞ。君はスーパーマンだろ。メガネとって前髪くるんとさせたらそっくりだからな。俺は君と闘いたくてこの手紙をしたためています。黒いインクが綺麗でしょ、青い便箋が悲しいでしょ? そう、これは私からの挑戦状である。明日の午後3時、もし暇だったら蔵前のメトロポリス国技館に来い。どちらが世界最強の男であるか、そろそろ決めようじゃないか。プロレスルールで。私の名前はチャック・ノリス。映画俳優だ。P.S. 私も身体に良いのでカイワレ食べてます」

これはなんとチャック・ノリスからの挑戦状! それを握りしめたクラークの拳はワナワナと震えた! そして彼はこう思った。

「試合終わったらサインもらおう!」

翌日。空は晴れ渡り、鳥はさえずり、猫はこたつで丸くなっている。
午後3時。蔵前メトロポリス国技館は超満員札止めだ。
リングアナウンサーの淀川長治氏がマイクを握ると高らかに宣言する。

「はい、みなさんそれでは今世紀最大の対決、チャック・ノリス対スーパーマンの試合を行いましょうねえ。まずは青コーナーから、スーパーマン選手の入場ですなあ!」

スーパーマンは花道の上を低空飛行で滑走すると、マントをはためかせて堂々とリングインしました。

「はい、みなさんそれでは赤コーナーからチャック・ノリス選手の入場ですなあ!」

響き渡る映画『地獄のヒーロー』のテーマ曲!
ミリタリーファッションに身を包んだチャックが小走りで花道に登場すると、リングイン直前に、花道の横を流れる河にいきなり飛び込んだ!

河に飛び込んだままチャックは消え、水面は静まり、何も起きません。
固唾を呑む65000の観客たち。その時、
ザッパーン!
とスローモーションでチャックが河から姿を現した!

「はい、素晴らしいなあ、このスローモーションの表情、『地獄のヒーロー』の名場面ですなあ」

すると、何とゴングを聞く前にスーパーマンが奇襲!
河からチャックを引きずり出すとチャックを空中に浮かび上げ、凄まじい速度で2人の体は回転し始めた!

ブルブルブルブルブルブルブル!

なんと、河に入ったチャックの全身を濡らした水分が、光速度回転によりみるみるうちに脱水され、乾いてゆくではないか!
スーパーマンはここで一言。

「チャックさん、これで風邪を引かずに済みますね」

何という紳士! さっすがスーパーマン!

「ありがとうスーパーマン、ナイス脱水だ。カラカラで気持ちいいよ。ここは正々堂々勝負しようじゃないか」

チャックはスーパーマンに握手を求めると、2人は固い握手を交わした。

その瞬間であった。
2人の交わした握手が宇宙規模で固すぎたため、時空が歪みリング上にブラックホールが発生。そしてその中からなんと巨大な怪獣が出現したのだ!

がおー! 怪獣の全長は100メートル。凶悪な面構え。ふんどしに腰ミノという出で立ちだ。
チャックとスーパーマンは、「しまった! 握手が宇宙規模で固すぎた!」と一瞬思ったが、怪獣の出現に2人の正義の心は燃え上がった。
「メラメラメラ!」
チャックはわざわざ心の燃え上りようを言葉にすると、拳を握り、
「チャック・パーンチ!」

チャックは怪獣の顔面を殴ると、怪獣は涙を流しました。
「痛い! 親怪獣にも殴られたことがないのに。そうだ、そもそも僕には親というものがなかった。気付いたら生まれていて、気付いたらこんな格好で、気付いたら怪獣と呼ばれていて、まるで悪いものにされてしまった。別に悪くなりたかったわけではなかった。なんか、こうならざるを得なかっただけで。僕だってみんなと同じように、平和というものを味わいたかった。でも僕には平和ではなく悪行が自分を満たすものになってしまった。もう、引き返すことができなくなってしまった。もうだめだ」

スーパーマンは言いました。
「私は何と幸せなんだろう。正義の味方として人々を守るという責任は本当に重く、時に強大な敵に悩まされたり、時に自分の故郷が爆発して無くなってしまった事実に唖然とし異様な孤独に苛まれ、時にカイワレ大根の値段の高騰に頭を悩ませる。だけど私は平和という感情を感じたことがこれまで何度も何度もあった。そしてこれからも、それで満たしていきたい、それしかないと思っている」

チャックは言いました。
「私の映画は馬鹿にされることが多い。私は自分の演技を馬鹿にされることが多い。でもそうやって馬鹿にされてよかったのかもしれない。自分では制御できない苦しいことを自分で引き起こしてしまったり、人にされてしまったこともある、信じてたものが信じられなくなったこともある。自分がわからなくなってしまい、人に誤解されていると感じてもう息もできなくなりそうになったこともある。人を傷付けるつもりはなかったのにたくさん傷付けてしまった。愛を求め、愛を与えることができずに、悲しい思いをさせ、すべてを失った。孤独に1人で耐えるべきだった。もっと色々、人に良いことをすればよかった。後悔しても遅すぎる。怪獣くん、私こそが怪獣だ。殴ってごめんなさい」

チャックは、自分で自分の顔面をそっと殴りました。

スーパーマンはそれを見て言いました。

「ギブ・アップ」

レフェリーの木曽大介がゴングを要請しました。


スーパーマン「君の勝ちです、チャック。なぜなら私は君に負けたいから。この世で1番美しいパンチを見せてくれてありがとう。完敗です」

チャック「ありがとうクラーク。君は異星人だけど、君は私の家族だ。よかったらミドルネームにチャックを使ってくれ。クラーク・チャック・ケント」

スーパーマン「わあ! チャック! だめだめ! 勢いで私の正体がクラーク・ケントであることをバラしてますよ! もう!」

チャック「あ」

チャック「てへぺろ!」




スペシャルシングルマッチ
in蔵前メトロポリス国技館
〇チャック・ノリス [ 5分2秒 ギブアップ ] クラーク・ケント(スーパーマン)×


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